作戦会議……ですよね? その1

 翌朝。


 ピンポーン


 午前10時きっちりに俺の部屋の呼び鈴が鳴った。

 ドアを開けると、そこには、


「あ、あの……きょ、今日はいきなりお邪魔することをご了承くださいまして、真にありがとうございます」


 深々と頭を下げている東雲さんの姿があった。


「いえいえ、むさ苦しい部屋ですけど、どうぞ」

「では、お、お邪魔させていただきます」


 俺に誘われて、部屋の中に入ってくる東雲さん。


 ……いや、しかしあれだよな……


 会社で『クールビューティー』って言われているだけあって、東雲さんってば、ホントに綺麗なんだよな。

 昨日のすっぴん姿も綺麗だと思ったんだけど……今日の化粧を決めている東雲さんもすごく綺麗というか……っと、いかんいかん……今日の東雲さんは、あくまでもディルセイバークエストの攻略サイトの相談をしに来ているんだ。

 そんな東雲さんのことを、そんな目で見るわけにはいかないというか……

 男性の部屋に1人でやって来たっていうのも、東雲さんが俺の事を信頼してくれているからだろうし、その信頼を裏切るような行動をするわけにはいかないよな。


 ……とは言うものの……


 今日の東雲さんってば……俺の部屋に入ってすぐの時はコートを羽織っていたんだけど……そのコートを脱ぐと、その下の服が……その……な、なんていうか……胸元がざっくりと開いていて、胸がすっごく強調されているっていうか……会社でも胸が大きいなぁ、とは思っていたけど……ま、まさかここまでとは思ってもみなかったっていうか……それでも、小鳥遊の方が一回り……いや、二回りは大きいような気が……


 って……いかんいかん、そんな目で東雲さんを見るわけには……


「……あの、武藤さん……どうかなさいましたか?」

「い、いえいえ、なんでもありません、はい」

「そう……ですか……なら、いいのですが……」


 リビングのソファに座っている東雲さんは、小さなため息をつくと、


「では、早速なのですが、サイトのことで相談をさせてください。今日は、資料をまとめてきたのですが……」


 そう言うと、東雲さんは会社の会議で見せる、真剣な眼差しと、テキパキとした口調で俺に説明をはじめた。


 ……んで、東雲さんの説明によると……


「……つまり、内政系の情報を公開するのに合わせて、何かもっとプレイヤーを惹きつける事が出来るコーナーを作りたいって、ことですか?」

「えぇ、そうなんです……今までにも内政系の記事をいくつかアップしているのですが、一番反響があったのは、討伐対象としか思われていなかった野生のSSS級モンスターの中に、仲間になるキャラがいたっていう記事だったのです。

 ただ、あれは内政系というよりも、モンスター討伐の際の相棒として使用したいっていう意図で人気だった感じですので、内政プレイの役に立ったとはいえないと考えています。

 その証拠に、「村長になれる」っていう記事や、「仲間キャラを使って内政を代行してもらえる」って記事なんかは、それなりに反響があったとはいえ、仲間モンスターの記事に比べればヒット数も反響もいまいちでしたので……」

「そうだなぁ……とにかく少しでも多くの人がサイトを見に来るようにしないことには、いくら情報を発信しても無駄になっちまうし……みんなが思わず見たくなる記事というか、企画を考えないことには、ってことですかねぇ」

「そうなんです……ですが、私一人ではなかなかいい案が浮かんでこないものですから……」


 腕組しながら首をひねる東雲さんなんだけど……その腕のせいで、豊満な胸が持ち上げられていて……なんか、服の隙間から中の方が見えそうというか、見えそうにないっていうか……


「……武藤さん?」

「は、はいぃ!?」

「あ、あの……どうかなさいましたか? 気のせいか、顔が少し赤いような……」

「あぁ、いえいえ、何でもないんです、なんでも……」


 苦笑しながら、必死にごまかす俺。

 

 ……と、その時だった。


 東雲さんの後方に、俺はある物を見つけた。

 それは、昨日小鳥遊とセットで購入したディルセイバークエストの剣のアイテムだった。

 台座に指輪が埋め込まれていて、ログイン用のヘルメットの近くにアイテムを置いておくと、自動でアイテムのコードを読み取って、ゲーム内で装着出来るようにしてくれるんだけど……


「……そうだ、エカテリナのコーナーを作ったらどうかな?」

「エカテリナさんのコーナーですか?」

「あぁ、エカテリナって、ディルセイバークエストの中でもトッププレイヤーの一人でしょ? そんなエカテリナに、イベントの進行状況を教えてもらったり、自分がやっている攻略方法を教えてもらったりするコーナーを設けたらどうかな」


 これは、俺としてもぜひやってもらいたい企画といえた。


 何しろ小鳥遊ことエカテリナは、ディルセイバークエストの中でも評価が極端に割れているんだよな。


 あるプレイヤーは、

『あいつは、攻略情報を独り占めにするから嫌いだ』

 っていうんだけど、別のプレイヤーは、

『聞いたら、あれこれ教えてくれる、優しいプレイヤーだよ』

 って言う具合だ。


 イースさんが収集した情報の中にも、そんな両極端な情報が混在している事が多いんだけど……これって、すべては小鳥遊のコミュ障が影響していると思うんだよな。


 人と接するのが苦手な小鳥遊なんだけど……だからこそ、自分から積極的に情報発信することが出来ないと思うんだ。

 ただし、プレイヤーの方から質問すれば、少なくともディルセイバークエストの中で演じているエカテリナの高飛車キャラを演じながら返事をすることが出来なくもない。

 

 エカテリナの評価が真っ二つになっているのって、案外こういったことじゃないかと思っている。

 まぁ、本音としては……ゲーム内では夫婦なわけだし、妻のエカテリナが、一部のプレイヤーに誤解されたままっていうのは、なんかひっかかるんだよな。


「リアルでもやり取りをしている東雲さんが相手なら、小鳥遊も協力してくれると思うんだよね」

「なるほど……他のトッププレイヤー達は、大手の攻略サイトで同じような事をしていますし、今まで自分から情報発信をほとんどしていないエカテリナさんのコーナーとなると、注目度が高いし……これはいけるかもしれませんね」


 俺の案を、ブツブツ呟きながら検証していた東雲さんは、その顔にぱぁっと笑顔を浮かべると、両手を広げて俺に近づいてきた……


 ……んだけど……


 俺に抱きつこうとしているかのような姿勢のまま、途中で静止してしまった東雲さん。

 顔を真っ赤にしたまま、なんかプルプル震えているような……


 ……そ、そう……これはお礼なんだから……お礼として抱きつくだけ……


「え? な、何か言いました?」


 静止したまま、何かボソボソ言っていた東雲さんなんだけど……俺の言葉を聞くと、慌ててソファへ座り直していった。


「あ、あの……いい案が出ましたし、それにお昼も近づいていますし……わ、私、お昼ご飯を作らせてもらいますね……」


 慌てた様子でソファから立ち上がった東雲さんは、どこか引きつった笑みを浮かべながら台所へ向かって駆けて行ったんだけど……なんか、ぎこちないというか、何かをしようとして思い切れていない感じというか……

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