第483話 楽しみますか。的なお話

〜アカネ視点〜


「あれ? なんでアカネがいるんだ?」


レントが食堂に入ってきて開口一番、そんな事を言った。

グラハムさん……私の事言わなかったのね。


「お弁当持ってきてあげたわよ。」

「そうなのか。ありがとな。」


お弁当を受け取って開けたレントは首を傾げた。

あれ?

何かまずった?


「ん〜? なんか、いつもと違うような? なんだろう?」

「それ、私が作ったんだけど………何か変なところでも?」

「これ、アカネが作ったのか。なるほど、それでか。」

「え、な、何?」

「盛り付け方に違いがあるんだよ。それで違和感を感じたんだと思う。」

「そ、そう。それならいいんだけど。」


私だけで作るなんて、初めてのことじゃないかな?

そのせいですごくドキドキする。

うぅ。

まずいとか言われないかしら。

いや、でも、簡単なのだけにしたしそこまでセフィア達と差が出るはずないよね。

大丈夫。


「うん。美味い。」

「良かった……。」


手作り弁当を食べてもらうなんて前世含めて人生初ね。

ふふっ。

自分の作った物を美味しそうに食べてくれるってやっぱり嬉しいものね。

普段から料理を作るときは手伝ってたりするけど、主導で作ってるのはセフィア達だからね。

完全な手料理はこれが初めてなのよね。


「な、なんだよ? そんな出来の悪い弟を見るような目で見て。」

「なんでもないわ。ただ、完全な手料理を食べてもらうのはこれが初めてだなって思っただけ。」

「そ、そうか。」


戸惑いながらも、それ以上は聞かずに食べることに集中するレント。

その姿をぼんやり眺めながら考えた。


最初はただ、同じ世界出身で価値観が似てるってだけだった。

勢いで雇ってって言って、それから一緒に住むようになって、一緒に冒険者として仕事したりして、気づけば結構時間が経ってる。

雑に扱われたり、仲間として大切にしてもらったり、思い返せば色々あった。

一緒にいるのが心地よくて、地球の話題で楽しくお喋りができるのがうれしくて、日々を楽しく過ごしていれば自然と気持ちにも変化が現れるもので、気づけば好意的に、もっと言えば、片想いに近い感情を抱くようになっていた。

でも、実家のゴタゴタもあるし、セフィア達の事もあるから考えないようにしてた。

そうこうしているうちに、レントに怪我をさせることになって正直、ゾッとした。

私を庇って大怪我をさせて、下手をすれば死んでたかもしれなくて、宿に帰った晩にレントを喪う夢を見た。

すごく怖くて、それだけレントを大切に思ってるんだと思った。

きわめつけはさっきのあれ。

2人っきりで話してそれが楽しくてふと思ったの。

やっぱり私はこいつが好きなんだって。

でも、これからどうしようかな。

手紙にはもう書いちゃったし。

ま、もうしばらくは学校の仲のいい女友達みたいな関係を楽しみますか。


「そういえば、アカネは食わないのか?」

「え、ああ。自分の分は作ってないのよ。セフィア達が寝てるから私が代わりに作らなきゃって思っただけだったから、自分の分って考えはなかったのよ。」

「そうなのか。途中まで食っちまったけど、これ食うか?」

「いいわ。それはあんたのために作ったんだもの。全部食べて。」

「そうか。」


そう呟くと食事に戻るレント。


「ごちそうさまでした。」

「お粗末様です。さて、私はこれで帰るわね。」

「弁当ありがとな。助かった。」

「どういたしまして。お仕事がんばんなさいよ。」


そうして私はみんなの様子を見るために宿に帰った。

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