吸血鬼AとBと彼女

夏雨あよ

吸血鬼AとBと彼女

「ねえ」吸血鬼は頬杖をついて、彼女の顔を覗き込んだ。

「キスしてもいい?」

「……だめです」

「どうして?」

「恥ずかしいから」

「恥ずかしいから?」

「恥ずかしいから。」

ふふ、と吸血鬼は微笑う。

「俺さ」

彼女の頬に手を伸ばした。

「あと少し押されたら全部めちゃくちゃになるんだけど、押してみる?」

「……押しません」

「押していいよ」

「押さない」

「あはは」


彼女がもう一口ココアを飲むのを待ってから、吸血鬼は唇を寄せた。

彼女はそれを制止する。

「……恥ずかしいの、ちょっとだけ我慢できない?」

彼は悪魔のように囁いた。

「俺がキスする間だけ、恥ずかしいの、我慢できない?」

彼女は目を見開いて、

………で、

「できない……」

「そっかー」彼は笑った。


「さあそろそろ他の奴らも帰ってくるし、片付けようか」

吸血鬼は立ち上がり、彼女も後に続く。

「いいよ俺がやるから」

「いいえ」彼女は皿を持ち、マグカップも一緒に持とうとしたところで、皿に載っていたスプーンが滑り落ちた。

「わっ」

床に落ちる寸前で、彼女がマグカップに伸ばそうとしていた手を戻してそれを捕まえる。

思わぬところで発揮された反射神経に、二人は顔を見合わせた。

彼も手を伸ばしていたので、二人で中途半端な姿勢を取っており、そのまま笑いながらしゃがみ込んだ。

「すごい」

「びっくりした」

ひとしきり笑ってから、ゆっくり立ち上がる。

「危ない危ない」

「気を付けてお姉さん」

「はーい」


二人でキッチンへ向かい、吸血鬼が水を出して、

それから突然彼女に口づけた。


が、それは直前で彼女の手に阻まれた。


「今のは君が悪い」

手を掴み退かしてもう一度口づけようとしたがもう一方の手で再び塞がれる。

「恥ずかしいのは我慢して」

その手も掴んで再度首を傾けたが思い切り避けられる。

「こら」

「水、水!」

出しっぱなし、と両腕を封じられている彼女が顎で指すと、

吸血鬼は水を止め、彼女を抱き上げた。

「洗い物は」

「後で」

「どこに行くの」

「俺の部屋」

「だめです」

「だめもいやももう聞かない」

彼女は足をばたつかせたがびくともせず、そのまま廊下に出たところで帰宅した別の吸血鬼と鉢合わせた。

「あっ」助けて、と彼女は彼を呼び止めた。

「……どこ行くの」吸血鬼は吸血鬼に尋ねた。

「俺の部屋」

「俺も行く」

「じゃあ行こう」

「さあ行こう」

「なんでだよ」



おわり



おまけ


「あと少し押されたらって言ったでしょ」

「押してない」

「連打してたよ」

「えー」

「えーじゃない」



おわり

 

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吸血鬼AとBと彼女 夏雨あよ @ayo

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