第503話 一応大義名分もあるし。的なお話

「ねぇ、私帰っていいかな?」


蒼井がなんか言ってる。

なんでそんなに帰りたいんだ?

雨だからかな?


「急にどうした?」

「急にどうした? じゃないわよ! なんで、あんたがイチャついてるのを見ながら食べないといけないのよ!」

「なんでって、アデラードさんのせいでルリエが食べられなくなってるからだろ。」


アデラードさんの殺気のせいでルリエは手の震えが止まらなくなっちゃったんだよな。

俺とリリンは問題ないが、他のみんなはルリエほどではないけど未だ恐怖が抜けてない。

そしてルリエはその震えのせいでうまく食べれなかった。

じゃあ、どうするか。

その答えがこれ。


「次は何がいい?」

「じゃあ、サラダを下さい。」

「ほいほい。はい、あーん。」

「あーん。」


震えのない俺が食べさせているのだ。

あ、次はルナか。


「はい、あーん。」

「あ、あーん。」

「全然分かってないでしょ!」


そう言われても困る。

ルナも食べづらそうだったから食べさせている。


「いくらアデラードさんのせいだったとしても、場所を考えろって言ってんのよ!」

「俺たち以外居ないんだが?」

「そうだった!」


雨だからな。

誰も居ない。

せいぜい、ギルドの職員がいるくらいだがその人達はまだ仕事をしているのか食べに来ていない。


「そういう蒼井は大丈夫か? アデラードさんのせいか全然進んでないが?」

「うっさい! アデラードさんのせいもあるけど、それ以上にあんたがイチャつくのがいけないのよ!」

「あのさ〜、本人の前で私のせい、私のせい連呼しないでほしいんだけど……。」

「でも実際にアデラードさんのせいだし。」

「うぐっ!」


反論すると言葉を詰まらせた。

と、ルリエが待ってるな。


「はい、あーん。」

「あーん。」

「次はルナね。はい、あーん。」

「あ、あーん。」

「あーん。」

「セフィアは食べられるだろ?」

「だって、羨ましいんだもん。」

「しょうがないな。はい、あーん。」

「あーん。」

「レント、私も。」

「リリンもか。」


なんか、餌を与える親鳥の気分だ。

でも、悪い気はしない。

こうやって食べさせるのも久しぶりだ。

前はちょくちょくやってたけど、昇格試験の時くらいから周りに人が増えて来ていつの間にかやらなくなって来たからな。

たまにはいいもんだな。


「……………。」

「シアも。はい、あーん。」

「わ、私はいいわよ。」

「でも羨ましそうに見てたし。」

「いや、その……」

「はい、あーん。」

「…………………あ、あーん。」

「もう帰っていい!?」


蒼井が爆発した。


その後も嫁達に食べさせたり食べさせてもらったりと存分にイチャつかせてもらった。


「あの、私も混ぜて下さいませんか?」

「あ、リナさんも食べる?」

「はい?」

「はい、あーん。」

「え、あの…………あ、あーん。」

「美味しい?」

「はい……幸せな味です……。」


つい食べさせてしまったが、どうやら混ぜてというのは一緒に食事をしてもいいですか? という意味だったらしい。

もちろん、拒絶する理由なんてないのだからそのまま一緒にお昼を食べる事に。

しかし! だからといってイチャつくのをやめる理由にはならない。

一応大義名分もあるし。


〜第三者視点〜


人目も憚らずイチャつくレントを見ている者がいた。

その者とは、ギルドの酒場で働いている給仕のお姉さんだ。

彼女は現在彼氏なし。

去年に彼氏の浮気が発覚したので手切れ金を貰ってその報酬としてビンタをあげてから別れたのだ。

そんなお姉さんはレントの周りにピンク色の空間を幻視してしまい思わずといった感じで目を擦る。

それくらい、レント達はイチャついていたのだ。

爆ぜればいいのに。


そんな風に目一杯イチャついていたレントは気づいていないが、彼には新たな称号が与えられた。

ピンク空間製造機という称号が。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る