色々ごたごた その3
「……なんだったんだ、一体……」
夕食のごたごたを終えた俺は、ソファに座って思わず苦笑していた。
小鳥遊の事をあれこれ考えながら帰宅した俺だったんだが、
「おう、待っとったぞ!」
「婿殿、お帰りなさいませ」
そんな俺を出迎えてくれたのは、小鳥遊の爺さん婆さんコンビだった。
いや……婆さんは小鳥遊の花嫁修業としてしばらく通ってくるっていうのは事前に聞いていたからわかるんだが、なぜに爺さんまで……
「まぁ、そう言うな! ひよりんの様子をワシだって見ておきたいじゃないか! ……それにワシだって婆さんが家にいないと寂しいからなぁ」
豪快に笑いながらそんな事を言っていた爺さんなんだけど……寂しいって方が本音のような気がしないでもなかったわけで……
まぁ、そんなわけで4人での夕食を満喫したわけなんだけど、途中から酒が入ったもんだから、
「貴様! 本当にひよりんを幸せに出来るんじゃろうな!」
と、ひよりんLOVE全開な爺さんに、
「ひよりんはどんな感じなのですか? 主に夜の方面に関して詳しくお聞きいたしたいのですが……」
と、昼ドラ脳全開な婆さんと、まぁ……いろんな意味でカオスになったもんだから、せっかくの晩飯の味がいまいちよくわからなかったんだよな……
「……しかしまぁ、賑やかなのも悪くないな」
思わずそんな事を口にした俺なんだけど……コミュ障の小鳥遊なんだけど、爺さんと婆さんが相手だとその症状もまったくなくて、むしろ普通の女性的な反応に終始していたもんだから、なんだか新鮮な感じがしたんだよな。
婆さんに、根掘り葉掘り聞かれまくっていた際には真っ赤になって俯いていたもんだから、助け船を出すのが一苦労だった。すぐに爺さんが酒を勧めてくるし……
夕飯の際のごたごたを思い出していた俺の側に、小鳥遊が歩み寄ってきた。
「……あ、あの……き、今日は申し訳ありませんでした」
「いやいや、謝ることはないって。俺も楽しかったしな」
「……そ、そう言ってもらえると嬉しいです……2人とも、とっても大切な人なので……」
うつむきながら嬉しそうに微笑んでいる小鳥遊。
なんか、そんな表情を見ていると、思わずキュンとなってしまうわけで……っていうか、アラフォーのおっさんが胸キュンしても、キモいだけな気がしないでもないんだけど……とりあえず、俺は小鳥遊の肩を抱き寄せた。
「そうだな、小鳥遊と結婚したら、俺もあの2人の義理の息子になるわけだし、なんだか楽しみだな」
ニカッと笑みを浮かべる俺。
そんな俺の笑顔を上目使いで見つめていた小鳥遊なんだけど、
「……あ、あの……ひ、ひとつお願いしてもいいでしょうか……」
おずおずとした様子でそんなことを言ってきた。
「あぁ、なんだ? 遠慮はいらないから何でも言ってくれ」
「……は、はい……あの……お、お言葉に甘えさせて頂きまして……」
何度か深呼吸を繰り返すと、意を決した様子で俺の顔を再度見上げてきた小鳥遊。
「……い、家の中では……そ、その……名前で呼んで頂きたいのですが……」
「名前……って、あぁ、そっか」
そういえば、家でも職場と同じように
『小鳥遊』
って呼んでたな、俺。
結婚したら、俺の姓になるわけだし……
「そ、そうだな……わ、わかったよひより」
改めて小鳥遊の事を名前呼びしたんだが……なんだろう、意識して呼ぶとすごく小っ恥ずかしいというか、妙にドキドキしてしまうんだが……
小鳥遊はというと……俺に名前で呼ばれたのが嬉しいのか、両手で口元を押さえながら俯いていた。
耳まで真っ赤になっているんだけど、手の隙間から垣間見える口元には笑みが浮かんでいるみたいだし、よしとするか……
しかし、あれなんだよな……
酒が入っている俺は、そんな小鳥遊の横顔を見ていると、いつも以上に首筋が色っぽく見えるというか……胸元に何度も視線がもっていかれるというか……
で、そんな俺の視線に気がついたのか、小鳥遊は、
「……しよ?」
上目使いでそんな破壊ワードを口にしてきたわけで……
思えば、会社で始めて出会った時も小鳥遊の胸に視線を持っていかれてしまったわけなんだけど……あの時は思いっきり変態扱いされたんだよな……
そんな事を思い出しながら、俺は小鳥遊をお姫様で抱きかかえて、俺の部屋へと移動していった。
◇◇
「あ、パパ! おはようございます」
ディルセイバークエストにログインした俺に、最初に駆け寄ってきたのはクーリだった。
「お父様! お待ちしておりましたわ!」
遅れて、フリテリナが駆け寄ってくる。
フリテリナは、リビングの机で何かしていたらしく、机の上に裁縫道具が置かれていた。
「おはよう2人とも。ところでフリテリナ、そこで何をしていたんだい?」
「はい、テテさんからお裁縫を教えて頂きましたので早速ぬいぐるみを作っていたのですわ」
にっこり微笑むフリテリナ。
改めて机の上に視線を向けると……毛玉みたいな物を布で作った玉の中に詰めている最中だったようだ。
「パパ! その毛はポロッカの毛なんだベア!」
そんな俺の元に駆け寄ってきたポロッカが、えっへん!とばかりに胸を張った。
「へぇ、あんなに毛がとれるんだ」
「はい、ポロッカちゃんの毛繕いをしたらたまったんです」
確かにポロッカは大型の熊型モンスターだし、抜け毛を集めるのは簡単だと思うんだけど……まさかそんなところまで再現しているとはなぁ。
ディルセイバークエストの奥深さを改めて重し知らされた気がしたんだけど……おそらく、こういった設定は内政担当の古村さんが構築しているんだろうけど……そりゃ、サポートスタッフも欲しくなるよな……
運営からのお知らせログで、内政関係のアップデートが立て続けに行われていたのを確認した俺は、改めて古村さんの事を心の中で労っておいた。
ちなみに、内政関係のアップデートはすべてリアルタイムで行われていたので、ゲームが中断されることはなかった。
「討伐系イベントが開催される際には、事前に数時間単位でログイン出来なくなるだけにちょっと意外な気がするな……」
「討伐系のイベントの際は、イベントフィールドの構成をすべて変更する必要があるんだから、リアルタイムで地形まで変化してしまうと、いきなり湖の底になったり、崖から落下したりしちゃうんだからね!」
俺より少し遅れてログインしたエカテリナが、いつものツンデレ口調で教えてくれたんだけど……さっきまでの寝室での小鳥遊の姿を思い出すと、そのあまりにも、な、ギャップのせいで思わずドキッとしてしまうんだが……い、いかんいかん、アラフォーのおっさんの胸キュンなんてキモいだけなんだから、マジで自重しないとな、うん……
そんなエカテリナには、クーリとフリテリナが笑顔で抱きついていた。
「ママ! おはようございます!」
「お母様、お待ちしてましたわ」
2人の嬉しそうな声を聞いていると、俺まで笑顔になってしまう。
なんていうか、やっぱ子供っていいな……
3人の様子を笑顔で見つめていた俺なんだけど、
「あ、フリフリ村長さん!」
そんな俺の元に、エナーサちゃんが駆け寄ってきた。
「やぁ、エナーサちゃん。どうかしたのかい?」
「はい、ちょっとお願いしたいことがあるんです」
「お願い?」
エナーサちゃんの言葉に首をひねる俺。
よく見ると、エナーサちゃんの後ろに2人の男女が立っていた。
NPCを現す逆三角形のカーソルが胸にないところをみると、2人ともプレイヤーみたいだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます