ようやく戻ってきたアイツ その2

「あ……え、えっと、それでですね……あれ? どこまでお話しましたっけ?」


 俺に荷物の説明をしてくれているスーガ竜(人型)なんだけど、窓の外で作業しているブランの事が気になりすぎて、心ここにあらず状態なもんだから、話が一向に進まない。

 その姿を見ていると、なんか微笑ましく思えてしまう。


「説明は後でいいからさ、ブランを手伝ってやってくれないか? アイツは力持ちだけど、女の子だしさ」

「え? い、いいんですか!?」

「あぁ、よろしく頼むよ」

「わ、わかりましたぁ!」


 満面の笑みを浮かべながら駆けだしていったスーガ竜。

 ……しかし、ブランに手伝いを申し出たところ、

『いや、必要ない。一人で十分だ』

 って言われて、手伝いを拒否されていた。

 それでも、

『そこをなんとか!』

 必死になって食い下がっていく姿を見ていると、応援したくなるんだよな。


「まぁまぁまぁ、なんだかアオハルですわねぇ」


 そんな事を考えている俺の背後に、リサナ神様が歩み寄ってきた。

 

「あぁ、なんか微笑ましいよな」

「えぇえぇえぇ、暖かく見守ってあげたいですわね」


 ブランの後を必死になっておいかけているスーガ竜。

 そんな2人に向かって、リサナ神様は、両手を組み合わせて祈りを捧げていた。

 

◇◇


 倉庫へ移動すると、


「あ、フリフリ村長さんおはようございます」


 テテが出迎えてくれた。


「やぁ、テテ。いつもありがとう」

「いえいえ、これも村長代理のお仕事ですから」


 俺の言葉ににっこり笑みを返してくれるテテ。

 俺がログアウトしている間の村の事を、テテが一手に引き受けてくれているおかげでホントに助かっているんだよな。


「ご報告します。

 村での薬品づくりレベルがあがりまして、SS級回復ポーションを5%の確率で生成出来るようになりました。

 それにともないまして、SS級以上の薬品素材アイテムを採取することが可能になり、同時に採取の阻害をするSS級モンスターが解放されました……」


 最近のテテは、俺がいない間の村の状況を報告してくれるんだ。

 以前はなかったんだけど、テテによると、


『村のレベルが一定値を超えると行うようにプログラムされているんです』


 ってことらしい。

 つまり、それだけ村が順調に発展している証拠ってことだろうな。

 

 ……ちなみに


 この報告を行っているテテの頭上には


『スキップ』


 って文字が浮かび上がっていて、報告の途中にこのボタンをクリックすると、


『……途中ですが、報告を終了します』


 といった具合に、報告を中断させることが出来る。

 なお、省略した報告の内容は過去ログで確認する仕組みになっている。


 今日の俺は、テテの報告を最後まで聞いていた。

 ドラゴン族との交易の事や、アンテナショップの事が気になっていたからなんだけど、テテによると、


「ドラゴン族との交易は2時間前から無事はじまりました。スーガ竜さんが初荷を運んで来てくださいましたので、私が中身を確認して受領しています。

 ドラゴン族の武具は現在開催されているイベントの重要アイテムですので、トリミさんを派遣して追加の商品を受け取ってくるようお願いしています。

 アンテナショップは、リトリサ女神見習いさんが営業を続けてくださっています。品切れになって何度か閉店していますが、概ね順調に営業を続けています。

 なお、新店舗はまだ準備中のため解放されていません。

 解放まであと、1日と8時間です」


 って事らしい。

 テテは、俺の質問にいつも丁寧に返事を返してくれるので本当に助かるんだよな。

 これって、以前はファムさんの役目だったんだけどね。


「ブランを派遣出来たらいいんだけど、さすがになぁ……」


 ブランはブラックドラゴンなので、モンスター化するとかなりの巨体なんだ。

 なので、一度に運べる商品の量も多いはずなんだけど……


 さすがに、ドラゴン族の村で恐れられていたブラックドラゴンを派遣するわけにはいかないもんな。


 そんな事を考えている俺の前で、テテがにっこり微笑んだ。

 

「あら、フリフリ村長さん。トリミも存在進化したので問題ありませんよ」

「え?」


 テテの言葉と同時に、俺の周囲が影に包まれた。

 上空を見上げると……


「あ、フリフリ村長はん、ちょっとドラゴン族の村まで行ってくるね」


 俺の上空をトリミが通過していった……んだけど……

 その姿が、以前のトリミよりも一回り近く大きくなっていた。

 例えるなら……懐かしの某悪魔系ヒーロー漫画に出てくる、妖鳥の異名をもってた悪魔みたいな姿とでも言うんだろうか……

 そんな姿になったトリミは、鳥状の足ででっかい木箱を鷲づかみにしていた。


「存在進化したトリミは飛行輸送に特化したスキルを所持していますので、物資の輸送に関してはブラン以上の能力を有しているんです」

「はぁ……」

 

 テテの説明を聞きながら、そのあまりの代わり具合に目を丸くしている俺。

 

「と、とにかく気を付けてな」

「おおきに、フリフリ村長はん。ほな行ってくるわ!」


 俺に手を振り替えしながら、トリミは元気に羽根を羽ばたかせながら大空へ舞い上がっていった。


 なんか……みんなどんどん頼もしくなってくるな……俺も負けないように頑張らないと。


「ドラゴン族の村から武具が入手出来るようになったわけだし、新しい宣伝方法を考えた方がいいか」


 腕組みをしながら考えを巡らせていく俺。


「あ、それでしたら心配されなくれも大丈夫だと思いますよ」 


 そんな俺の横で、テテは俺の前にウインドウを表示させた。

 現在開催されているドラゴンイベントのランキングみたいなんだけど……


「……うわ、すごいな……」


 思わず目が点になった俺。

 このランキングって、リアルタイムで更新されているみたいなんだけど……エカテリナの名前がすごい勢いでランキングを駆け上がっていたんだ。

 見ている間に、2,3人ずつごぼう抜きにしている。

 最近のエカテリナは、俺に同行することが多くてこのイベントには参加していなかったんだよな。

 いくつかの攻略サイトでもそのことが話題になっていたんだけど……本気で参加したエカテリナはっやっぱすごいってことか。


「今回は、ドラゴン族の武具を装備したエカテリナさんが、同じ武具を装備したポロッカとグリンのレベル上げを兼ねて一緒にイベントに参加しているのですが……」


 ここで、もう一枚ウインドウを表示させるテテ。

 そこには、ドラゴンをイメージした鎧兜を着込んでいるエカテリナ・ポロッカ・グリンの姿が映し出されていた。

 ポロッカとグリンには小型のドラゴンの相手を任せて、自分は大柄なドラゴンに立ち向かっていくエカテリナ。

 その手の巨大な剣でドラゴンを撃ち倒す度に、

『このドラゴン族の武具は、ログインの街のメタポンタ村のアンテナショップで数量限定で販売されているんだからね!』

 そう雄叫びをあげていた。

 その度に、その周囲から、

『すげぇ……討伐事にボーナスポイントが付与されてる』

『攻撃力にも補正がかかっているのか』

『こりゃ、今すぐに買いにいかないと』

 そんな声があがりまくっていた。


「……確かに、これは十分すぎる宣伝になっているな」


 ……まぁ、仕事を休んでゲームをしていた事に関しては、後で注意をしておかないとな……と、思いはするものの、その原因は俺とイタしたことなんだし……さて、どう切り出したもんか……しかし、昨夜の小鳥遊ってば……


 昨夜の事を思い出し、思わず表情が緩んでしまう。


 そんな俺の前では、勇ましくも美しいエカテリナの姿が映し出されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る