ようやく戻ってきたアイツ その1
そんなこんなで、色んなことがあった翌日。
俺と小鳥遊は色んな事を話しあった。
その結果、
・住まいに関しては、このまま俺のマンションで一緒に暮らす。
・仕事はこれからも続けたい。
・家事は分担して行う。
そんな事を取り決めた。
一応、結婚前提の付き合いをはじめたわけだし、あのじいさんともコミュニケーションをとらないとな。
「俺、小鳥遊のじいさんに嫌われてなきゃいいんだが……」
何しろ、小鳥遊の事を親代わりとして育ててきた人だしな。
前回の時は割と好感触だった気がしないでもなかったんだけど……とにかく、色々と気を引き締めておかないとな、うん。
……って
いくら結婚を前提とはいえ、正式に付き合いはじめて1日も経ってないっていうのに、何を考えているんだ、俺は……
元カノ達に、
『武藤君って、なんか重いのよねぇ』
って言われ続けた意味が、今更ながらだけど理解出来た気がする。
まぁ、でも……
女性と付き合いのなら中途半端な事はしたくないし、そう思う事が別段悪いとも思ってはいないんだが……
でもまぁ、間違いないのは、今ここに小鳥遊がいて、俺はこいつを守っていきたいと思っていること。
なんか、父性を刺激された気がしないでもないんだけど……それはそれでって事かな。
◇◇
んで、今日から仕事なわけで、俺はいつもの電車に乗って会社へ向かった。
集団風邪の影響だろう、車内はかなり空いている。
早苗ちゃんも、学校が臨時休校中で出歩けないって、ゲームの中で会った時に言ってたっけ。
まぁ、でも、これだけ空いていれば痴漢に遭う心配もなさそうだけどな。
……ちなみに
今日は小鳥遊はお休みだ。
うん……その……なんだ……改まって言うとアレなんだが……昨夜、はじめてアレな関係になった俺と小鳥遊だったわけなんだが……その……小鳥遊ってば、はじめてだったもんだから、立ち上がることが出来なくなっていてだな……それでも出勤しようとしていた小鳥遊なんだけど、生まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせている姿を見るにつけ、
『今日はゆっくり休め』
そう言って、部屋に置いてきた次第なんだ。
そのベッドにしても、小鳥遊がはじめてだった証みたいなものが結構派手にアレだったもんだから、朝からシーツを全取っ替えしたりして結構ドタバタだった。
そんなこんなで、職場についた俺はいつものように仕事をこなしていった。
RRRRR……
ん? 内線か。
「はい、武藤です」
『東雲です。お忙しい中申し訳ありません、今、お時間よろしいですか?』
「はい、大丈夫です」
『実は、先日同行頂きました倉庫の件で先方から条件提示がありまして、急遽その打ち合わせに行くことになりまして、午後から同行願えないかと思いまして』
「はい、わかりました。大丈夫ですよ」
『急に申し訳ありません。では、お昼前に出発して、どこかで食事を食べてから向かいましょう』
「了解です。出発する際にもう一回連絡ください」
そんなわけで、東雲課長と例の会社に出向くことになった。
以前、東雲さんから告白めいた事を言われた事があったわけなんだけど……小鳥遊とそういう関係になった以上、もし、また言われるようならはっきりと言わないとな……
そう思っていた俺だったんだけど。
昼飯を食べている間も、往復の車の中でも、そんな話題は一切出なかった。
「今日はお世話になりました。私は社用車を戻してから帰社しますので」
「じゃあ、ここで」
会社前で下車した俺は、東雲課長が運転している社用車を見送ったわけなんだけど……まぁ、仕事中なわけだし……東雲課長の性格からして、公私の区別はきっちりつけているって事なのかもしれないな。
ただ、このまま小鳥遊とのルームシェアを続けるのなら、きちんと届出もしないといけないだろうし……そうなると、当然人事に届出をしないといけないわけだし……嫌でも東雲課長に報告があがる事になるわけだし……
あ、そういえば……東雲課長ってば、俺の左手を妙に気にしていた気がするんだけど……
俺の左手、何かついてたっけ……
改めて確認してみると……俺の小指に指輪がはまっていた。
あぁ、これってば、ディルセイバークエストのコラボ商品のおまけでついてた指輪じゃないか。
お付き合い開始記念ってことでお互いにはめる事にしたんだけど、俺の指が太すぎたのと、商品のサイズが小さすぎたせいで小指にしか入らなかったんだよな。
でもまぁ、ディルセイバークエストの結婚イベント実装記念の商品なんだし、まぁ、このゲームが縁でこんな関係になることが出来たわけだし、俺達にはちょうどいいかもしれないな。
……おっと、そんな事よりも、今日の報告書をあげないとな。
慌てて部署に戻った俺は、今日の報告書を作成していった。
そういえば、本契約の際には上の役職の人が同席するって言ってたな。
そん時はさすがに俺はお役御免だろう。
そんな事を考えながら、報告書を仕上げていった。
◇◇
いつものように、定時に仕事を切り上げた俺は、
『お前らも早く帰れよ~』
部下達に笑顔で声をかけながら会社を後にした。
「……そういえば、小鳥遊のヤツ、何かいるものがあるかな?」
まだ歩くのが困難かもしてないし、買って帰ってやるかと思ったものの……どうせなら一緒に買いに行ってみるか、と、思ったりもして……
結局、そのまま帰宅した俺。
そんな俺の視線の先、ベッドの中では小鳥遊が横になっていた。
頭にはディルセイバークエストのヘルメットを被っている。
……うん、まぁ、そうなるんじゃないかな、って気もしてたけどね
苦笑しながら小鳥遊を見つめる俺。
「そうだな、夕食までの間くらいなら俺も付き合うとするか」
自分のヘルメットを取ってきた俺は、それを被ると小鳥遊の隣に潜りこんでいった。
◇◇
目を開けると……すっかりお馴染みになった天井が広がっていた。
うん、間違いない、ディルセイバークエスト内にある俺の自宅の天井だ。
「あ! パパ、おはようだベア」
最初に駆け寄って来たのは、ポロッカだった。
魔獣の熊の姿そのまんまのポロッカが、俺に抱きついて頬をすり寄せてくる。
そのモフモフ感がすごくリアルで、なんだか気持ちいいんだよな。
「おはようポロッカ。ママは来なかったかい?」
「ママは、イベントに参戦しに行ってるベア」
そういえば、先日から新しいイベントが始まっていたんだっけ。
確か、ドラゴン騎兵を討伐するとかいうヤツだったかな。
まぁ、内政にしか興味がない俺には無関係なお話なんだけど。
そんな事を考えていると、
「あ、フリフリ村長さんおはようございます!」
俺の部屋に駆け込んでくる男性が1人。
「あ、あれ? アンタって、確か……」
「はい! ドラゴンの村のスーガ竜です! お久しぶりです!」
そう自己紹介した男性~スーガ竜なんだけど……確かに久しぶりなんだよな。
システムのバグ的な感じで接触出来てしまったスーガ竜は、運営側が強制的に封印していたんだけど……
「そっか、正式に俺の村にこれるようになったんだ」
「はい! やっとたどりつけましたぁ……ほ、本当に苦労したんですよ。いくらこの村にたどり着こうとしても、一向に近づけなくて……村に帰ったら村長に怒られるし、でも何度向かっても何故かたどりつけないし……」
涙ながらにこれまでの状況を語っているスーガ竜なんだけど……運営もそこまでリアルな設定を盛り込まなくても……なんて事を思ってしまった。
「そ、それで……今日から交易をはじめてもらえるのかな?」
「えぇ、そりゃあもう! 最初の荷物は、すでに奥様にお買い上げ頂きました。他の荷物はテテ村長代理さんに立ち会ってもらって、倉庫に納品させてもらいました」
……あぁ、なるほど
エカテリナのヤツってば、ドラゴン族の武具を手に入れたもんだから、いてもたってもいられなくなって討伐に向かったんだろうな。
まぁ、でも、それもエカテリナらしい、か。
んで、そんなことを考えている俺の前で、スーガ竜はしきりと窓の外を気にしていたんだが……その視線の先には、木箱を運んでいるブランの姿があったわけで……あ、そっか、スーガ竜ってば、ブランのことをまだ思っていたのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます