第47話
辺境公、隊長、団長、冒険者一行の会談から3日後
女帝再臨。辺境の地の争いを収めるため出陣する
貴族の世界において「女帝」の名で知られたかの女貴族がこの度復活した。
A国との領有権問題がある土地とその土地で起きた殺人事件。その争いを収めんがため、皇帝より一任された委任状を持ち現場責任者として現地に飛ぶことになったのだ。
すでに引退し古びた屋敷に住む老婆となっていたかの女帝がなぜ今回復活したか、その意図などは一切不明だが、まだ正式な報告が帝国に届く前にどこかから聞きつけ首都の貴族や各種種族の権力者、官公庁などに働きかけを行い一人で全責任を確保するその政治的手練れはいまだ健在である。
予定ではかの女貴族は本日首都を出発し・・・(後略)
首都で発行される大衆紙より引用。
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
馬車の中に座っている記者がそう言った。
相手は女帝と記事に書かれている女貴族の老婆。格好は、時季外れの休暇を楽しむ老婆といった格好。
どう考えてもこれから外国との政治闘争に出陣する感じではない。
「女帝、というのは皇帝陛下に対して不敬じゃありませんか」
「庶民向けですから、女傑と呼ばれた女、よりもわかりやすい二つ名の方がいいんですよ。それに実際、女帝と呼ぶ人もいますし」
「そうですか。それ以外はいいですね。もっと派手な書き口を考えてましたが」
この記者も女帝には世話になった口なので、記事を書いてほしいと言われればいくらでも書く。それにこれも十分スクープ。
A国との領土問題とそれに絡む殺人事件。
なぜか出てくる女帝と呼ばれる女貴族。
社交界の駆け引きと政治的問題、そして殺人はいつでも1面を賑わす。
「あの、しかし、お約束通りなぜ向かうのかとは聞きませんが、随分と早耳ではありませんか。首都の官僚たちがこの問題を把握する前に動き出していたでしょう?そしてなんでこんな記事を書かせたんですか?」
「記事にはしないと約束するならいいですが」
「もちろんいたしません」
その答えを聞いた老婆は窓の外を見ながら続ける。
「帝国の官僚組織では早馬より早く手紙や情報を送りたい場合、ドラゴンを使うのは知っているでしょう?」
首都を離れるのは久しぶり。あの子もこの道を通ったのかしら。
「えぇドラゴンは誠実ですし、今の所帝国とは友好的な関係を結んでいるの納得した上で平時の金銭契約なら条約や協定に反さないとかなんとかって理由だったと思いますが。あと人も乗れますし」
ただしこれはあくまでもごく一部の、本当に急いで情報を送りたい時の話ではある
「えぇ、そうです。ですから、それらを前提としないのであれば、ドラゴンよりも早く情報を届けることができる生き物はたくさんいますし、どこかから聞いた話を私の所に伝えてくれる者も居るんです」
「はぁ」
理屈はわかる。
ドラゴンより早く動くモンスターはいるし、どこかから漏れてきた話を聞きつける情報通はどこにでもいる。
わかるが、目の前の老婆はドラゴンよりも素早く動き、話を伝えることができる上級モンスターなどとも友好的な関係にあって、首都からでも辺境の地の情報収集ができるということか。
恐ろしい人だ。女帝呼ばれるだけはある。
「この記事をあなたに書いていただいた理由ですが、この記事は、そう、演劇の前口上ですよ」
「前口上って、これから始まるのは云々という」
「えぇ、私の登場を大々的に宣言するには、今の時代、新聞が一番ですからね」
そういって老婆はまた窓の外を見た。
遠くに山脈が見える。あの山の上にも雪が積もるまでに私はあの家に帰れるだろうか。
その老婆の横顔を見て、もう何を聞いても答えてくれないであろうと考えた記者は
「寒くなりますから、毛布をどうぞ。あと10日はかかるという話です」
と言って馬車に積んであった毛布を老婆に渡す。
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