女神様×女神様 その5

 子作り云々で言い合いになったテテとエカテリナだったんだけど、2人が言い合いをしていると、


「え? パパの子供ベア!? ポロッカも欲しいベア!」

「な、なんじゃと!? 主殿の子を成すじゃと! ならば妾も引くわけにはいかぬ!」


 何を勘違いしたのかポロッカとラミコまで駆け寄って来て、


「あ、あのでしゅね、私もすっごく興味があるんでしゅ、そういうのって」


 さらに、エナーサちゃんもおずおずと手をあげながら近づいて来て、


「……その、げ、ゲームの中で、ですもんね……で、でしたら私も立候補してもいいですよね?」


 そこに、イースさんまで加わってくるという……なんかもうカオスな事この上ない状況になってしまい、


「ですので、私がフリフリ村長さんと子を成すのは、皆様の、ひいては村のためでもありまして……」

「そんなのどうでもいいベア! ポロッカは大好きなパパの子供を作りたいベア!」

「ならぬ! そなたは主殿の子供という設定であろう! ならばここはしがらみのない妾が人肌脱ぐべき案件であろう!」

「だ、だったら、私はリアルで旦那様と子作りしたっていいんだからね!」

「あの……わ、私、そういう事に興味津々といいましゅか……ふ、フリフリ村長さんだったら、私……」

「ゲームの中だし、子供を持つのも楽しいかもしれませんね。私は別にかまいませんけど……」


 俺の周囲を取り囲んでいるみんなが好き勝手に盛り上がってしまい、もう何がなんだか……


 そんな状況化で俺が出来ることと言えば、


「た、頼むから、みんな落ち着いてくれぇ!」


 ひたすら悲鳴をあげることくらいしか無かったわけです、はい。


◇◇


「……な、なんか今日はすごかったな」


 ログイン用のヘルメットを外した俺は、苦笑しながら天井を見上げていた。

 ゲーム内ではなく、実際に俺が住んでいる部屋の天井に間違いない。


「店の事はリトリサ女神見習いにお願いしてきたし……あと、子作り云々に関しては、1日経てばみんなも落ち着いているだろうからなんとかなるだろう、うん」


 ……半分、願望を込めながらそんな事を呟く俺


「……あ、あの……」


 不意に、俺の膝の上から声が聞こえてきた。

 っていうか、俺の膝の上に座っているのは、小鳥遊しかいないわけで……当然、その声の主は小鳥遊ってことになる。


「あれ? 小鳥遊もログアウトしたのか?」


 いつもなら、俺がログアウトした後はモンスター討伐に向かうはずの小鳥遊だけに、ちょっと違和感を感じてしまう。


 俺の問いかけに、小さく頷いた小鳥遊なんだけど……上から見下ろす格好になっている小鳥遊の耳まで真っ赤になっているのがわかる。


 ……って、これはあれか……さっきのゲーム内での騒動の事を気にしているんだろうな……って、そういえばエカテリナってば、カオス状態の時に、

『だ、だったら、私はリアルで旦那様と子作りしたっていいんだからね!』

 っとか、言ってなかったか?


 ……その言葉を思い出すと……な、なんか俺まで小っ恥ずかしくなってくるというか……


「し、しかしアレだな。今日は色々すごかったよな。地下通路が出来たり、リトリサが存在進化したりして」


 あえて子作りの件には触れることなく、笑顔で話しかける俺。

 そんな俺の膝の上にちょこんと座っている小鳥遊は、俺の言葉に小さく頷いているんだけど……相変わらずうつむき加減のまま、耳まで赤くし続けていた。


「……あ、あの……」

「ど、どうした? 小鳥遊」

「……さ、先ほどは……げ、ゲームの中とはいえ……わ、私……と、とんでもないことを……」


 その言葉と同時に、小鳥遊の耳がさっきよりも赤みを増していった。

 気のせいか、小鳥遊の体温も高くなっているような気がしないでもない。

 今の小鳥遊は、俺の膝の上に座っているわけで……その体温を直に感じる事が出来るわけだし……俺の方がかなり背が高いのもあって、見下ろせば、ダボッとしたトレーナーを着ている小鳥遊の胸の谷間まで……って、ど、どこを見てるんだよ、俺ってば……


「あ、あぁ……な、なんか妙な話題で盛り上がってた時もあったよな。まぁ、あれだ。宴会のノリというか、その場の雰囲気というか……と、とにかく、まぁ、ゲームの中の出来事なんだし、そう気にするなって。そ、それよりも、明日も仕事なんだしそろそろ寝るとするか……」


 わざとお気楽な口調で話しかける俺。

 そうでもしないと、なんか妙な雰囲気になりかねないと思ったからなんだけど……そんな俺の前で、小鳥遊は首を左右に振った。


 ……って、え? ……ね、寝ないっていうのか?

 ……って、え? ……そ、それって、まさか……


 小鳥遊のゲーム内での発言を思い出して、思わず生唾を飲み込む俺。

 い、いや……あの、た、小鳥遊はだな会社の部下であって、住むところがなくなってしまうという緊急事態を回避するために仕方なく俺とルームシェアしているだけで

あってだな……


 頭の中で思考をフル回転していると、小鳥遊は壁を指さした。

 その指の先には、カレンダーがかけてあるんだけど、それを指さしている小鳥遊。


「……あ、明日は……お休み、です」

「あ、あぁ、そっか……休みだったっけ」


 小鳥遊の言葉を聞き、改めてカレンダーを見返した俺は、そこで明日が休みだったことを思い出した。


「そ、そういやぁ、そうだったな。すまん、なんか色々ありすぎてすっかり忘れちまってたよ」


 笑いながら、小鳥遊に言葉を返す俺。

 そんな俺の腕の中で、小鳥遊がクスリと笑みを浮かべた。


「……む、武藤係長でも、うっかりすることがあるんだ……」

「そりゃそうさ。そんなのしょっちゅうだぞ。そんなだから、万年係長なんてありがたくないあだ名を付けられているくらいなんだからな」


 おどけた口調の俺なんだけど……理由はともかく、万年係長のあだ名は事実なだけに少し悲しくなってしまうんだが、俺の言葉を聞いた小鳥遊は、再び首を左右に振った。


「武藤係長は、私のヒーローです……とってもあったかくって、とっても優しくて……そして……」


 ポスッ


 いきなり俺に背中を預けてくる小鳥遊。

 いつものように軽くではなく、全身を俺に預けてきた感じだ。

 体が俺の方に傾斜した事で、小鳥遊の胸の谷間がいつも以上によく見えるというか……た、確かに胸がでかい小鳥遊なんだけど、この光景は破壊力ありすぎるだろ……


 その光景に思わず目を奪われていた俺なんだけど……小鳥遊がそんな俺の顔を見上げて来た。

 その視線に気がついた俺は、慌てて視線をカレンダーへ向けた。


「そ、そうだな……明日は休みだし、お前の新居探しを兼ねて、飯でも食いに……」

「……あの……」


 俺の言葉を遮るようにして、小鳥遊が口を開いた。


「……しよ?」


 毎晩のように聞いている小鳥遊の台詞。

 しかし、今の言葉は、いつもの台詞とはニュアンスが違っている気がしないでもない。


 顔を赤らめながら、俺の顔を見上げながら……それでいて、両手で抱えているログイン用のヘルメットを体の横に置いている小鳥遊。

 明らかに、

『一緒にゲーム、しよ?』

 って意味ではない……ような気がするんだが……


 薄明かりの中、見つめあう俺と小鳥遊。

 落ち着こうとしているんだが……何故か心臓がバクバクしている……何か言わないと、と思っているんだけど、何故か言葉が出てこなくて……


 ……コンコン


 その時だった。

 俺の部屋の扉が小さくノックされた。

 その音に、ビクッと体を震わせる俺と小鳥遊。

 座ったまま、数十センチ飛び上がったような気がしないでもない。

 そんな俺と小鳥遊の耳に、


「や、夜分に申し訳ありません~……あ、あの~申し訳ありませんが、ちょ、ちょっとおトイレを貸して頂きたく……」 


 か細い声が聞こえてきたんだが……間違いない、この声はお隣の古村さんだ……

 っていうか、古村さんってばまだ荷物の整理が出来てないのか……


「わ、わかった、今行くから」


 慌てて立ち上がる俺。

 小鳥遊も、うつむきながら小走りに自室へと戻っていった。


 ……しかし、もし古村さんが来なかったら……


 そんな事を考えながら、俺は玄関へ向かっていた。


 


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