第212話 神狩り

「今だぁっ!!!」


 梅木が結界を破った瞬間、既に魔力を充填させていた松岡、吉川、金城そして舜の4人が一斉に、光刃、熱線、光球、雷球と、それぞれ攻撃魔法を撃ち込む。


『ぬ……ギィ……!』


 直撃を喰らった『ロキ』から奇怪な呻きが漏れ出る。黒光に包まれた輪郭が激しく歪む。


「やった……!」


 やはり神化種の攻撃は、邪神に痛打を与え得るようだ。舜が思わず歓声を上げるが、


「まだだぜっ!」


 松岡の警告。それを裏付けるように『ロキ』から発せられる黒光が一段と輝き・・を増す。



『……やってくれたねぇ、下等生物共がっ! お前等には神罰をプレゼントしてやるよ!!』



「……!」


 それまでの余裕をかなぐり捨てたような憤怒と怨嗟に彩られた『ロキ』の言葉と共に、その周囲に大量の真っ黒い『槍』が出現した。いや、それは槍というより、闇をそのまま塗り固めて作ったような、巨大な『針』とでも言うべきか。


『死ねぇぇぇっ!!』


 そして……黒い『針』の雨が一斉に降り注いだ!


「く……!!」


 舜は必死に翼をはためかせながら『針』を回避し続ける。松岡も上手く盾を使いながら回避や防御に専念している。


 だがの大きい他の4人はそうも行かない。特に浅井は間断なく『針』の雨を浴び続ける事になり、強固な結界でガードしているようだが、『針』は無限かという勢いで降り注ぎ続けているので、すぐに限界を迎えるだろう。


 ただ金城だけは、咄嗟に地中に潜る事で難を逃れたようだったが。




「いぎぎぎぃぃぃっ!! おい、どうすんだ!? このままじゃやべぇぞ!!」


 吉川だ。浅井程ではないが30メートルはある巨体なので、やはり『針』を躱すのは難しいらしく結界を張って必死に防いでいるが、結界越しでも苦痛を感じるようだ。


「チャンスは必ず来る! それまで耐えろや!」


「チャンスだぁ!? いつ来るんだよ!? もう保たねぇぞ、こりゃ!?」


 松岡は吉川の抗議には構わず、『針』を受けるのに集中しながら舜に対して怒鳴った。


「シュンーーー!! お前の守護神・・・に呼び掛けろや! 連中もロキに釣られてこっち・・・に来てるはずだぜ!」


「ええっ!?」

(守護神って、フォーティア様達の事か!? 何で……って、今は考えてる場合じゃない!)



 舜は思考を切り替えて、必死に念話を試みる。



(フォーティア様! フォーティア様!? 聞こえますか!? フォーティア様!!)


(……う。シュ、シュン……)


 すると呼び掛けに応えるように弱弱しい念話が届いた。


(フォーティア様!? ど、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?)


(シュン……私達は今、ロキのに囚われているの……。強烈な邪気に当てられて、私以外の姉妹達は皆意識を失ってしまったわ。私も、もう……)


(……ッ! しっかりして下さい! 今俺達がロキと戦っています! 必ず助け出してみせます! でも、その為にはフォーティア様自身のご協力も必要なんです!)


(わ、私、の……?)


(今俺達はロキの猛攻に晒されて、奴に攻撃が出来ません! 一瞬で良いんです! ロキの動きと攻撃を止める事が出来ませんか!?)


(……! わ、解ったわ……。何とか……やってみる。でも……本当に一瞬が限界だと思うわ……)


(それで充分です! ありがとうございます、フォーティア様! ……お願いします!)


 舜は肉声で松岡に呼び掛ける。


「松岡……! この後一瞬だけ、ロキの動きと攻撃が止まるはずだ!」


「へっ! 上出来だ!」


 松岡がやはり振り返らずに応える。それを確認して舜はフォーティアに合図を送る。


(……今ですっ!!)



『……んん!? この……死に損ないが……! 大人しくしてろ!!』



 『ロキ』の戸惑いと怒りの声。フォーティアが『ロキ』の内部で何かをしたのだろう。一瞬……ほんの一瞬だけだが『針』の豪雨が止み、晴天と静寂が訪れる。


 だがそれが来ることを見計らって待ち望んでいた面々にとっては、その一瞬で充分であった。



「いっけえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



 松岡が剣先に集めていた魔力を全て攻撃に変換して、再び真っ白いビーム状の波動を放つ。あの空間に『ゲート』を開けた時の要領と同じだ。


「くた……ばれやぁぁぁっ!!」


 他の面々も心得た物で、吉川が真っ先に鎌首をもたげ、その口から極大の熱線を射出する。


 地中からは何十個もの光球が立ち昇り、それらが一つに集まって超巨大な光球を形作ると、一気に『ロキ』の元に撃ち込まれた。金城だ。


 浅井もその頭足類の巨体の至る所に傷を負っていたが、それでも全力で魔力を練り上げ、何十本もの水流を束ねて極大水流の魔法を放出した。


「これで……終わりだぁぁぁぁっ!!」


 舜も魔力を全開にして、『ロキ』がいる地点の更に上空から、超特大の落雷の魔法を叩きつけた!


『ギ……ゴァ……!? ガァ……!!』


 5つの超絶的な魔力の同時攻撃を受けている『ロキ』が、奇怪な呻き声を上げる。間違いなく効いている。もう少しだ……!


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 舜も、そして松岡達も、己の中にある全ての魔力を放出するかのような勢いで攻撃を継続する。



「梅木ぃぃぃっ!!」


 松岡の合図。梅木は他の5人のように継続して攻撃を与え続ける手段が無い。ではどうするかと言うと……



「ふん……。言われんでも解っているわ」



 まるで局所的な地震でも起きているかのように大地が鳴動していた。屈むような姿勢で拳を握る梅木を中心に、凄まじいまでの魔力が集中しているのだ。


 その拳の中には巨岩が握られていた。この岩に彼の全魔力を込めているのだ。継続して攻撃を当てられないのなら……全てを一撃に込めて撃ち込むまでだ。



「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」



 気合一閃。力を溜めに溜めた剛腕が全力で振り抜かれ、神化種の目を持ってすら視認できない程の速度と勢いで飛び出した岩塊は、狙い過つ事無く『ロキ』の中心にぶち当たった!!



『――――――ッ!!!』



 その瞬間、6人の神化種の魔力が完全に融合して一つになった。その魔力は神にも等しいとさえ言える規模で、瞬間的に核攻撃すら凌ぐ威力となった。それをまともに受ける事になった『ロキ』は……




『お……おぉ……そんな馬鹿な……! この、僕が……「神」が、人間なぞにぃぃぃっ!!』




 それが『ロキ』の断末魔・・・となった。



 まるでマルドゥックが降りてきたにも等しいような、圧倒的な光の爆発が舜達は勿論、遠くからこの神々の戦いを呆然と眺めていた者達の視界すら塗り潰した。


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