なんか色々と忙しくなった気が…… その3
ほどなくして、俺と小鳥遊は夕食を共にしていた。
肉じゃが
コロッケ
野菜サラダと漬物
味噌汁
豆ご飯
ぶっちゃけ、どれも俺の大好物だったりする。
特に、コロッケと豆ご飯なんだが、行きつけの定食屋でもよく個別注文している品なんだ。
しかし、小鳥遊にその事を話した事はなかったはずなんだけど……
「……あの、今日、いつもの定食屋さんで……女将さんが教えてくれたの」
頬を真っ赤にしながらそう言った小鳥遊。
そういえば、一緒に定食屋に行った時に、何やら女将さんに呼ばれていたけど……あれって、俺の好みを教えてもらっていたのか?
「女将さん、何か言ってたのか?」
「……えっと……が、頑張ってね、って……」
そう言うと、さらに顔を真っ赤にしながらうつむいてしまった小鳥遊。
その……なんだ……女将さんには俺達が付き合い始めたことは報告していないんだけど……仕草とか、雰囲気とかでバレてしまったのかもしれないな。
そのあたりは、さすがはベテランの接客業ってことなのかもしれない。
なんでも、店の味付けも教えてもらっていたらしく、
「うん、この豆ご飯の味付け、すごくいいな! コロッケもすごく美味いよ」
お世辞抜きで、どれもすごく美味かったんだ。
長年あの定食屋に通っていただけに、女将さんには俺の好みまで知られていたってことなのかもしれないけど、そのおかげで、こうして小鳥遊の美味い料理を
食べることが出来るわけだし、なんとありがたいことか。
しかも、一緒に食べてくれる相手までいるわけだ。
今まで、ぼっちでコンビニ弁当が大半だった俺の夕食が、まさかこんなに賑やかになるなんてなぁ……そう考えると、ディルセイバークエストをやってよかったってことになるのかもしれないな。
あのゲームがあったおかげで、小鳥遊と結婚前提で付き合う事になったわけだし。
「あ、あの……そういえば、ディルセイバークエストで大型アップデートがあるみたい……」
「へぇ、今度は何がくるんだ?」
「新しい大陸が開放されるみたい……」
小鳥遊の話によると……
ディルセイバークエストの世界は、クライス大陸と呼ばれる世界が舞台になっていて、その中に様々なエリアが存在している。
ゾンビ系モンスターが出現するエリアや、ドラゴン系モンスターが出現するエリアといった具合に、イベントの度に大陸の一部が開放されていたそうなんだけど……
「以前から噂されていた、南の大陸が実装されるみたい……」
「南の大陸か……なんか、南と聞くと南国リゾートとか想像しちまうな」
そういえば、ゲーム内で表示される全体マップにも、南の方に大きな島があった気がするけど、おそらくそこの事なんだろう。
「……なんか、内政にも、大がかりな追加要素が加わるみたい」
「へぇ、それは俺的にはすごく楽しみだな」
しかしあれだな……まさか、飯を食いながらゲームの話をする日がこようとは……
まてよ……
内政系にアップデートってことは、内政系の責任者をやっている古村さんの仕事も増えているってことなんじゃないか?
そういえば、最近ゲーム内で古村さんが中の人を務めているファムさんと出会うことも少なかったし……さらに古村さんの家の前にすごい荷物が届いていたし……結構すごい事になっているんじゃないか……?
ここ数日、トイレを借りに来ることもなくなっていたし……単にトイレまでの道を確保出来たんじゃあ……って思っていたんだけど、なんか嫌な予感がしないでもないというか……
とりあえず、プライベートメールで様子伺いでもしておくか……
◇◇
晩飯を終えた俺達は、一緒に片づけをして、風呂を済ませた。
さすがに、風呂は別々なんだが……気のせいか、小鳥遊が風呂に行く前にチラチラと俺の方を見ていた気がしないでもないんだが……
い、いや……その、なんだ……さ、さすがに一緒にお風呂っていうのは、色々と心の準備がだな……って、なんで40近くにもなって学生みたいなヘタレを噛ましているんだろうな、俺ってば。
小鳥遊が風呂に入っている間に、古村さんにメールを送ってみた。
「大型アプデがあるみたいだけど、大丈夫ですか?」
すると、5秒も経たないうちに返信が来た。
『あはは、ひろっち心配してくれて感謝感激ぃ! 色々あれこれデスマーチすぎて異世界で狂想曲でも奏でちゃいそうだけど、なんとかだいじょうヴイ!』
最後のヴイのところがモーション付き絵文字になっているのが古村さんらしい気がしたんだが……メールの内容からして、とりあえず無事そうだけど……
「あんま無理しすぎないでくださいね。体調優先で」
とりあえず、労いのメールを返しておいた。
古村さんの場合、無意識のうちに自分の限界を超えちゃってる感じがするからなぁ……ボサボサの髪で、フラフラしながら電車に乗っていた古村さんの姿を思い出すと、今のように在宅で仕事が出来ている方が彼女の為にも良いのかも知れないと思えなくもないというか……そもそも、そこまで追い込まれる程の仕事量なのが問題な気がしないでもないんだが……
そんな事を考えていると、再び古村さんから返信。
『そんな事を言われたら濡れちゃうじゃん! 責任とって結婚して!』
……おいおい……何なんだよ、この妙なテンションは……
その内容に苦笑する俺だった。
◇◇
小鳥遊に続いて風呂に入った俺。
しかしあれだな……風呂上がりの小鳥遊なんだが……ダボダボのトレーナーを羽織っただけで、濡れた髪の毛を拭きながら出てくる姿の破壊力は、ちょっと尋常じゃないというか……思わず前屈みになりながら風呂へ急いだ俺。
しかしあれだな……
小鳥遊が俺の部署の久々の新人だったわけなんだけど、その小鳥遊が予想以上に戦力になっているのが人事の上の方でも評価されているらしく……
『今度、武藤係長の部署で職場体験をしてもらう予定になっていますので、よろしくお願いしますね』
出張途中の社内で、そんな事を東雲さんに言われたんだよな。
今までは総務で行っていたはずなんだけど、まさか俺のところに話がくるとはなぁ……
今まで色々と問題を起こしてきた俺だけに、あれこれ考えてしまうんだが……とりあえず東雲さんの期待を裏切らないように頑張らないとな。
風呂から上がると……
「あれ?」
いつもなら、ソファに座ってゲーム待ちをしているはずの小鳥遊なんだけど、リビングにその姿がなかった。
「小鳥遊?」
声をかけながら俺の部屋へ移動していくと……俺のベッドに小鳥遊が腰掛けていた。
膝の上に、ログイン用のヘルメットを乗せている小鳥遊。
「……あの……しよ?」
そう言った小鳥遊なんだけど……ヘルメットを被ろうとはしない。
その代わりに、俺の顔を見つめながら目を閉じて……
これの場合、あれだよな……ゲームをしよって意味じゃなくて……
◇◇
目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。
うん、間違いない。
ディルセイバークエストの中にある、俺の自宅の天井だ。
フリフリとしてゲームにログインした俺は、ベッドの上で上半身を起こした。
「パパ! おはようだベア!」
そんな俺に真っ先に駆け寄ってきたのは、ポロッカだった。
熊のモンスターのポロッカだけど、人の言葉を話すことが出来るポロッカ。
「あぁ、おはようポロッカ。今日もよろしくな」
「こちらこそよろしくだベア……でも、パパ、今日はいつもよりログインするのが遅かったベアね?」
ポロッカの言葉に、思わず咳き込んでしまう俺。
い、いや……その、なんだ……げ、ゲームの前に小鳥遊とちょっといたしていたからなんて、間違っても言えないし……
「あ、あぁ、ちょっと色々あってな。そ、それよりも、何か変わったことはなかったか?」
慌てて話題を変えようとする俺。
そんな俺を見つめながら、ポロッカは嬉しそうな声をあげた。
「ベア! とっても変わったことがあったベア!」
ポロッカがそう言うと同時に、ポロッカの肩の上から何かが顔を出した。
ポロッカの背中をよじ登ってきたらしいその何かなんだけど……
「え? 子供?」
そう……顔を出したのは、男の子と女の子だった。
……っていうか、おかしいな……昨日連れてきた仲間キャラの中には子供はいなかったはずなんだけど……
そんな事を考えている俺の事を、ポロッカの肩の上から顔を出した2人の子供がジッと見つめていたんだけど、その頭上に、
『フリフリとエカテリナの子供 名前を決めてください』
ってウイドウが表示されていた。
……って……え? は?
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