第10話 思春期男子には辛い!?
舜は混乱していた。戦闘の緊張と強化魔法の反動から解放されて、思わずへたり込んでいた所、囚われていた女性達も解放されたらしく、歓声を上げて喜び合っていた。
(あいつが死んで、拘束が解けたんだな。誰も犠牲にならなくて良かった……)
舜が安堵していると、女戦士の一人がこちらに向かって全速力で駆け寄ってきた。金髪のショートカットが特徴的な女戦士だ。舜が何事かと訝しんでいる間に、女戦士は舜を抱きかかえるように、走ってきた勢いのまま飛びついてきた。強化魔法を切っていた舜は、その勢いに耐えきれず仰向けに倒れ込んでしまうが、女戦士は構わず舜をギュウっと抱きしめた。
「あ、ありがとぉぉ! 御使い様ぁ! あなたは私の、私達の命の恩人ですぅ!」
(うわあ! な、何だ……!?)
幼馴染の莱香と子供の頃に遊んだ時以来、舜は女性からここまで過剰なスキンシップを受けた事は無かった。動揺した舜が目を白黒させていると、金髪の女戦士が更に言葉を重ねてきた。
「私、ヴァローナ・フェリスって言います! 一応、
ヴァローナと名乗った女性は、そう言ってまた舜に抱きつこうとしてくる。
「わ、解った! 解ったから、ちょっと落ち着いて!? 冷静に話をしよう!」
舜がそう言ってヴァローナを押し留めていると、遅れてやって来た他の女性達も「包囲」に加わった。
100人以上はいるだろう女性達は、口々に舜に感謝の言葉を述べ、とにかく皆、舜に触れようとしてきた。〈御使い〉という言葉から、何やら神聖な存在と思われているようで、舜に触れる事で、ご利益でもあると思っているらしい。
これでは話をする所ではない。数の暴力によって揉みくちゃにされている舜は、若干の恐怖すら感じた。大勢の女性から触られている状況だが、色気や気恥ずかしさを感じている余裕は無かった。
(た、助けて……!)
「――静まらんか、馬鹿者共ぉ!!」
舜が思わず助けを求めてしまいそうになったその瞬間、大音量による一喝が、100人以上の女性達を金縛りにさせた。それまで興奮状態に合った女性達が、まるで冷水を浴びせられたかのように静まり返った。ヴァローナも例外では無かった。
(あ……この声は……)
女性達からの圧力が止んだ事で、舜は再び周囲の状況を省みる余裕が出来た。今の声には聞き覚えがあった……。
まるでモーセの力で割れる大海のように、女性達の壁が左右に分かれた。そしてその中を進んでくる、茶色い長髪を背中に垂らした女戦士。年の頃は20代前半程だろうか。やはりあの偉そうな女戦士だった。舜は転送知識の中にあった名前を思い出していた。名前は……
「部下達が失礼した。私は聖女戦士隊を率いる、隊長のレベッカ・シェリダンだ。……まずは、我らの命を救ってくれた事、この場を代表して、正式に礼を言わせて欲しい。……本当にありがとう」
「あ……いえ、その……どういたしまして……」
あの時の居丈高な態度から、何を言われるか警戒していた舜は、思ったより素直に礼を言われた事に、若干拍子抜けした。まあ隊長という事だし、流石にこの状況で無駄に不穏な空気を作ったりする事はないようだ。
「……して、御使い殿……」
「あの……御使いって俺の事ですよね? 俺も
「む……シュン・ヒイラギ殿か。了承した。……それでは、ヒイラギ殿。このリューンの街は既に危険地帯になってしまっているようなので、街の住民の準備が出来次第、我らはすぐにでも『王都』へ……イナンナへ、彼女らを避難させなくてはならない。ついてはヒイラギ殿にも是非、共に王都へ随伴頂きたいのだが、如何だろうか?」
イナンナ――このクィンダムの『王都』。元々、タルッカ女王国という国の首都だった街である。
「王都……俺が一緒に行っても良いんですか?」
「? 勿論だ。 御使い……いや、ヒイラギ殿の事は、既に神託によって国民の殆どの知る所だ。むしろ熱烈な歓迎を受ける事だろう」
(あー……そう言えば、神託は済ませてあるとか言ってたっけ……?)
その直後にあのような事態となった為すっかり忘れていたが、フォーティアは確かにそう言っていた。ならばそこまで心配するような事はないのだろう。いきなり得体の知れない……それも「男」がやって来て、受け入れて貰えるのだろうか、という心配があったのだ。
「……解りました。そういう事であれば、ご一緒させて頂きます。俺も色々知りたい事がありますし」
「うむ、宜しく頼む。イナンナには私の友人で、〈神官長〉のリズベットがいる。神託を受けたのは彼女なのだ。きっとヒイラギ殿の知りたい事にも答えてくれるであろう」
(リズベット……? それも覚えがある名前だな)
転送知識によると、レベッカと同じく重要人物の一人だった筈だ。転送知識は、あくまで詰め込まれた〈知識〉に過ぎない為、現地の人間との認識の食い違いが生じる可能性があり、今後の為にも、知識のすり合わせはしておいた方が良いだろう。とりあえずそのリズベットという人物と話をしてみた方が良さそうだ。
「……さて、長々と話をしてしまったが、我らはこれから町の住民の避難の準備をせねばならん。助けて貰ったばかりで大変心苦しいのだが、その間、
「あ……はい、解りました。大丈夫です」
どの道、この世界に来たばかりの舜に出来ることなど、戦闘能力を活かした見張りや護衛くらいだろう。特に異存は無かった。
「助かる。では……立てるか?」
そう言えば地面に座りっぱなしだった。レベッカの差し出した手を取ろうとして……舜は気付いた。いや、実は大分前から気になってはいたのだが、あえて気付かない振りをしていた、という方が正しいだろうか。
(ビ、ビキニアーマーってやつか……? ヤバすぎるだろ、コレ……!)
舜の常識からすると異常と言って良い程に、露出度の高い格好をしているレベッカ。要所要所にだけ白銀に輝く鎧を身に着けたレベッカは、見ようによっては裸よりも悩殺的な姿であると言えた。その露出された肉体も良く鍛えられており、それでいて決して筋骨隆々という印象は与えず、女性らしい優美な曲線を維持していた。
(神術ってやつの特性を考慮しての格好なんだろうけど……そ、それにしてもエロ過ぎる……)
絶賛思春期男子である舜にとっては、些か刺激が強すぎる姿ではあった。ましてレベッカは少しつり目気味ながら、まるでハリウッド映画に出てきそうなゴージャスな美女であったので尚更である。舜が、その刺激的な姿を直視出来ず、目線を
「ヒイラギ殿……? どうしたのだ? やはり先の戦闘での消耗が残っているのか?」
(フォーティア様といい、この人といい、何でこんなに自分の格好に無頓着なんだよ!)
舜としては抗議の一つも上げたくなったが、やはりフォーティアの時と同じく、男子のプライドから、そのような目で相手を見ていた事を知られたくなかった。まして自分は神の〈御使い〉と言う事になっているらしいのだ。余計に無様な姿は見せられなかった。強引に煩悩を押し込めて、思い切ってレベッカの手を取り、立ち上がった。
……耳の辺りに赤みが残ってしまうのは、どうしようもない事だったが。
(て言うか、他の人達も充分ヤバいよね……)
ヴァローナを始めとした聖女戦士隊のメンバーは、レベッカ程では無いが、かなり露出の多い鎧姿だし、それ以外の衛兵達も戦国時代の足軽を
(うう……! 早く慣れろ! 慣れるんだ……!)
この世界を覆う脅威とは全く関係ない所で、舜は激しく戦う羽目になるのであった……。
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