第93話 空中での会議

「いや……ポメリィさんの気持ちはわかるけど、それって解決になるの?」


 俺は半ば自分に言い聞かせるようにして、ポメリィさんに語りかけた。

 なぜなら、俺だってこの現状を快く思ってないからだ。


 本音を言うならば、いますぐ精霊に協力を求めた上で南の町まで駆けつけたい。

 多くの人を不幸にしている現況をぶっ潰したい。


 しかし、それではダメなのだ。

 だが、彼女はぐっと拳を握り締めて俺に反論する。


「でも、女の子がさらわれて怖い思いをしているのに、何もせずにいるんですか?

 そんなの、トシキさんらしくないですぅ」


「何もしたくないとはいわないけど、その前に自分のするべきことをよく考えないと。

 考え無しに行動したら、いろんな人を巻き込んで不幸にするよ。

 それって正しいの?」


 そう、こんな状況を見て何もせずにいるのは、たしかに自分の理念に反する。

 でも、自分の感情のままに行動するのは子供か獣のすることだ。

 なにより、智の神の使徒のとる行動ではない。 

 だから、俺は彼女に問いかけた。


「……うっ、でも!!」


 言葉につまり、思わずテーブルの前に乗り出した彼女の前で、俺は牽制するようにテーブルを掌で叩いた。

 もっとも、この子供の体ではペチンとしけた音がするだけ。

 どうにもこの体では色々と都合が悪いな。


「こんな事態だからこそ、冷静に。

 とりあえずこれからのことを考えよう。

 でも、場所が悪いな。

 ジスベアード、上に行くぞ」


「上って、あれか!?」


 当然、俺たちが乗ってきた船のことである。

 いや、あれはもはや浮遊図書館島とでもいうべきか。


 俺の提案に、ジスベアードが目を見開く。

 言っている意味が分からないわけでもあるまいに。

 嫌なのか?

 まぁ、嫌だろうな。

 俺が逆の立場でも、そんなわけの分からない場所に行くのはそう思う。


「ほかに何があるんだよ。

 あ、アドルフ。

 石化の呪いは解いておいてくれよ。

 放置しておいても、俺のイメージが悪くなるだけだから」


 俺はアドルフが聞いていることを前提にそう告げると、ヒョイと椅子から飛び降りてゴンドラに向かった。


「あ、待ってくださいよぉ」


 あわててポメリィさんが追ってくるけど、ジスベアードが来るまで動かせないんだからあわてなくてもいいのに。

 本当にそういうそそっかしいところかわらないなぁ。


 自警団の連中は誰が話し合いに参加するかで色々ともめていたようだが、結局ジスベアードだけが来るようである。

 正直、俺もそのほうが楽なのでありがたい。


 さて、あの船の中のどこで会議をするかだが……あんまり奥まで入ると俺やポメリィさんも迷子になりかねないからな。

 そういえば、ゴンドラの乗り降りをする場所はステーションセンターになっていて、これも空港のラウンジみたいな場所や何に使うか分からない部屋がいくつもあったな。

 よし、そこにするか。


 俺はステーションセンターの一室に関係者を集めると、さっそく今後の方針を決める会議を始めることにした。


「まず、最悪の事態を考えよう」


 机に肘を突いて手を組んだ状態で、俺はそう切り出す。


「考えうる最悪の事態は、怒り狂った火山の神によってこのあたり一帯が人の住めない場所になってしまうこと」


 確認するために周囲を見渡すと、誰もが大きく頷いた。

 まず、これを避けることを前提で俺たちは動かなきゃならない。


「次に、領主の娘が花嫁として差し出されてしまうこと」


 これを次にもってきたのは、たとえ火山の神が鎮まっても、俺たちにとってハッピーエンドではないからである。

 だが、この問題提起にジスベアードは微妙な顔をした。


「いや、それを回避したら町が……」


「火山の神の件を最優先にしただろ。

 お姫様を差し出さなくてもすむ方法をなんとか考えるんだよ」


 こいつの最優先にすべき事案は町の人間の安全と平和だからな。

 たとえお姫様を犠牲にしても、こいつは町を優先するだろう。


 そのためにあのキンキラキンたちと連携を取って意見をゴリ押ししてくると俺も色々とやりくいからな。

 会議の場をこちらのホームでやらせてもらったのも、そのあたりが理由だ。


「具体的な方法は後だ。

 今は方針について話し合っている段階いだからな」


「ちっ、わかったよ。

 ほんと、お前可愛くないな」


「ほっとけ。

 つづいてどうにかしたいことだが……。

 まず、個人的になんとかしたいのは森の神の神殿の腐敗だな」


「あれはひどいですよぉ。

 一度ぶっつぶしちゃったほうがいいんじゃないでしょうか?」


 ポメリィさんの物騒な意見に、異を唱えるものはいない。

 やれやれ、なんとも過激な奴ばっかりが集まったものだ。


「まぁ、つぶす方法は後で考えるとして、これも決定……っと。

 さしあたって、問題はこれけだけかな」


「領主の性格が悪いのはどうするんですかぁ」


「それについては俺の考えることじゃない。

 あとでマルコフルにでも手紙で知らせるぐらいだな」


「むぅ……なんかスッキリしないです」


 気持ちはわかるが、俺たちが宗教をバックボーンにしている以上、うかつに政治へ干渉するべきではないというのが俺の考えだ。

 さもないと、あとあと面倒な場面に担ぎ上げられそうだからな。


「さて、では具体的な行動について話をしようか。

 ……とはいえ、何をするにもお姫様の身柄が必要になるのは間違いない」


 それが、現在のところ唯一の火山の神への対策なのだから。


「お姫様の救出ですね!

 はやく助けてあげないと!」


 それを本人が望んでいればいいんだけどな。

 戻っても生贄になるのが分かっているならば、このまま南の街にとどまることを選ぶ可能性もある。


「そうなると、南の町を襲撃するしかないな。

 数で攻めるのか?

 あの魔羊の群れをけしかければあっという間に攻め滅ぼせるだろうが……」


「いや、少数精鋭での潜入作戦を提案する。

 お姫様が巻き込まれたり、あとは自棄を起こした連中に殺される可能性もあるらな。

 あと、町の人に被害を出したら、南の町の騎士と同じになってしまう」


「たしかなそうだな。

 しかし、隠密行動か……あまり得意じゃねぇなぁ」


「私もわりと苦手ですぅ」


 そこまで話が進んだそのときである。

 下に続く階段のほうから聞き覚えのある声がした。


「お前ら、面白いことをしようとしておるようじゃのぉ」


「うげっ、ドランケンフローラ!?」


 なんでお前がここにいる?

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