第51話 脇役高校生はモールに着く

「お? おお! 江橋さんおはよう! あ、それと遅かったな静哉!」


「おはようございます白木さん。お早い到着でしたね」


「おい、俺をついでのように呼ぶな。それと、俺たちは遅れてないぞ?」


 雅人は、一人モールの前でみんなを待っていた。モールの開店時間は平日は朝の十時だからまだギリギリ開いていないのだ。


 今日の集合時間はモールの開店に合わせた十時で、俺と江橋さんが着いたのが五分前で一ノ瀬さんはまだ来ていなかった。


「いやいやいや、お前は集合時間の三十分前に居るのが基本だろ? それが五分前だなんて……成長したなぁ……!」


「一体誰目線の感想なんだよ……」


「確かに日裏くんが一番最初にいるというのが当たり前のような感じがしますね……。でも、今日は私がゆっくりでしたので……」


「おいおい……。俺は……確かにいつも一番最初にいるな……」


 図書館に集合したときも、涼風と昨日集合したときもいつも俺が一番最初にいた気がする。いや、学校に着くのが一番なのと帰るのが一番早いのは高校になってからずっと続けていることだ。


 もはやライフワーク。一番最初にいるのが当たり前な感じすらしていた。


「おっ! もうみんな揃ってるじゃん! というか、中に入らないの?」


「おはよう一ノ瀬さん! って、もう十時過ぎてるから入れるじゃねぇか!」


「もう十時ってことは、今日は一ノ瀬さんが珍しく遅刻してたのか。まぁ、今日のような暑い日は誰かさんのように早すぎるってのも良くないからな」


「おい静哉! 聞こえてるからな! あとそれいつもの静哉にも言えることだからな?」


「ふふっ。確かにそうですね。とりあえず、汗をかいてしまう前に中に入りませんか?」


 俺たちは開店したてのモールの中へと入っていく。モールの中はエアコンが効いていて、暑い外から来た俺たちにとっては天国のような空間だった。


 そして俺たちは、当初の目的通り夏服を見るために洋服屋に向かう。


「そういえば、明梨ちゃんは今日どうして遅れたんですか? あ、特に深い意味があるわけではなく、ただ単に珍しいなと思っただけで……」


「いやぁ、SNSを見てたら家を出るのが遅くなっちゃって! ほんとは五分前には着いてる予定だったんだけどSNSを見てたら気がつかなくて……ね?」


「何か面白いものでもあったのですか?」


「いやぁ、私的に眼福と言いますか? 私的に面白いと言うか最高だと言いますか?」


「へぇ……どんなものを見てたん? 今日は特にトレンドで面白そうなものはないと思うけど」


 SNS、俺も昨日始めたけれど、トレンドとかちょっとよくわからないことを話し始めてしまった。俺が知っているのは呟きと返信と投稿とエゴサ位だ。


 エゴサ以外はSNSをやるうえでの基本スキルのようなものだし、俺の知識が浅すぎた。江橋さんも俺と同じような表情をしているから多分仲間だ。


「うーん……。トレンドっちゃあトレンドだけど、昨日のトレンドかな?」


「……というと?」


「昨日のトレンドで私が熱中するのは光生様のことに決まってるじゃない!」


「……え?」


 普通に転ぶかと思った。そういえば初めて一ノ瀬さんと会話したときも、神代光生って言いまくっていたらせめてさんを付けろと言われたんだった……。


 いや、というかトレンドって何?日本語に訳すと傾向だけど、もしかしてみんなが見た投稿の傾向みたいなやつ?それに俺が載ってるの?


「あー! あれな! 初めての呟きで炎上したモデルってやつな! あれは笑ったわ。どこか抜けてたり、必ず何かしらしくじってるみたいな感じ……なぁ?」


「いやいやいや! それが良いんじゃない! 見た目は完璧なイケメンモデルは少し抜けてる天然系! 正直、昨日の件で元々いたファンが少し減ったかもしれないけど、それ以上にギャップ萌えにやられた新規のファンが急増されたはずよ! だからむしろファンの質は上がった! ねっ! 麗華もそう思うでしょ?」


「え? えぇ……。確かにどこか抜けてたり、そのせいで大きなミスに繋がってましたね……」


 え、何?俺のファンが増えたの?ギャップ萌えって何?褒められてる感じはするけど、悪口を言われているようにしか思えない……。


 それと江橋さんが言っているのは俺の弁当のミスか?それとも名前で呼んだことか?似たバッグを持って行ったことなのか!?とりあえず、SNSのことについて話がついていけてない仲間だということだけは分かった。


「まっ! 私が見てたのは水族館のことについてなんだけどね!」


「水族館?」


「そう! ただでさえ街中での光生様目撃の情報は少ないのに、なんと! 同じ事務所の麻倉明華と一緒に次の雑誌の服を宣伝するために水族館に行ったのです!」


「おぉ! 明華たん!」


 俺は雅人を二度見した。明華たんって呼んでるの……?えぇ……。えぇ……?そういう呼ばれ方をされていたことは知っていたけれど、まさかこんな近くにいたとは……。


「その水族館の情報を見てにやけていたのです! 麗華にも後でURL送る?」


「そ、それはお願いしたいかもですが……それより! 洋服を見ましょう! 時間は有限なのですから!」


「え、ちょっと麗華!? 何か誤魔化してない?」


「そ、そんなことありませんよ? あ、この服なんか良さげです。試着してきましょうかね!」


 服屋に着いた瞬間江橋さんがテキパキ動き始めた。毎年新しい服だったり流行の服じゃないと色々言われると涼風も言っていたし、沢山選ばなければいけないのだろう。


 しかし、俺は服を買う予定はない。


「なぁ……俺って座って待っていてもいい系?」


「ダメだよ!」


「ダメです。変じゃないかどうか聞くので居てください」


「静哉も見るだけ見ようぜ?」


 ですよねっ!

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