第176話
迫りくる十五匹のヘルハウンド。
あらら。
急かしちゃったから失敗したのかな?
そんな感想を浮かべつつも、俺も手伝おうと前に出た。
「主は出んでいい! 受け持てる限界を超えた分は我らで受け持つ!」
「引き剥がしには注意しろ。多く引き剥がしてもそっちには気を回せないぞ」
二人は遠距離で迎撃し、速度を落とさせながら引き連れる。
そして、リズ、アディ、エメリ、コルト、レナードの五名が一人一匹を受け持つ。
アレクとソーヤとサラ、アリーヤとソフィで一匹ずつ引き剥がす。
皆はもう狩りのベテランだ。上手く立ち回りそれは上手くいった。
だが、まだ半数以上が残っている。
本当ならば俺が余剰分を受け持ったほうがいいのだが、ホセさんだけじゃなくアーロンさんまでが意地に成っている様に見えた。
だから条件を付けて任せる方向で行くことに決めた。
「ホセさん、任せるけど怪我をしない事が条件だよ。
誰か一人でも攻撃を受けたら俺も出るからね」
「うむ。それで良い。任されよ!」
ホセさんの声のトーンが普段通りに戻り少しホッとして皆から距離を取る。
全員が見える場所にて、バフを掛けて集中して見据えた。
ああ、正直参加させてくれた方が楽なんだけどな。
そんな感想を浮かべながらホセさんとアーロンさんを集中的に見守る。
だが、二人は元々慎重派。
無理を強いられても無茶をしていくタイプじゃない。
迫りくる八体から逃げながらも遅滞戦闘を繰り返した。
そして一番最初に終わらせたアレク、ソーヤ、サラが再びもう一匹を削り取る。
その直後、エメリーが続き、リズ、アディ、アリーヤとソフィペアが一匹ずつ引き剥がす。
ホセさんたちは残り三体に成ると攻めに好転し、ガンガン攻撃して即座に終わらせて見せた。
想定を超える数だったにも関わらず全然危なげがなかった。
やるなぁ。
と感心して拍手したのだが、アディがホセさんに食って掛かる。
「何であんなに連れてきたのよ! 置いてくる事だってできたでしょ!?」
「馬鹿者! 何故気がつかぬ! 主にやれる事を示す為に決まって居ろう!」
「ホセ殿、相談をせずに行った事。怒るのは違いますぞ。
しかし、これは必要な事だったのだ。救世主殿に安心して戦って貰う為にもな」
ああ~、そういう意図があったのか。
ケルベロス戦の間も周囲は完全に任せろってことね。
確かにある程度殲滅してからなら十五匹も任せられれば安心だわ。
「ホセ、貴方の言い分はもっともだわ。
けどね、相談しないのではこいつと一緒よ。悪い所まで見習ってはダメよ?」
リズは良い事を言った風に「私たちは意志を同じくするチームなのだから」と〆た。
「そうでしたな。アディ悪かった。もう勝手はせぬから許せ」
「絶対よ……次やったらホセ爺でも許さないから!」
と矛を収めるアディ。
だが、ちょっと待て?
「こいつと一緒ってなんだよ!?
お前、デカ乳ぶら下げてるからっていい気になるなよ?」
「はぁ? おっぱいは関係ないでしょうが! おっぱいは!!」
鎧の胸部を抱え込み顔を赤くするリズ。
そんな彼女に少し見惚れて、言い返す気が失せた。
くそう。またデカ乳に負けてしまった。
「それで、どうするんだ。まだやるの?」
「当然だよ! 今なら安全にやれるんでしょ?」
「そうです。今の内に減らしましょう!」
アレクとソーヤの言葉に皆も同意を示す。
「じゃあ、次の策敵は私が行くわ」
「えぇ~、じゃあ私がアディの監視するかぁ~」
「はぁ? この流れで無理して釣る筈ないでしょ!?」
アディの否定にホッとして「じゃあ、頼むな」と声を掛ければ二人は森へと消えていく。
それと同時にホセさんにケルベロスの事を聞かれたので再び同じ説明を行った。
「おお! それは行幸じゃ!
まあ女神様のお言葉通りの戦力を揃えられたのだから当然かの」
説明を終えるとご機嫌なようすを見せるホセさん。
「そうそう。皆心配し過ぎなんだよ。
後は他のスキルがヤバくなければすんなりいくはずだよ」
多少強そうではあったけど、難易度は想定よりは低そうだった。
いや、想定が高すぎたんだ。
きっとオークのボス戦で出来た脅迫観念の所為だな。
そうして会話している間にも二人が戻ってきて戦闘が再開される。
数は八。
かなり丁度良い数だ。
衝撃のある咆哮が飛んでも皆余裕で耐えられているし、本当に見守るだけだ。
最近そんなのが多いなぁ。
俺も一緒に戦いたいのに。
だが、全員に安定した戦いをされてしまうと入る隙間がない。
そうして続けていた討伐だったが、五度目の釣りに出た時、早朝に見た火柱が遠くであがったのが僅かに見えた。
即座に近場に転移して上空に上がれば、今回単独で釣りに出ていたリズの姿が見えた。
「おいリズ、下がれ!」
「た、戦うの!?」
「いや、置いてくるよ。俺が戻ったら再開しよう」
「そう。なら今日はもう終わりにしましょ。
距離が開いたら転移で戻ってくれる?」
ああ、そうか。もう割りと良い時間だわ。
んじゃ、遠くまで連れて行く必要はないな。
「わかった。離れるまで気を抜くなよ?」
そう言いつつも、さっきのお返しに『アースジャベリン』を撃ちケルベロスの気を引いておく。
地から迫り出した槍を苛立たしげに爪で引き裂き即座に火の玉が連続してこちらに飛ぶが、軽く避けてリズが見えなくなるまで待った。
もうそろそろ着いている頃合だろうと思い再び転移にて皆の所へと飛ぶ。
「ただいま」
リズの周りに群がっていた皆が大丈夫かと心配の言葉を投げる。
「こいつの言った通りだったわ。距離があれば私でも避けられる程度よ」
「だから、何で最初から信じてくれないんだよ……」
いや、こいつに言っても聞かないし仕方ないか。
「はぁ、もういいから帰るぞ!」と、終わりを告げてショウカへと戻る。
マリンさんたちに帰還を告げれば、会議を行いたいとの打診を受けたと言われ、皆でお城の会議室へと向かった。
「では、本日の会議内容ですが、先ず最初に外壁の件から――――――――
帝都内外の掃討は順調でそろそろ外壁に手を付けてもよいのではないかとの意見が上がっております。
それについてはカイト王のお手を借りねば成らぬ故、ご予定の刷り合わせをさせて頂きたい」
ああ、ラズリィの外壁ブロック持ってきて欲しいってことか。
「それはいいけど、どうする? 大きな所はやってあげようか?」
「いえ、確認した所、他は倒れるというより破壊された場所が多くてですな。
お手を煩わせるには些か時間を取り過ぎると判断致しました」
カブ老師は「こちらで何とか致しますのでご安心を」と頭を下げた。
「そっかそっか。んじゃ、明日ブロックを持ってくるよ。
壊れている所周辺に適当に置いておくね」
「ご配慮、感謝致します」
彼の声に続き、将軍や文官も頭を下げた。
やはり、こうして畏まられて頭を下げられるのは慣れないので「ほ、他には何かない?」と次に進める為に声を掛ける。
すると今朝話した避難民たちの話の再確認が行われ、その後は被害者数や重要施設の被害状況の確認へと移っていった。
「ここからは私たちが口を出す話ではなさそうね」
「そうですか。
では、せめて情報の共有だけでも出来るように傍付きを付けさせて頂けませぬか」
そう言ってカブ老師が文官に目配せをすると二人の女性が連れてこられた。
うん。こちらの世界にとっては美女なんだろうね……
そう言いたくなる外見だ。
レナードが「へぇ」と声を漏らし女性陣の視線が厳しくなる。
そんな中、余裕の表情を浮かべたアリスが立ち上がる。
「無駄ですわよ。カイトさんは私みたいな女性が好みなんですの」
「は? 何であんた限定なのよ。カイトくんは私に下手惚れなんですぅ!」
「あら、アディさんの粗暴さにカイトさんが取り折引いている事に気がついておりませんの?」
アディが「あんただけには言われたくないわ!」と返し睨みあう。
「えーと。こうなっちゃうから付けるなら男がいいかな」
「むぅ。お好みの女性を選んで頂くというのは……」
「くどい! 要らないって言っているの!」
「そうです。ただでさえこっちで浮気されてるのに!」
お、おいアリーヤ。こんな所でそういう話しすんなよ!
ちゃんと罰は受けただろ?
あの屈辱的な……
小声で彼女を止めていれば、何故かカブ老師の目が光った。
「ほぉ。その方はご懐妊などは……」
「してないしてない! ねぇ、この話もう止めない?」
「どうかそう仰らずに。
神の庇護を失った我らが取り戻せるかどうかの一大事なのです」
うぐ。確かに長い目で見れば今後の種の存続にも関わるだろう。
そう言われてしまうと……
「だ、だから私たちの子供の代まで待ちなさいっての!」
「ですが、お帰りになられると聞いております。
どうか、どうかお頼み申し上げます。お子を残すだけでも……」
悲痛な顔で頭を下げるカブ老師に視線を逸らし続ける皆。
そんな中一人ゆるふわな空気をかもし出すエメリーが口を開く。
「まあ、私はルナちゃんたちなら別にいいけどぉ」
「ほう。そのお方は獣人で?」
「そだよぉ。こっちで一番最初に知り合ったんだって。ね?」
軽い感じに返すエメリー。
睨むようないじけたような視線を向ける皆。
止めて上げて。俺のHPはもうゼロよ。
「では、是非ともそのお方とお子を!
無理に我が国にとは申しませぬ! ですから!」
そう申されましても……
「ダメだよね?」と、皆を覗き見る。
「うーん。まあエヴァなら別にいいけど……」
「ノアの想いは知ってるから強く否定はできないかな……嫌だけど」
えっ?
一番嫌がりそうな、ソフィとアディが同意しただと!?
確かに三人はうちの皆と打ち解けてきてたけど……
いいの……受け入れちゃうよ?
俺は嫌じゃないんだよ?
いや待て。
ここで表情を崩したのがバレたら負けだ。と額に手を当てて考え込んでいる様子を見せ続ける。
ほら、誰か何か言って!
俺が答え出したら怒られるから!
そう思いながら長考をしている風に装っているが、無言が続く。
あれ、何で誰も何も言わないんだとチラリと手を退けてみれば皆が俺を見ていた。
何?
俺に決定権を託すってこと?
じゃあ、受け入れちゃうよ?
「やれやれ、皆がそう言うなら仕方がないな。
だが、一度受け入れるって言ったら取り消せないぞ。
三人を無駄に傷つけることは出来ないからな」
よし。これで大丈夫だろうと周囲を見回す。
だが、許された空気は流れていない。
数人から「は?」と威圧的な声が飛ぶ。
「全員いいなんて言ってないけど?」
「その前にやれやれって何よ! こっちは我慢してんのよ!?」
「私は男らしくお断りして欲しかったです……」
怒り出すアディとリズ。
断って欲しかったと潤んだ瞳を向けるサラ。
冷たい視線を向けるアリーヤとアリス。
「皆さん、お待ちになってください。サオトメ様を責めてはいけません。
サオトメ様は皆が納得できる様、最初はしっかり断っておりました。
要らぬ情報を与えたのも話に流されたのも皆さんですよ?」
援護の声を入れてくれたユキ。
ユキはいい子だな。
そうだよ。俺もそう思っていたの!
ふぅ、これで漸く一息つけそうだぜと気を楽にすればレナードと視線が合う。
「あーあ。カイトさんも大変だな。
こんな我侭で不細工どもを連れ合いにするなんて言っちまってよ」
あ、馬鹿、お前……
言っては成らん事をと引きつった顔を向ければ案の定。
「「「「れなぁぁぁどぉぉぉ!!!」」」」
ほら……
これ、いつもは俺のセリフなんだけどな。
そんな事を思いながらもリンチに合うレナードを素通りして俺は会議室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます