第64話


「先生」

 パーティーの人ごみの中、依頼主に一つ仕事を頼まれたVが医者をさがす。

「あぁ、君か。仕事はおわったのかい?」

「えぇ、もう終わりです。3日後には代表団と一緒に首都に帰ることになるかと思います」

「そうか。短い間だったけど、助かったよ。余計なおせっかいだけど、君は冒険者なんかよりもっといい道があるはずだ」

「自分でも考えたことはありますが、だめですね。今の仕事に慣れちゃって。そこから抜け出す自分が見えない」

「そうか。まぁ、人生そんなもんなのかもな」


「それで、一つお願いがあるんです」

「なんだい?」

「冒険者の遺体ですが、依頼主が一度見会いたいと」

「それはまずいよ。確かに騎士団から遺体を預かったが、それはA国に提出する書類の最終チェックを頼まれたからだ」


 帝国では検死という制度は正式に導入されていない。

 検視(変死体の事件性を調べること)の一環とて同様のことを行うが、統一的な運用基準はなく、大抵は騎士団内部の医療技術者か知識がある魔法使いが行うが、たまに外部の医者に委託する。

 この土地の騎士団ではA国の検死ルールをまねて、医者に見せることにしている。


「書類が正式に受理されたら火葬して骨を首都の商人に送ることになってる。なじみの商人が身元引受人として名乗り出たそうだ。だから頼むなら騎士団の方に頼んでくれ」

「そういうわけにはいかないんです」

「どういうわけだ」

「それも話しにくくて。何か、騒ぎにならず遺体を確認する方法ってありませんか」


 少し考える医者。


「無理だなぁ。近親者、家族、親戚、友人、そういった人間なら道義的な話で見せることになるけど、そうじゃなかったらね」


 こんどは少し考えるV。


「その、これから話す話は天地がひっくり返っても黙っていてくれる。という約束をしてほしいのですが」


 この国は法と官僚組織で動く国だからこそ、道徳と倫理が重んじられる。

 そして、その二つはVも、目の前の田舎医者も重んじる物。


 

 そんな風景を見せながら、パーティーは続く。


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