第501話 俺の嫁はかわいいな。的なお話

シアとの模擬戦を終えて再びルリエの方を見てみるとすでに終わってた。

怪我はしてないようで良かった。


それとは別で向こうではルナがユキノに護身用の短剣の使い方を教わっている。

さらに別の場所ではアカネと蒼井が模擬戦をし、そことも違う場所でセフィアがリリンとやっている。


「うわ。あそこすごいわね。」

「そうだな。まあ、ウチで1番強いリリンと2番手か3番手のセフィアだからな。おまけに2人とも速さを武器にしてるから、ああなる。」


セフィアが一閃、二閃とするとリリンがそれを短刀で受け流しつつ側面に回り蹴りを入れようとする。

それを察知したセフィアが肘でガード。

空いた方の手で突きを放つがリリンはそれをさらに踏み込んで躱して短刀で一閃しようとする。

セフィアはバックステップで躱したと思ったら即座に接近して激突。

なんて戦闘をしてる。

この間僅か3秒。

俺、勝てるかな?

俺が2人と戦うとしたら、速攻で攻撃して足を止めさせて力技で押し切るしかないかな。


「お兄さ……」


ゾクリと。

突然得体の知れない恐怖が俺達を襲う。

その恐怖に当てられて、こっちに近づいて声をかけようとしていたルリエがその場に崩れ落ちる。

ルリエの後ろを歩いていたレイダさんも膝をつく。

かく言う俺も、身体が鉛になったような……。

全く、動けない。


「あーあ。やっぱり駄目だったか。」


アデラードさんの声が聞こえた。

途端に謎の恐怖が消えた。


「今のは……?」

「少し殺気を当ててみたんだ。まあ、結果はこの通りだったけどね。」


周りを見てみる。

ルリエは崩れ落ち、ルナも崩れ落ちてるようだった。

みんなも程度に差はあれどかなり堪えているよう………って、みんな模擬戦してたんだけど!?


「というか、何考えてんですか!? もしもみんなが怪我でもしたらどうするつもりだったんですか!?」

「大丈夫だよ。ちゃんとタイミング見計らってたから。」

「だとしても、他にもタイミングがあったでしょ! 突然なのは、まあ、いいとして。」

「いいんだ!?」

「突然だからこそ素の耐久力とかを測れるんでしょうから、それはいいんです。でも、危険がないタイミングとか他にいくらでもあるでしょ。休憩してる時とか。」

「でも、戦闘中だからこそ、精神力を測るのには丁度いいんだよ。」


理屈は分かるんだけど……。


「…………やるなら今度は時間を考えてくださいね。訓練に響くから。」

「あ、そうだね。今度からはそうするよ。」

「はぁ。まだ少し時間が早いですけど、お昼にします。今は続けられそうにないですから。」


今は11時26分。

まだちょっと早い。

でも仕方ないじゃないか。

みんなは殺気の影響ですぐに戦えるといる状態じゃない。


「みんな立てる?」

「あはは。腰抜けちゃった。今はちょっと無理かな。」

「なんとか。」

「まだ無理そうですー。」

「アデル義姉さんは全く……。私もまだ立てない。」

「こ、怖かった。」


訂正。

戦えるどころか立てる状況じゃなかった。

今自分の足で立ってるのは俺とリリンだけだったよ。

仕方ない。

このままここに座ってたら風邪を引きそうだし、ギルドの中に運ぶか。


「ちょっ!? レント!?」

「ずっとここにいても風邪引くからな。ちょっと我慢してくれよ。」


セフィアをお姫様抱っこしてギルドへと連れて行く。

そういえば、セフィアをお姫様抱っこしたのは初めてかも知れない。

どうせならこんな雨の日じゃなくてもっと晴れてて景色のいい場所でしたかったな。


「わー。これがお姫様抱っこされる感覚なんだ。」

「ごめんな。もう少しムードのいい時にしたかったんだけど。」

「ううん。いいよ。こうしてるだけで心があったかくなるから。ほら、手の震えも治まってるし。」

「そっか。それなら良かった。」


それから全員を俺が抱えてギルドへと連れて行くのだが、蒼井だけは自分で行くと意固地になっていた。

なんでも、お姫様抱っこは将来好きになる人のために取っておきたいそうだ。

意外と乙女なところがあるのな。

仕方ないので肩を貸すだけにとどめた。


「レント。私も歩けない。」

「リリンは歩けるよな!?」

「歩けない。」

「……………。」

「歩けない。」

「…………分かったよ。ほら。」

「ん。」

「なんで、歩けないなんて言ったんだよ。さっき普通に立ってたじゃないか。」

「羨ましかったから。後、歩けない。」


そんなこと言われたら拒めないだろ。

全く。

俺の嫁はかわいいな。

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