第142話


 魔法関係の話が一旦落ち着いて、『絆商会』皇国支店の応接間にて腰を落ち着け皆で雑談タイムとなった。


「ああ、大変言い難い事なんだがな……」

「どうしたんですか。まさか、また問題発生ですか?」


 コルトが不安そうに問いかけてくるが、そういうことじゃないんだよ。


「いや、あのだな……

 実はさ……俺、死んでから直ぐに復活させて貰ってたんだよね」

「「「はぁぁぁぁぁ?」」」


 お、おおう。

 皆の目が冷たいものへと変わっていく。


「待った! これには正当な理由がある。俺は悪くない。運命が悪い!」

「いいですわ。言ってごらんなさい。

 聞いて差し上げます。このアリスを悲しませるに足る理由だったかを……」


 踏ん反り返って見下してくるアリス。


 ……ちくしょう、責め時だと思って強く出やがって。

 夜になったら覚えてろよ。

 それはそうと早く説明しないとな。


「ディーナに言われたんだよ。このままじゃお前たちが死んでしまうって。

 だから三年後の有事まで離れたまま鍛える事を勧めるってさ。

 まあ、ただの予測だから最終決定は任せるとも言われてたんだけど」


 言い出してしまえばさらさらと言葉は続いた。

 ホセさんも「確かにそう言われては主じゃそちらしか選べぬな」と返してくれた。


 これは許される流れ!

 一気に言ってしまうしかない!


「それでだな、獣人を助けたりしながら向こうでダンジョンに篭ってたんだよ」


 ど、どうだ……

 第一関門は突破か?


「ふーん。じゃあ、何で今になって覆したの?」


 アディはまだ疑いの視線を向けているここは慎重にこたえよう。


「そりゃ、よくよく考えたらお前ら絶対参加するって言い出すだろうし、だったら魔法教えて強くなるのを後押ししなきゃ拙いだろって思って。

 後、嘘吐いてるのも嫌だったし……」


 しょぼくれた顔を作りチラチラとアディの顔色を伺う。


「それだけ?」


 えっ!?

 それだけじゃダメ!?


「えっと、その、寂しかったのもある」


「嘘じゃないわよね」と問われたので自信を持って「当たり前だろ」と答えた。


「……じゃあ今回だけは特別に許してあげる」


 そう言って甘えてきたアディ。

 よっしゃ! とうとう許された!


「それで、獣人はどうだったんだよ?」


 バ、バカ!! お前それ聞いちゃダメだろ!?

 いや待て落ち着け、大丈夫だ。落ち着けば大丈夫。


「は、はぁ? どうだったも何もねぇし!

 普通だし! お前、何言っちゃってんの? はぁ?」


 ふぅ……あぶねぇあぶねぇ。

 レナードトラップを今回はしっかり回避したぜ。

 しかしこの野郎め……まだ反省してやがらねぇな?


 胸を撫で下ろしたはいいのだが、みんなの視線がおかしい。

 男性陣は苦笑し、女性陣は冷たい視線を向けている。

 何でだ? 回避したぞ!?

 俺はしっかりやれたはずだ!

 審判! 不正ジャッジだ!


「カイト様、何も無いなら連れて行ってくれますよねぇ……?」

「あっ! 私も獣人見てみたぁい! いいよねぇ? カイト様ぁぁ?」


 サラとエメリーですら視線が冷たい。

 結局これはあれか?

 またレナードに嵌められたってことか?


 逃げ場のない窮地に追い込まれた事実に怒りがふつふつと沸いてくる。


「れなぁぁぁどぉぉぉ!!」

「なんだよっ!? 今回ばかりは何もしてねぇぞ?」


 嘘をつけ! 絶対に嵌めただろ!?

 なぁ、とコルト同意を求めた。


「いいえ。これはどう考えても自爆ですよカイト様」


 彼の言葉にホセさんまでが「そうじゃな」と頷いた。


「そ、そう。いいもん。そうやっていじめるなら逃げるから!」

「あらぁぁ!!!

 人をあれだけ泣かせておいて、そんな事が許されると思って居るのかしらぁ!」

「そ、そんなに泣いてくれたのか?」

「そ、そうよ! 悪い!?」

「ありがとな?」


 お礼を言いリズを抱きしめる。


「カイト様もしかして……

 私たちがあれから何も思わずに過ごして来たとでも思ってます?」


 何とかリズを宥めたと思ったのだが、今度はアリーヤが怒り出した。


「いや、違う違う。そこまで考えが回らなかったんだよ。

 いきなり人類の命運を握らされて、アリーヤを守らなきゃって必死だったんだ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ!」


 それは間違いない事実だと強い視線を返ぜば、彼女はむくれながらも膝にぽふっと倒れ込んだので、頭を撫で撫でした。


 よし、クリア!

 これで、クリアだろ!?


 いいや、付け入る隙を与えちゃいけない。

 俺から切り出すんだ!


「それでな、獣人の住む地のダンジョンなんだがな。

 こっちの三十階層程度の難易度から始まるんだよ」


 そう前置きして「移動がめちゃくちゃ楽になるだろ?」と言ってやれば彼らは沸き立った。


 三年で百階層という目標に不安を感じていた様で男女問わず満場一致で即決した。

 そして場所はどこなんだという話に繋がる。


 地図を出してここら辺だなと、地図の外を指差せば「凄く遠いね。何日かかるの?」とアレクが真剣な顔を向けた。

 いつもそういう顔してればいいんだが、と思いつつも「それについては問題ない」と返す。


 そう、魔力不足で使えなかった魔法が使えるようになったから、移動については問題なくなったのだ。

 まあ、気楽に使える魔法じゃないんだけど。


「早速行きたいところだろうけど、こっちでもやりたい事があるんだ。

 リックにちょっと協力して貰いたいんだよね」


「えっ!? 俺ですか?」と驚くリックにお願いしたい事を告げた。


 それは民家の購入だ。

 その理由もセットで説明する。


「俺さ、今獣人の領域で国を作ってるんだよね」


「「「く、国!?」」」


「町ではなく、国とはな……さすが主はやる事がぶっ飛んでおる」

「飛んでるってちょっとホセさん!?

 ちゃんと周辺国の王には了解取ったからね?」


 その発言に「凄い!」とか「よく許されたわね」と驚きの声があがる。


「それはわかりましたが、何故資材ではなく家なんですか。

 ここで買い取りして欲しいって話ですよね?」

「ああ、家を持ち運べるスキルも使える様になったんだ。

 さっき教えようとしたアイテムボックスってやつなんだけど、容量が魔力依存で俺の場合かなり入る訳よ」

「何でも出来て、ご主人様はもう無敵ですね」


 リディアが猫の様にじゃれてくるので抱きしめて髪をわしゃわしゃして遊ぶ。

 リックが俺のやりたい事を理解してくれた様で「なるほど」と呟く。


「そちらに家を持っていきたいって事ですね?」

「そう。まだ三十軒程度しか無いからさ。とりあえずあと三十くらいは欲しいんだ。

 あ……お金、どんくらいあったっけ……」

「お金の心配は要らないわ。

 それに当てられるお金は最低でも大金貨で九百枚以上はあるから」

「絆商会でも動かせるお金は大金貨で二百程度はありますよ」


 うおお……なんかいつの間にかうちのギルド超お金持ちになってる。


「ははは、少なくとも大金貨九百枚は救世主殿のお金ですぞ。

 教国と皇国から送られた物ですからな」


 アーロンさんに何故ギルドのじゃなくて俺のなのかと聞いてみれば、教国は魔法を教わったり色々世話になったという名目で、皇国は国を取り返した事の褒賞金だと言う。

 皇国からのお金に限っては皆で分けるものだろと言ってみたが、当然の様に辞退された。

 皆お金は有り余っているくらいだと言う。


 オークの討伐かなと思っていたが全然違った。

 そっちでもそんな話しが出たらしいが人類全体の危機だったからと辞退したそうだ。


「カイトさんはそんなに要らないと言うと思っていたので……」


 少し気まずそうにコルトが言うので「いや、それでいい」と彼らの判断を肯定した。

 というか、今は家を買えればそれでいいのだ。

 俺たちはお金なんてもう簡単に稼げるのだから。


「てか、リック凄いな。もう大金貨二百枚も稼いだのか!?」

「いえ、半分以上は皆さんのドロップ売却を請け負ったからですね」


 一応、レアドロップや価値のあるドロップは持ち帰って居たそうだ。

 今回も大量に持ち帰ってきたらしい。

 アイネアースの時同様にリックに卸して捌いて貰っていたそうだ。


 ただ、全額手元にある訳ではなく資産と収益を考えて問題なく借り受けられる分も入っているそうだ。

 今や此処だけじゃなく他に二つ大型の宿舎を持っているらしい。


「凄いなリック社長!

 それだけ成功してりゃ、そろそろ女性の方から寄って来るんじゃないか?」


 ニヤニヤと問いかけてみれば「やめてくださいよ、折角結婚出来たばかりなんですから!」と彼は言った。


 どうやら、あの時の女性と上手くいったらしい。


「そりゃ目出度いな! おめでとう!」

「ははは、すみません。こんな時に自分ばかり……」

「馬鹿言ってんじゃないよ。

 何も問題がないのに仲間の幸せを喜ばないはずないだろ」


「なぁ?」と皆に振ったがレナードとコルトが目を逸らした。

 どうやら祝ってやってない様子である。


「お前ら……そんなんだからモテないんだぞ?」

「あっ、カイトさん今言っちゃいけねぇこと言った!」

「俺は、レナードよりはまともなはずなんだが……」


「は?」とレナードの矛先がコルトに向かい口喧嘩が始まる。


「やめろやめろ! 獣人にも可愛い子一杯居るから! な!?」


 周りに聞こえない様に耳打ちしてやれば、ピクリと二人は反応を示して姿勢を正した。正直なやつらめ。


 聞かれていないよなと見回せばユキが何故か口を尖らせていた。


「ユキどうしたんだ」


 まさか、聞かれてないよな?


「シホウイン殿だけずるいです……」


 ああ、良かった聞かれてない。と思いつつも何の事だろうと考えれば直ぐに思い至った。

 アカリにした事といえば飛んで連れてきたくらいだからだ。

 そういえば、ユキを始めて連れ出した時も新しい景色を見ては騒いでいたっけ。


「ははは、ユキも案外子供なところがあるよな」


 そう言いながらも、彼女を抱きかかえて窓から飛び出した。


『フライ』


「き、き、きゃぁあああああ!」


 あれ?

 まだゆっくり飛んでるんだけど、高い所ダメな人?

 ゆっくりと屋上に降りて「大丈夫か」と問いかける。


「だ、大丈夫です!」と頑張って返すものの顔色は青い。


「悪い、てっきり空飛びたいのかと……」

「ごめんなさい。シホウイン殿ばかり抱きしめて貰っていたので羨ましくて」


 あそっち?

 と彼女を降ろして正面から抱きしめた。


「このくらい何時でもいいよ。ユキなら大歓迎だ」

「あぁ……なんとお優しい。サオトメ様、心よりお慕いしております」


 おおう。思わぬ告白を受けてしまった。これは、どうしたら……

 抱き合ったまま悩んでいたら皆も屋上へ上がってきた。


 どうやら、空の旅を経験したいらしい。

 上手い事うやむやにはなったが、ちゃんとユキに返事を考えないとな。

 どう言えば一番傷つかないで済むのだろうか……


 そんな事を考えながら交代で皆を空の旅へと招待した。


 交代で何度か飛び回れば、エメリーが突如声を上げた。


「あれぇぇ? うわ、飛んでるぅ! これ、どうしたらいいのぉ!?」


 どうやら、彼女は『フライ』を習得したようだ。

 ふわりと浮かび上がり、手足を動かしているが移動は出来ていない。

 不安そうなので直ぐに隣につけて手を握った。


「大丈夫だ。凄いぞエメリー!」

「ほんとぉ? へへ、やったぁ!」


 その後、飛び方をレクチャーすれば彼女は普通に飛行魔法を使える様になっていった。

 もしかしたら出来るのかと再び皆に教えてみたら、飛べる様になる奴が出始めた。

 エメリーの「足から少しずつ魔力を放出し続ける感じ」という助言が功を奏したらしい。

 俺としてはただ纏いの様に留めれば出来たのだが、そっちは難易度が高かったのだろうか。


 そんなこんなで魔法習得に勤しんだあと、俺たちは宿を取り一夜を明かした。

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