第15話
「そうか、興味を持ったものは何でも撮ったらいいのか。当り前のことなのに自分で自分を狭めてただけなんだね」
「共感していただけますか」
「するする。これから理々子のこと師匠って呼ぼうかな」
「やめてください! そんなことされたら死んでしまいます」
「分かった分かった、呼ばないから。とりあえず今日のところは何を撮りますか、師匠」
「美乃里さ~ん、やめましょうよー」
「おもしろーい。理々子からかうと言葉遣いが普通っぽくなる~」
「え、そうですか」
「うん、師匠」
「だーかーらー、やめてくださいって」
「あっはっは」
「もー、美乃里さんは何か撮りたいものはないんですか」
「あたしかぁ。あたしは何が撮りたいのかなぁ」
「すごく興味あります」
「んーなんだろうなぁ。でもここにこうしているきっかけが主将の一枚の写真なんだよね。だから、やっぱり主将みたいな写真が撮ってみたいな」
「え、ご覧になったのはどんな写真ですか」
「『光溢』って分かる? ギャラリーで気がついたら二時間以上も観てたんだよね」
「二時間もですか? ひとつの作品をですか?」
「そー」
「それは相当なことですね。余程感動されたんですね」
「感動、っていうのかな? とにかく写真から目を離すことが全然出来なかったんだよね」
「わたくしもそんな人の心を捉える写真を撮りたいです。憧れます」
「で、その写真がスッゴク欲しくなっちゃってさぁ、貰えないかと思って写真部に行っただけなんだよね。なのになぜか今はこうしてカメラ持って理々子と歩いている、と」
「え?」
というなり理々子が腰を折って崩れた。
最初は具合でも悪くなったのかと思ったが、よく見ると声も立てずに笑っているようだった。それを見て美乃里はシマッタと思ったがもう遅かった。
「スゴイです! 美乃里さん、反則です!」
しばらくして一生懸命笑いこらえながら理々子が訴えた。
「ねぇ、お願いだから麗佳には絶対に言わないでね。麗佳だけには知られたくないわ」
「はぁはぁ・・・・・・そうですね。麗佳さんが知ったらどんな風になるか本当に分かりませんね。わたくし一人の胸の奥底にそっと仕舞い込んでお墓まで持ってまいります」
「ありがとう。そこまで理々子が言ってくれるのはものすごくうれしいんだけど、主将も副将もアイツも知ってるんだよね」
「あいつというのは加農先輩のことですか」
「そう」
「え? 何で皆さんご存じなんですか」
「入部するつもりなんかまったくなかったんだけど『入部希望じゃなきゃ何で来たか?』って問い詰められて、言わざるを得なくなっちゃったのよ」
「い、言ってしまわれたんですか」
「違うのよ、ホントはね、目が離せなくなっちゃった写真を撮った主将にどうしても会ってみたくてね。で、万が一つにも写真が貰えるとしたらどんなにいいだろうな、ってね」
「ひぃ、」といったまま理々子はその場にしゃがみ込んでしまった。
今度は具合が悪くなったのかとは思わなかった。美乃里はかなり長い間その場に立って待つ羽目になった。
「本当にごめんなさい! 笑うつもりはないんです。美乃里さん、かわいすぎます」
「ううん、理々子が謝ることじゃないのよ」
「でも、知らないのが麗佳さんだけなのでは知れるのも時間の問題のようにも思います」
「そうよね~。とくにアイツが怪しいよね」
「加農先輩ですか」
「そうそう」
「どうして美乃里さんはそんなに加農先輩がお嫌いなんですか」
「うん、ちょっとね。・・・・・・まぁどうでもいいじゃない」
「わたくし、絶対に言いませんから。麗佳さんには言わないです」
そっけない美乃里の態度を気分を害したのかと勘違いした理々子が慌ててフォローする。
「ううん、理々子のことは信じてるよ、ありがとう。これ以上話してるともっと墓穴掘りそうだから、この話はここまでにしない? で、何の話してたんだっけ」
「どんな写真を撮ればいいのかという話だったと思います」
言いにくそうに理々子が上目遣いで告げる。
「あ、そうか。そうだったね、ごめんごめん」
美乃里が笑ったことで理々子も少しはホッとしたようだ。
「もうお怒りではないですか」
「え、怒ってないよ最初っから。理々子にそう思わせちゃった? 悪かったね」
「いいえ、美乃里さんのご機嫌がお悪くないならよかったです」
「それであたしは主将の写真に心を奪われちゃった訳だから、主将の写真を超えるような写真を撮りたいわね、やっぱり」
「え。超えてしまわれるんですか」
「まぁあくまでも目標は高く、ね」
「なるほど。ということは風景写真ということですね」
「うん、どういうジャンル分けがあるのか分からないんだけどそういうことになるのかな」
「分かりました。わたくしもお付き合いいたします。でしたら海岸でも行ってみますか」
「そーね。ありきたりかもしれないけど行ってみたい。主将の作品も海だったしね」
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