第47話 VS〈僧侶〉戦 ~神術での実戦~
戦士隊の隊員達と〈市民〉達が遂に接敵した。〈市民〉7人に対して戦士隊34人。数の上では圧倒的に有利だが、進化種は最低ランクの〈市民〉であっても、基礎能力が高い上に、強化魔法を使いこなす。決して楽観できる人数差ではなかった。
忽ち混戦となり、怒号や剣戟、魔法の爆発音などが辺りに飛び交う。
その混乱の脇を抜けて、舜とミリアリアは、〈僧侶〉――白蟻人目掛けて突き進む。
白蟻人の手に、放電現象が発生する。電撃の魔法だ。
「させないっ!」
舜は再び矢面に立ち、障壁を全開にする。三度ぶつかり合う魔法と神術。
「ぐ……うぅ……!」
正直キツい。辛うじて防げてはいるが、かなり際どいラインだ。障壁が破られたら、舜などあっという間に消し炭だ。その事実に再びゾッとする。
魔法さえ使えれば本来、問題になるような相手ではない。
今にも破られそうな頼りない障壁に身を包む舜は、まるで自分が丸裸でいるような心許なさと恐怖を覚えていた。だが……
「よくやってくれました!」
ミリアリアが舜の後ろから出ると、そのままの勢いで白蟻人に斬りかかる。
そう、今の舜は1人ではない。共に戦う仲間がいれば、この恐怖も半減できる。
「てやぁぁぁっ!」
気合と共に白蟻人に剣を叩きつけるミリアリア。だが直前に張った結界の魔法により防がれる。
「く! ならばっ!」
今度は結界に対して剣を突き立てるようにすると、剣先からありったけの神気を叩きこむ。突き立てた剣先から広がるように結界に亀裂が広がっていく。
結界の魔法は便利な防御魔法だが、神力に対して比較的脆弱で、このように一気に大量の神力を流し込んでやると、割と簡単に砕く事が可能だ。幸いここは神膜内なので、大量の神力はすぐに補充できる。
しかし結界の魔法が破られるのを見越した白蟻人は、既に別の魔法を練り上げていた。その手に再び発生する放電。
「ッ! 危ないっ!」
舜が警告するのとほぼ同時に結界が砕け、間髪を入れずに白蟻人が電撃の魔法を、至近距離でミリアリアに向けて放つ!
「しまっ……! きゃあああっ!」
電撃をまともに浴びてしまうミリアリア。彼女の高い神力で纏っていた障壁のお陰で、感電死は免れたものの吹き飛ばされ、すぐには動けないようだ。勿論その無防備な隙を見逃す白蟻人ではない。今度は巨大火球が発生する。
「くっ……!」
舜は急いでミリアリアを庇える位置に駆け付ける。白蟻人の手から火球が放たれ、動けないミリアリアに向かって迫る。躱せないし障壁を破られたばかりでダメージもある為、すぐには障壁を纏い直す事もできない。即ち今当たったら即死だ。
(間に合えぇぇぇっ!)
このまま走っていては間に合わない。舜はまるで走塁中の野球選手のように、飛び込みスライディングを掛ける。
「あぐぅ……!」
衝撃。それに続けて熱波が舜を襲う。ギリギリでミリアリアを庇う事に成功したようだ。
「ミリアリアさん! しっかりして下さい!」
今の舜には進化種に対する有効な攻撃手段がない。出来る事は敵の魔法を防ぐ事だけだ。……いや、もう一つある。
「シュ、シュン殿……も、申し訳……」
「喋らないで、じっとしてて下さい!」
ミリアリアの肩に触れると、そこから大量の神気を注入する。ビレッタの街での治療行為で要領は解っている。今回は一刻を争う状況なので、多少無理矢理にでも、膨大な神気を流し込む。
そこに白蟻人から再び魔法攻撃。今度は特大の光球の魔法だ。
「……ッ!」
それを見た舜は恐怖を覚えるが、治療を中断する訳にはいかない。ミリアリアに流し込む神気はそのままに、自身の障壁にも意識を割かざるを得ない。
そして――衝突。舜の障壁と接触した光球は、破裂して盛大に衝撃波を発生させる。
「ああああぁぁぁあああぁぁっ!」
「シュン殿……!」
ミリアリアの治療に神気を割いている為に、完全には無効化する事が出来なかった。女体化している舜の口から、甲高い悲鳴が漏れる。
軽減は出来たものの、まるで四方八方から棒でぶっ叩かれたような衝撃に、脆弱な少女の肉体が堪えきれずに、涙がこぼれ落ちる。
「シュ、シュン殿……! もういい! 逃げて下さい!」
ミリアリアが必死に懇願してくるが、舜は無視して治療を続けた。
「シュン殿!」
「うるさいっ! 黙っててっ!」
「……ッ!」
思わず漏れ出た強い口調にミリアリアが息を呑むが、今は構っている余裕がない。そこに畳み掛けるような白蟻人の魔法攻撃。今度は石礫の魔法だ。
先が凶器のように尖った大きな岩石がいくつも射出される。
「ぐ! う! ううぅ……!」
間断なく降り注ぐ暴威に、その度に舜の口から苦鳴が漏れる。治療と障壁。どちらに対しても神力を全開にしているという無茶な状況だ。いかに神膜内と言えど、一瞬で膨大に消費されていく神力を、すぐには賄う事は出来ない。己の限界を超えるかのような神力の消費に、舜の身体が悲鳴を上げる。
昏倒しそうになる意識を、必死で保つ。
「チィッ! 面倒ナ小娘ダナ! サッサト死ネヨッ!」
強固な障壁を張り続ける舜に焦れたらしく、白蟻人が魔力の剣を作り出した。魔法攻撃を主体とする〈僧侶〉だが、接近戦も〈市民〉と同程度にはこなせる。また魔素のない神膜内という事もあり、これ以上の魔力の消費を疎んだようだ。
耳障りな叫び声を上げながら、白蟻人が剣を振り上げて迫ってくる。今の舜にそれを防衛する力はない。至近距離まで迫った白蟻人は、舜の背中に剣を突き立てんと、大きく振りかぶる。
ザシュッ!!
――肉体に剣が突き刺さる音。
「…………エ?」
白蟻人が呆気にとられたような声で、
「はぁああああっ!」
そしてその剣に神気を流し込む――ミリアリアの姿。間一髪のタイミングで治療が間に合ったのだ。
動けるようになった瞬間、跳ねるように起き上がったミリアリアは、剣を振りかぶって隙だらけだった白蟻人の喉元の急所に、正確に剣を突き入れたのだ。ミリアリアの事が半ば意識から除外されていた白蟻人にとっては、正に奇襲の一撃となった。
「ウギャアアアアァァッ!」
急所から大量の神気を流し込まれた白蟻人は、口や傷から体液を撒き散らしながら、凄まじい絶叫を上げた。しばらく暴れたかと思うと、バタッと倒れ、痙攣を繰り返し、やがて動かなくなった。
「や……やったん、です、ね……?」
舜が息も絶え絶えな状態で質問する。そのまま地面に倒れそうになるその身体を、ミリアリアが素早く、それでいて優しく抱きとめる。
「ええ……! 倒せました! シュン殿のお陰です! ほ、本当に…………シュン殿?」
「…………」
舜は既に意識を手放していた。胸は規則正しく上下しているので、命に別状はなさそうだ。
「ふふ……後は我々に任せて、お休み下さい、シュン殿……。本当にありがとうございました」
ミリアリアはそう言って、舜を安全な岩陰にそっと横たえると、他の仲間達に加勢する為、再び戦場へと舞い戻っていった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます