第509話 さっきこんな光景見たよ。的なお話
なんだ、これ。
手が……いや、手だけじゃない。
身体が動かせない。
なんだこれ。
金縛りか?
首だけは動くので身体を見てみれば、アデラードさんが足に、セフィアらリリンが身体に抱きついている。
これじゃあ、動けないわな。
って、やば。
トイレ行きたい。
でも動けない。
このままじゃやばいことになる!
うおおおおおぉぉぉぉ!!
なんのためのステータスだ。
ここで使わなくてなんとする!
◇
厳しい戦いだった。
セフィアとリリンからは簡単に解放されることができた。
でもアデラードさんはSSランクというだけあって拘束力も凄まじく、睡眠中で力が緩かったのが良かった。
もしも本気で拘束するつもりだったら絶対に抜け出せなかったと思う。
朝起きただけなのに無駄に疲れたよ。
「そうだった。まだこれがあったな……。」
部屋に戻った俺の目には散乱した酒瓶が入っている。
それにつまみ類を入れていた皿に溢れたつまみ。
脱がれた衣服。
そんなのが目に入ってくる。
「はぁ……片付けるか。」
えーと、まずは酒瓶を集めて、それから皿を下に持って行かないと。
それから……
「あ、お兄さん。お疲れ様です。」
「ルリエも手伝ってくれてるのか。」
「はい。良くやってましたから。」
「宿屋の娘だしそれもそうか。」
それだけじゃなく、ここ最近はアデラードさん来襲。
酒盛。
後片付けという流れだからな。
そりゃ慣れるか。
途中で起きてきたアカネとルリエも交えて片付けを行う。
そして溢れたつまみなんかを纏めてゴミとして出そうと部屋の外に行くとレイちゃんと遭遇する。
「あ、片付けしてくれてるんですね。ありがとうございます。」
「まあ、汚したのはこっちですから。それに俺の故郷にはこんな言葉もあるしね。立つ鳥跡を濁さずっていうのだけど、立ち去るときは綺麗にしてからっていう意味だけどね。」
「えっ!? ここを出て行くんですか!?」
「いや、そんなつもりはないけど。言い方が悪かったね。別にここを出て行くつもりがあるわけじゃなくて、そういう言葉があるから、使った場所は綺麗にするべきって考えちゃうってこと。」
「そうですか……良かった……。」
「やっぱりお別れは寂しいもんね。」
「はい。ルリエちゃんとは同じ宿屋の娘ということで話があって、友達になれましたし、みなさんもとても優しいので。」
「そっか。ルリエと仲良くしてくれてありがとうね。これからもよろしくね。」
「はい!」
やっぱりルリエと仲良くなっていたようだ。
…………………それはそれとして、あそこでやってるのはなんなのだろうか?
なんか、おっさんがハンカチを噛んでキーーッ! ってやってるんだけど。
それどこで知ったよ?
「あ、お父さん! ちょ、何コソコソ見てるの!」
「あ、やべ!」
「もーー! あ、レントさん。これからもよろしくお願いしますね。私はちょっと、これからお父さんを懲らしめてきますから。」
「あ、うん。ほどほどにね。」
ゴミを捨てて部屋に戻ろうとすると…
「やっばーい! 寝過ごした! エリーに怒られるー!」
そんな声が聞こえて部屋のドアが勢いよく開く。
危なっ!
「うわっ!」
「あ、ごめんレント! 昨日のご飯美味しかったよ! じゃあね。」
もうそんな時間なのか。
というか、アデラードさんに仕事があるのならリナさんにも仕事があるんじゃ………
どうせなら起こしてあげればいいのに。
仕方ないな。
「リナさん。起きてください。朝ですよ。」
「うぅ〜ん。あと28分……。」
「微妙! なんでそこで28分なんですか。せめて30分に……って、30分も寝てちゃダメですよ!」
「騒がしいな〜…………って、レレレレントさん!?」
レレレレントさんじゃないですよ。
レントさんです。
「そんな、朝からなんて……いえ、別に嫌というわけでは……むしろ、いつでも……」
「てい。」
「あいたっ!」
「起きた?」
「ふぇっ?」
「もう一発いく?」
「起きました起きました! だから打たないで!」
「ん。」
途中で起きてきたらしいリリンが脳天チョップをかましてリナさんを強制的に起こした。
なんで?
「仕事行かないと。」
「へ? あーーーー! 寝過ごした! エリーナ様に怒られるー!」
あれ?
さっきこんな光景見たよ。
「夕飯ありがとうございました! それじゃあ、いってきます!」
「あ、はい。いってらっしゃい。」
さて、俺たちは朝食でも食べるとするか。
2人のおかげでみんな目を覚ましたし、幸いなことに今日はみんな二日酔いになってないしな。
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