女神様×女神様 その3

 俺達が地下通路を通ってメタポンタ村へ戻ると、


「あ、フリフリ村長しゃん! おかえりなしゃい!」


 エナーサちゃんがいつものように噛み噛みになりながら出迎えてくれた。

 その横には、イースさんの姿もあった。


「ただいまエナーサちゃん、それにイースさんも出迎えありがとうございます」

「フリフリさんも、ご苦労様でした。それにしても、これが新しく出来た地下通路なんですね」


 イースさんは、俺と言葉を交わしながらも、周囲の様子を見回し続けていた。


「地下通路を使って、店まで来てくれればよかったのに、今日はあれこれあって結構楽しかったですよ」


 そんなイースさんに笑顔で声をかけると、


「エナーサちゃんと一緒に、そうさせて頂こうとしたのですが……」

「え? 何か問題がありました?」

「えぇ、ちょっと……」


 イースさんは苦笑しながら説明してくれた。


 なんでも、この地下通路を利用して俺達を追いかけようとしたところ、


『地下通路をプレイヤーが使用するためには地下通路の所有プレイヤーと一緒でないといけません』

『地下通路の使用可能者オーバー(移動出来るプレイヤーは所有プレイヤーともう1人だけです)』


 そんなウインドウが表示されて、利用出来なかったそうなんだ。


「へぇ……そんなウインドウが……」


 残念そうな表情を浮かべているイースさんと、

「私も利用したかったでしゅ!」

 飛び跳ねながら頬を膨らませているエナーサちゃんと会話を交わしていると、ファムさんが歩み寄ってきた。


「この地下通路は、ゲームバランスを崩しかねないアイテムですので、使用制限がかかっているんですよ」

「ゲームバランスを崩す? ……でも、店に荷物を運ぶくらいで……」


 腕組みをしながら首をひねっている俺。

 その横に、エカテリナが歩み寄ってきた。


「旦那様のように、内政系で使用しているのには問題ないと思いますわ。でも、地下通路をモンスター討伐に利用するとなると、かなり問題が生じるんだからね!」

「え? そ、そうなの?」

「えぇ、レアモンスターが出現するエリアって、通常のモンスターがたくさん出現するエリアを踏破しないとたどり着けないの。でも、この地下通路があれば、通常モンスターの出現エリアを無視することが可能になるんだからね!」


 普段からモンスター討伐をしない俺なもんだから、いまいちピンとこないんだけど、エカテリナの様子からして、この地下通路がすごい事だって言うことは理解出来た。


「まぁ、この地下通路に関しては店への移動以外に使用する気はないし、さっきの話だとNPCは無制限に利用出来るみたいだし……」

「いえいえ、NPCの利用にも制限はありまして……」

「え? そうなの、ファムさん」

「えぇ、同行可能なNPCの数と種族が、プレイヤーよりも多いというだけで、同行可能人数には上限があるんです。それに、所有プレイヤーと一緒という条件もありますので」

「え? じゃ、じゃあ、この地下通路って、俺がログインしている時しか使えないってことなの?」


 ファムさんの説明を聞いた俺は思わず目を丸くしてしまった。

 この地下通路があれば、俺がログインしていない間も、店に品物を運び込むことが出来て、店を営業出来ると思っていたんだけど……ファムさんの説明だと、それは無理ってことになってしまう。

 ラミコに運搬をお願い出来ればいいんだけど、

『主殿と一緒でないとやる気がでないのじゃ』

 と言うばかりで、絶対に引き受けてくれないんだけど……ひょっとしたら、これも制限ってことなのかもしれないな。


「店の営業が安定出来ると思ったけど……なかなか上手くいかないもんだなぁ」


 思わずぼやき声を上げた俺なんだけど、


「そこまで悲観することはないかもしれませんよ」


 そう言いながら俺の元に駆け寄って来たのは、リトリサだった。


「あのですね、フリフリ村長さん。今日1日でいっぱい接客をしたおかげで、私、存在進化が可能になったんです」

「え? 進化?」


 女神様の進化といえば……昼ドラ大好き駄女神様だったリサナ神様をコンコンとお説教した結果、ようやく真面目な女神様になったあのイベントを思い出すんだけど……い、いや待て……今日の様子を見ていると、今でも真面目になったとは言い切れないというか……


 クレイントーラ神様と掛け合い漫才よろしく言い合いをしていたリサナ神様の様子を思い出していた俺なんだけど、そんな俺の前でリトリサは胸の前で両手を組み合わせた。


「私、お店で修行したことにより商売神としてのスキルに目覚めたんです……今から私は商売神『リトリサ女神見習い』です!」


 そう言うと、リトリサの体が光り輝きはじめた。

 リサナ神様とそっくりな衣装を身にまとっていたリトリサなんだけど、その衣装が紋付き羽織袴姿に変化……っていっても、上はヘソ出しだし、袴はミニスカ状態だし……萌え要素がふんだんに盛り込まれているのは、まぁ、お約束なんだろうけど……んで、右手に小槌、左手で大きな袋を背負っている姿って……あぁ、これ、大黒様か……


「改めましてフリフリ村長さん。商売女神見習いに進化した私をよろしくお願いしますの! そ~れ商売繁盛!」


 いきなり陽気に踊り始めたリトリサ改めリトリサ女神見習いなんだけど、そこにリサナ神様が血相を変えて駆け寄ってきた。


「ちょちょちょ、ちょっとリトリサ!? あああ、あなたは私の妹キャラでしょう? そそそ、それがなんで商売女神とかいう、クレイントーラと同系統の俗物にまみれた女神にシフトチェンジしているのですか! まだ、見習いですし、今からでも遅くはありません、慈愛のスキルを習得して、改めて私の妹分に存在進化を……」

「ちょっと、誰が俗物にまみれてるのよ!」


 リトリサの肩を掴んで、前後に揺さぶっていたリサナ神様。

 その肩を、クレイントーラ神様がガッシと掴んだ。

 互いに向き合うと、額をぶつけ合っていく2人の女神様。


「だってだってだって、言葉通りではありませんか? 金のためならなんでもするなんて、俗俗しいったらありませんわ!」

「何よ! お金がなかったら、あなたの神殿だって維持出来ないのよ!? あなたの信者だって生きていけないのよ!? そこんとこわかってる!?」


 ……なんか、またどつき漫才がはじまってしまったわけなんですけど……その周囲に何故か村人のNPC達が集まってきて、


「あぁ、女神様の説法だ……」

「なんて尊い……」

「リサナ神様……クレイントーラ神様……」


 ……なんか、言い合いしている2人を拝んだり、跪いたり、涙を流したり、って……ちょっと、何、このカオスな空間……


 苦笑しながら、言い合いを続けている駄女神様2人を見つめていると、そんな俺の腕をリトリサ女神見習いが引っ張った。


「フリフリ村長さん。それでですね、私、商売女神見習いになったことで、フリフリ村長さんのお店を店長代理として管理運営することが可能になったんです。その一環として、地下通路の使用権限も習得したんですよ」

「え? 地下通路の使用権限?」

「はい、店長代理を務めているお店への移動に限定されるのですが、フリフリ村長さんがログアウトしている間でも、私が許可することでNPCの皆様が地下通路を利用出来るんです」

「え! そ、そうなんだ! じゃあ、予定通り、店を営業することが出来るわけだ」

「はい!」


 俺の言葉に、笑顔で頷くリトリサ女神見習い様。

 っていうか……なんかもう、その能力だけで言い合いを続けている2人の駄女神様よりすごいというか……


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