第366話 たったの68回的なお話

さっさとあいつらと離れたいので素振りはやめて朝食の準備を手伝おうと思った。

思ったんだが…………セフィア、リリン、ルリエ、レイダさん、アカネ、シア、ルナと料理ができる人がたくさんいて俺が混ざるとかえって邪魔になるということでいつも通り食材各種と調理器具、食器類などを出したらお払い箱となった。

…………素振りでもしてるか。


暇を持てあまりて始めた素振りだが、だからといっていい加減に振ればそのいい加減な太刀筋によって本来の太刀筋が乱れかねない。

せっかくここまで鍛えてきたのだから、これまでの自分の努力を裏切るようなことはすべきではない。

だから一振り一振り真剣に行う。


そんな俺をユキノはじっと見ている。

気が散る……


「あの、何か?」

「むっ。いやなに、少々癖が強いが鋭く鍛えられた太刀筋だなと思ってな。」

「癖が強い?」

「うむ。恐らくだがレントはこれまで剣術のちゃんとした師の教えを受けたことがないのではないか?」

「確かに、その通りだが?」


そりゃ、一年近く前までは現代日本でのんびり高校生をしてましたから。

それに剣道の剣は出来るだけ素早くコンパクトに相手に当てることに特化した物だと思う。

別に斬り殺すわけじゃなく、一本を取るだけでいいのだから必然的にそれに合わせた剣になっている。

中学とかで体育で軽くやってみたことはあるが、あれでは実戦……すなわち殺すのに向いていない。

故に、剣というものはこの世界に来てから覚えたものだ。

そんで、何々流みたいな流派の所に弟子入りなんかしてないのだから癖の一つや二つつくのは当然ということか。


「やはり……それ故の荒々しさというわけか。」

「そんなに酷いのか?」

「いや、酷いというわけではない。実戦に特化したものだと言っているのだ。このまま数十年鍛え続ければ我流として流派を興せるかもな。」

「いや、それはいいです。嫁達と幸せに暮らせればそれでいいので。」

「欲がないな……」


流派を興すとか面倒じゃん。

道場の管理に経理に門下生の募集、門下生が問題を起こせばこっちが悪くなる。

そんなの面倒くさすぎる。


「ご飯できたよ〜。」


ユキノとそんな事を話している間に朝食の準備が済んだようでセフィアが呼んでくれる。

はっ!

素振りたったの68回しか出来てない!


セフィア達の美味しい朝食を終えて野営道具やらなんやらといった物の片付ける。

立つ鳥跡を濁さずってね。

片付けも終わったので抜き足差し足忍び足。といった感じでこっそりと静か〜に四階層へ向かっていく。

まだ早い時間だし迷惑をかけないように……という建前で、本音は出来れば気づかれたくないからだ。

ま、無理だろうな。

セーフティーエリアとはいえ、迷賊だっているしモンスタートレイン行為をしてこないとも限らない。

いや、こんな浅い階層でモンスタートレインは無いか。

ともかく、何があるかわからないのに見張りすらなく爆睡するような馬鹿はすぐに死ぬだろう。

だから多分見張りがいる。

それでも、わざわざ大きな音を立てる理由なんてない。


四階層に降り立つと昨日のチャラいやつらはやはりいた。

予想通り見張りはいたがそいつは1人だけで、他の奴らは寝ている。

なので、見張りに軽く会釈して足早に去っていく。


四階層ではチャラいやつらと鉢合わせしないように最短ルートを駆け抜けていく。

戦闘メインとするのは五階層にしてサクサクと進んでいく。

この階層ではゴブリンやオークの単発、エレメントバットなんかと遭遇するが、そんなもの敵ではないとリリンやレイダさんがあっさりと斬り伏せていく。

そして移動する事3時間とかなりの速さで五階層へと続く階段前へとたどり着いた。

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