農作業をしてみようと思ったんだが その1
家に帰った俺は、コンビニで購入してきた弁当を食べながらネットを検索。
昨日見つけたイース・クラウドさんのサイトに書かれているディルセイバークエストの内政に関する情報に目を通していく。
「……なるほどなぁ……種の種類にもよるけど、だいたいの農作物は植えてから2,3日で収穫出来るのか。んで、その農作物の種類によって食事が作れたり、薬が作れたりするってわけか……」
なら、コツコツ農作業をしながら弁当を作ったり薬を作ったりして、それを街で販売すればいいんじゃないかな?
昔やってたゲームでもそうやってコツコツ稼いで店を大きくしたりしてたなぁ。
そんなことを思い出してしまうと、俄然やる気が出て来てしまうってわけで……
「まずは野菜と、薬の中でも初心者でも作りやすくて、それでいてよく売れそうな回復薬の素材になる薬草を栽培することが当面の目標かな、うん」
弁当の空をナイロン袋で包んでから、玄関に置いているゴミ袋へ入れた俺……明日は燃えるゴミの日だから、出勤前に忘れずに持っていかないとな。
「さて……じゃあ、やりますか」
ベッドの枕の横に置いていたログイン用のヘルメットを被った俺は、スイッチをオンにしていった。
◇◇
……ん?
おかしいな……昨日はスイッチを入れたらすぐにゲーム世界の中にログイン出来たんだが……今日は周囲が真っ暗なままだ。
「……これって、このゲームに最初にログインした時みたいだな……」
あの時は、キャラクター設定がはじまったんだっけ……まぁ、めんどくさくて『お任せ』にしちまったもんだから、『ドワーフのフリフリさん』なんていう、ちょっとあり得ないキャラクターになっちまったわけなんだが……
パンパカパーン
「ん?」
急にファンファーレが鳴ったかと思うと、俺の目の前に【初心者ログインボーナス】って文字が浮き出してきた。
浮き出ている文字の下に【3日連続ログインされた記念ボーナスを配布します】って文字が浮き出ている。
で、その下にもう一つ【初心者支援ボーナス】って文字も浮き出てるな……
3日連続ログインボーナスってのは宝箱になっていて、俺の荷物袋に直接送信されたらしい。
で、初心者支援ボーナスってのはスロットになっていて、その結果によって商品が違うみたいだ。
俺は、目の前に出現しているスロットのレバーを引いた。
すると【初心者】の3文字が回転しはじめて……んで、しばらくして一斉に停止した。
【本日のボーナス 害獣捕縛用罠】
そう表示されたんだが……その罠自体も、俺の荷物袋の中に直接送信されたらしく、どんな形をしているのかさっぱりわからないまま……
「……んぁ?」
俺は、ベッドの中で目を覚ました。
ってか、明らかに天井が見たことのない形状をしている。
「……ここは……あぁ、そうか、昨日手に入れた家の中か……」
そういえば、ファムさんが言ってたっけ……
【家を手に入れたら、家の中に出現することが出来るようになる】って。
混雑しまくっているログイン広場に出現するのも情報収集って意味じゃあ良いのかもしれないけど、今の俺的にはここメタポンタ村ですぐに作業を始めることが出来る方がありがたい。
明日の仕事の事もあるし、ゲームは一日一時間って、昔のゲーム名人さんも言ってたしな。
ベッドから起きあがった俺……あぁ、やっぱり体はドワーフのままか……まぁ、当たり前だけど、改めてその事実を確認するとちょっとがっかりした気分になっちまう……
「……ん?」
その時、俺はあることに気がついた。
「なんだこの匂いは……やけに美味そうな……」
鼻をならしながら匂いの出所を探していくと……机の上に、何やら折り詰めのような物が置かれているのに気がついた。
「匂いの元はこれか……」
折り詰めに手を伸ばすとウインドウが表示された。
【エカテリナからの贈り物 愛妻弁当】
「……あ、愛妻弁当!?」
ウインドウの文字を思わず二度見した俺。
あ、愛妻弁当って……あれか? つまりエカテリナが俺のために弁当を作ってくれたってことなのか、おい……いや、会社の小鳥遊を見ていると、とてもじゃないが料理が出来るとは思えないというか、昼になるといつもどこかに行っちまうし……
「ま、まぁ……ゲームの世界なわけだし……そういったスキルを入手していたのかもしれないしな……」
……モンスターを狩りまくるためにこのゲームをしているエカテリナが、俺のために料理のスキルを入手したとは思えないというか……まぁ、あれだろうな、狩りに行った際に、獲物を料理して食べるためだろう、うん。
そうやってHPを回復するんだろう。そう考えれば納得がいく。
とにかく、だ……俺より早くログインしたエカテリナが、狩りに出向く前にわざわざ準備してくれた弁当だし、ありがたく頂くとするか。
弁当の中身はというと……ご飯の他には焼いた肉の塊がドンと入っているだけという……なんともダイナミックなこと極まりなかったんだが、この肉が思いのほか美味かったもんだから、あっという間に全部平らげてしまった。
「しかしあれだな……ゲームの中で物を食べて美味いと感じることが出来るなんて……ホント、技術の進歩ってすごいよなぁ……」
そんな事を考えていた俺なんだが……
「……まてよ……エカテリナの作った弁当がここにあるってことは……エカテリナもこの家でログインしたってことなのか?」
あぁ……それもそうか……エカテリナと俺はゲームの中とはいえ夫婦なんだしな……別におかしくはないか……
ただ、この家に出現することでエカテリナが面倒なことになっていなければいいんだが……例えば、狩りに行くために、街中で買い物をしないといけないのに、移動する時間が無駄にかかるようになってしまったとか……
確認しようにも、エカテリナとのプライベートチャットは相変わらずサイレントモードなので、どうにもならない。
「ま、それに関してはゲーム内メールでも送っておくとするか」
視界の端に出現しているメールアイコンを展開し、メールを入力していく。
頭の中で思った言葉がそのまま入力されていくので、余計なことを考えないようにしないと……
【家でログインすることになって困ることがあったら言ってくれ。ゲームの邪魔になるようなら離婚処理してくれてもかまわない】
攻略サイトに、結婚システムには離婚出来る機能もあるって書いてあったしな。
これは、結婚した相方が長期間ログインしなくなった時などの救済措置的に実装されているらしいんだけど、まぁ、こういったゲームだし性格の不一致や、他に結婚したい相手が出て来たり……なんか、そんなことを考えてたら切ない気持ちになってきちまったな……ゲームの中だってのに、妙にリアルっていうか……
まぁ、でも、せっかくこのゲームを楽しんでいる小鳥遊の邪魔はしたくないしな……
で、そのメールを送信しようとした俺なんだが……
【あと弁当美味かった、ありがとな】
そう書き足してから、送信しておいた。
◇◇
家の外に出ると、
「あ、フリフリさん。おはようございます」
そこにファムさんがいた。
昨日と同じオーバーオールに麦わら帽子、手に三つ叉鍬を持って畑を耕している最中だった。
「って、ファムさん、そこ、俺の畑ですよね?」
「えぇ、私の畑の作業が終わったので、お手伝いさせてもらっていました」
笑顔で額の汗をぬぐっているファムさん。
「いやぁ、でも、あれですねぇ……ちょっと大変でした」
「え? 大変って……何かあったんです?」
「えぇ、少し前に奥様がログインされたのですが、畑仕事をしている私を見つけるやいなや、すごい形相で駆け寄ってこられまして『あんた、フリフリのなんなのさ』って言いながら宝剣グリムソードを突きつけられちゃいまして……NPCの私ですけど、生きた心地がしませんでした~あはは」
……おいおいおい、エカテリナの奴、いったい何をしてるんだよ、ったく。
「なんか申し訳ありません。一応悪気はないはずなんですけど……」
「いえいえ、むしろごちそう様といいますか……ふふふ、愛されているんですねぇ、フリフリさんってば」
「は? いやいやいや、あくまでもゲーム内の夫婦ですから。エカテリナもそういうプレイを楽しんでいるんじゃないですかね」
苦笑している俺なんだが……ファムさんは、そんな俺をジト目で見つめながら肘で後頭部を小突いてきてて……実際の俺なら、ファムさんよりも背が高いんだが、今の俺は小柄なドワーフだから、その肘が後頭部に当たっているわけで……って、なんで俺ってば、冷やかされなきゃならないんだ……
まぁ、ファムさんの説明でどうにか納得したエカテリナは、狩りに向かったらしい。
「じゃ、まぁ、俺は俺で、畑仕事でもやりますか」
「何を栽培するか決められたのですか?」
「えぇ、とりあえず食べられる野菜と薬草を栽培しようと思います」
「なるほど、それならお弁当や回復薬にして……」
「そうそう、それを街に売りに……」
「狩りに行く奥様にお渡し出来ますもんね」
意味ありげな笑みを浮かべているファムさん。
そんなファムさんの前で思わずガクッと崩れ落ちる俺。
なんていうか……NPCなのに、妙に感情豊かというか……恋バナ系に敏感すぎません? ファムさんってば……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます