なんか重なる日 その2
そんなこんなで、昼休みになったわけなんだが……
俺と小鳥遊は、いつもの定食屋にいた。
2階の個室で、向かい合って座っている。
いつもの日替わり定食を頼んだ俺達なんだけど、今日はデミカツがメインだった。
俺的には好物なんだが……弁当があと2つ控えている事を思うと、食べる前からすでに満腹感が……
とはいえ、
俺の前で、美味しそうにカツを口に運んでいる小鳥遊を見ていると……なんだか俺も腹が空いてきてしまい……結局、いつものように食べ始めていた。
「……ところで、武藤さん……少しお聞きしてもいいですか?」
「ん? なんだ?」
「……はい、食事を食べに行った日に出くわした……あの破廉恥女と、お花畑JKのことなんですけど」
そう言った小鳥遊の背後に絶望のオーラモーションが発動したかに見えた。
確かに……小鳥遊的にはそういう評価になってしまうよな、あの2人……
あの日は、あの2人と出くわした後、一緒に食事に行ったのもあって話題にならなかったんだけど……あれだけ強烈な出くわし方をしたわけだし、気にするなって方が無理ってもんだよな。
「あぁ、あの2人なんだけどな……」
そんな小鳥遊を前にして、俺は、2人の事をあれこれ説明していった。
古村さんは、NPCのファムさんの中の人で、偶然俺の部屋の隣に引っ越してきたこと。
非常識な行動が多い古村さんを、本気で怒ったら……妙に頼られてしまっていること。
早苗ちゃんは、以前痴漢にあっていたところを助けてあげたこと。
痴漢が怖くて、いまだに俺のことを頼りにしていること。
「……とまぁ、そんなわけで……2人の事は放っておけないっていうか……世話焼きおじさん的な立場になっているっていうか……」
苦笑しながら、おかずを口に運ぶ俺。
俺の説明を聞きながら、定食を口に運んでいる小鳥遊。
少しうつむきながら、時折俺の顔を上目遣いに見つめている。
「……じゃあ、あの2人は、武藤さんの彼女とかじゃない?」
「違う違う、そんな感情はまったくないって」
苦笑しながら応える俺。
その言葉を聞いた小鳥遊は、それでもしばらく探るような視線で俺を見つめていたんだけど……
「……そっか……」
大きく息を吐き出すと、安堵の表情をその顔に浮かべていった。
なんか、その笑顔を見ていたら俺まで嬉しくなってしまうっていうか……
◇◇
食事を終えて、会社へ戻る途中……なんだか、小鳥遊が急に考え込んだっていうか……
「どうかしたのか、小鳥遊?」
って、俺が聞いても、
「……ちょっと……」
としか言わなかった。
少し気になったんだけど……俺には用事があったので、小鳥遊と別れて別室へ移動していった。
午前中のうちに、こっそりと借りておいた小会議室へ入った俺。
小鳥遊と食事に出る前において置いた鞄が、ソファーの上にのっている。
……そう
ここで、古村さんと、早苗ちゃんにもらった弁当を片付けようというわけだ。
小会議室は、昼休みの間しか借りていない。
それを過ぎたら鍵を総務部に返さないといけない。
鞄から出した弁当を机の上に広げた俺。
古村さんのは……ディルセイバークエストのキャラの絵が描かれている弁当箱。
早苗ちゃんのは……可愛いピンクの花柄模様の弁当箱。
……なんていうか、どっちもおっさんの俺には似つかわしくないことこの上ない。
「とにかく……いただきます」
手を合わせると……弁当を口にかきこんでいく俺。
古村さんの弁当は普通に美味かった。
いや、古村さんが料理が上手いのは先日もらった差し入れでわかってはいたんだけど、この煮物はかなりいい味付けだ。
古村さんって徹夜でプログラム作業ばかりしているイメージしかないんだけど……結構家庭的なところもあるんだな……
一方の早苗ちゃんの弁当はというと……
正直に言うと、見た目はいまいちだった。
焦げている野菜炒めに、足の大きさがバラバラなタコさんウインナ。
ご飯も、少しべしゃっとしているんだけど……早苗ちゃんが俺のために一生懸命頑張ってくれたっていうのがすっごく伝わってくるっていうか……なんだろう……娘が俺のために作ってくれた弁当を食べる時って、こんな気持ちになるんじゃないかなって……
そんな事を考えながら、どうにか俺は弁当2つを完食することに成功した。
「ご、ごちそうさま……」
手を合わせると……さすがに、お腹がはち切れそうというか……そりゃそうだよなぁ、定食を食べた後に、弁当を2つ食べたんだから。
しかも、古村さんと早苗ちゃんの弁当って、大柄な俺に合わせてなのか、どっちも結構なボリュームだったもんだから……
「……こりゃあ、今日は晩飯はいらないかもな」
苦笑しながら、俺は小会議室を後にした。
「あら、武藤係長」
「あ、あぁ、東雲さん」
そこで、いきなり東雲さんに出くわした。
「部署にお邪魔したら、まだ戻ってなかったから探していたんです」
「え? 俺をですか?」
「えぇ、これをお渡ししたくて」
そう言って、東雲さんは俺に紙袋を手渡した。
「クッキーを焼いてきたんです。よかったら3時の休憩の際にでも食べてくださいな」
「あ、はい……あ、ありがとうございます」
「お口に合うといいんですけど……じゃあ、私は会議があるので」
そう言うと、東雲さんは小走りに立ち去っていった。
その顔には、嬉しそうな笑顔が浮かんでいたんだけど……俺に、これを手渡せたのが嬉しかった……のかな?
……しかし
このクッキーってば……これまた俺の体格に合わせてなのか、すっごく量が多いっていうか……さすがに、今は味見をする気にもなれないっていうか……でも、匂いはすっごく美味しそうだった。
◇◇
仕事を終えた、家に帰り着いた俺は、ソファにもたれかかったまま天を仰いでいた。
「……さ、さすがに、腹が……」
昼に食べた弁当と、3時に食べたクッキーが、まだ胃の中に残っているような気がして、まったく食欲がないというか……
「……でも、『美味かったよ、頑張ってくれてありがとう』って弁当箱を返した時の早苗ちゃんってば、嬉しそうだったなぁ」
一応
『あんまり気を使わなくてもいいからね』
って、やんわりお断りの気持ちを伝えたんだけど……あの時の早苗ちゃんって完全に自分の世界に入り混んじゃってたから……果たしてちゃんと聞こえていたかどうか……
古村さんは仕事なのか不在だったので、弁当箱を返すのは明日かな……
そんな事を考えながら、天井を見上げていると、
ピンポーン
不意に、チャイムがなった。
……宅配か? ……いや、でも、通販で何か買った覚えはないんだけど……
そんな事を考えながらインターホンへ歩み寄った俺。
その画面には、一人の女性が映し出されていた。
「……って、あれ? これって……」
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