第141話
戦争も終結し色々順調ではあるのだが、俺は一つの大きな問題を抱えていた。
「ああ、帰ったらやっぱり怒られるかなぁ……」
そう『絆の螺旋』の皆に復活している事を伝えるべきじゃないかと強く思い始めたのだ。
その理由は大きく考えて三つある。
一つは移動面を鑑みて、ダンジョン効率がこっちの方がいい事。
二つ目は新たな魔法を逸早く伝えてあげるべきだという事。
そして三つ目、このまま黙っているのはいくらなんでも不誠実だろうという思いが抜けないからだ。
だが、ディーナから誰かしらは高確率で死ぬと言われた不安も抜けない。
でも三年後に結局達成したから参戦しますって言われた場合を考えたら、今効率を上げてもっと強くなって貰うべきだろう。
ディーナに相談しても自分で決めろって言うしな。
まあ、確定した未来が見えない以上はこんな決定を人任せにするものじゃないんだろうけど。
いや、女神任せならいいのか?
うーん……まあいっか。とりあえず行って話し合おう。
俺たちはずっとそうして来たんだ。
わかってくれなかったらそれを理由に転移で逃げよう。
出現場所は教えてないし。
騙すよりは良い。
うん。困ったら逃げる。それが俺のスタンスだ。
よし、じゃあ何処に飛ぶかな。
やっぱり大迷宮が近くにあるシーラルか?
それとも様子見でアイネアース行ってアレクに相談をしてから……
いや、相談ならアイザックさんの方がいいだろ。
よし、絆商会の皇国支店へ飛ぼう。
『テレポート』
スッと景色が切り替わり、見知った建物の前に出た。
昼間なので余り人気は無いが、変わった様子もないので恐らく中に居るだろうと奥へ進んでいく。
そして執務室の扉を開ければ、予想していた通り仕事をしているリックの姿があった。
「えっ? カイト様……もう生き返れたのですか!?」
「おう! 皆元気か?」
勢い良く立ち上がり、足をぶつけたリック。
此方に倒れこんできたので「大丈夫か」と『ヒール』を掛けた。
「す、すみません」と恥ずかしそうに笑いながらもその後の皆の話をしてくれた。
ポルトールから来た騎士たちと『おっさんの集い』メンバーはアーロンさんを抜かして全員アイネアースに帰ったそうだ。
彼らでは三年で百階層は到底無理だという判断に従ったと言う。
それ以外のメンバーは全員大迷宮から帰って来ないらしい。
この八ヶ月とちょっとで帰ってきたのは二度だけ。
うーん。無理するなって言ったのにかなりガチってるな。
階層はリディアとユキは六十一階層、アレクたちが六十九階層辺りでホセさんが七十七階層、他がその間だそうだ。
アレクは結局こっちに残ったのか。
しかし……いくらなんでも進み過ぎじゃないか?
たった八ヶ月で二十階層以上だぞ?
それを聞いてこれはダメだと即座に呼び戻す事にした。
絶対に皆無理をしている。
現在の階層を鑑みるに安全マージンも捨てて完全に効率を取っているのだろう。
確かに俺も四十階層近く進んでいるがそれと比べてはダメだろう。
俺が進行が早いのは身体能力強化魔法とその他のバフのお陰で、皆にとっては明かな格上を安全に倒し続けられるからだ。
レベルが低い状態でも安全に降りて行けるのだから一緒にしてはいけないのだ。
うちでは危険行為厳禁だって言ってるだろうにと思いながらも、リックに通信魔具を全部出して貰い、その中の一つを適当に取り魔力を送る。
一括で起動させてもいいのだが、責められそうで怖いので一個一個様子見だ。
『どうした? 昨日連絡取ったばかりだろうに』
ああ、よかったこいつか、と思いつつも久々に聞くレナードの声に帰ってきた事を実感して自然と心が和む。
「おいレナード、今すぐ皆と連絡とって帰ってこい。説教だ!」
『はぁ? マジでか!? おい! 本当に帰ってきたのかよ!?』
「いや、帰って来るのお前らな?」
向こうで小さく『この頭悪い感じマジでカイトさんだ』と聞こえてきた。
「レナード、聞こえてるからな。お前帰ってきたら覚えてろよ。
そんで、皆と連絡は取れるのか?」
『ああ、問題ねぇよ。とりあえず即効で帰るわ!』
「いや、危険な事はするなよ? その事で説教だからな?」
軽い感じに問題ないと返して通信を切ったレナード。
ほんの数秒で再び通信魔具が光る。
『カイト様!?』
「その声はサラだな。皆元気か?」
『カイト! 本当にカイトなんだよね!? カイトカイトカイトカイトぉ!』
まるで、ヒロインの様に俺を呼び続ける声の主は良く知る男のものだ。
……アレク?
お前、悪化してないか?
「ええと……落ち着け。色々ヤバイぞ」
『カイト様ぁ……早く逢いたいよぉ』
「おう。俺もだよソフィ。危険のない速度で早く帰っておいで」
その後も代わる代わる通信が来て漸く皆との話が終わった。
リックと向き直り「アイザックさんが見当たらないけど、出てるの?」と尋ねた。
「いえ、スウォン公領で騎士が不足しているからという理由で、皇帝陛下から直々にそっちで支店を出さないかというオファーを頂きまして……」
ああ、なるほど。
ルークも頑張ってるみたいだな。
皆との話が落ち着いたら連絡取ってみるか?
おっと、今は状況確認だな。
「ソフィアとかアカリは?」
「シホウインさんは実家に帰省しています。
ただ、三年後には絶対に戻ると念を押して居ましたけどね。
ソフィア様も同様です。誰も帰らない訳にはいかないからと帰省してます」
ああ、じゃあ近いアカリから連絡を入れるか。
しかし、どれだろうと首を傾げれば別の所からリックが出してくれた。
「アカリ、今戻ったぞ」
『あ、ああっ、聖人様! 本当に聖人様で御座いますか!?』
「どうした。口調が最初に戻ってるぞ」
笑いながらそう返せば向こう側でどたばたしているのが聞こえる。
『あの、今、今すぐ行きます!』
「ああ、迎えに行くよ」
『え? よ、宜しいのですか!?』
どうせ皆が戻るまで時間は結構あるんだと、アカリを迎えに行く事にした。
『テレポート』で彼女の家の前へと飛んで「家の前着いたぞ」と声をかければ珍しくどたばたと走ってきて息を切らしている。
「お、おかえり、なさい、ませ!」
「ああ、ただいま。このまま連れてっていいのか?」
行き先がシーラルだと告げれば彼女は身一つで問題ないと返した。
どうやら荷物の大半を置いてきているそうだ。
ならばと彼女を抱っこして『フライ』で飛び上がりシーラルへと向かう。
「と、飛んでおります!」
「ああ、飛んでるな」
「はい! 飛んでおりますっ!」
やはり空の旅は大好評だ。
目がキラキラと……って泣いてないか!?
「アカリ!? どうした?」
「も、申し訳、ございません。
私が女神様のお言葉を上手く伝えられなかったばかりに……」
どうやら彼女はオークキングもどきが無防備だと言ってしまった事を気にしているようだ。
実際は進化前で弱体化していて、今は眠っているという話を聞いたらしい。
アカリは起きないものだと決め付けて無防備だと言ってしまった、と懺悔する。
「いや、どちらにしても変わらなかったよ。
最後は何とか倒せてそれから自爆されたんだしな」
それは進化中特有の特殊攻撃なのだそうだ。
これには覚えがある。
昔、一番最初にヘレンズに向かった時に出た初見殺しの自爆した目玉の魔物も恐らく進化中だったのだろう。
あの時はこんな初見殺しふざけんなと強く憤ったのにすっかり忘れていた。
とにかく、アカリの所為ではないよと言い聞かせて慰めた。
そうしていれば直ぐにシーラルへと着いて、アカリと支店に入り今度はソフィアだと連絡を取る。
「今戻ったんだけど、アイネアースのお城に迎えに行けばいいのか?」
『えっ? だって、まだ一年も経ってないのに……』
「なんだよ。嫌なの?」
『そんな訳ないでしょ!! お城よ。早く、早く来て!』
「俺がよく監禁されそうになった部屋?」
『え? ええ、今はその部屋に居るけど……?』
やっぱりあそこか。王女の寛ぎ空間って感じだったもんな。
あの時は本当に困ったよなぁと思いつつ『テレポート』で移動した。
「はっ!? 待って! どういう事!?」
「へっへっへ、転移魔法だ。女神に貰った力その一!」
ドヤと腰に手を当てれば、ゆっくりと近づいてきたソフィアが体をぺたぺた触ったあとギュッと抱きしめてきた。
「ああ、シーラルで皆と合流するんだが、城を出られるか?」
「ダメって言われても行くわよ。でも一応言っておく……」
彼女は泣きそうな声で通信を繋げ、カミラおばちゃんと話し始めた。
後ろを向いての会話だが「ええ、今それ?」なんて声が聞こえてくる。
「ねぇ、お母様があなたにまたおかあさんって呼んで欲しいって」
「何でだよ! まあ、いいけど……
義母さん、久しぶり! ソフィアとちょっとお出かけしてくるね?」
『あら……もう行っちゃうの? 折角だから泊まって行きなさいよ』
「いや、俺女神に仕事与えられちゃってさ。しばらくは忙しいんだ。
三年もすれば落ち着くからその時ね」
そんな雑談を繰り広げ、了承を貰えたのでそのまま彼女を抱っこして飛び上がる。
「その二の飛行魔法だ」
「もう、何でもありね。素敵だわ」
出会った時からすると考えられない様な綺麗な微笑を見せるソフィア。
「離れている間にまた綺麗になったんじゃないか?」
「ホ、ホント!?」
「ああ、本当だ」
そう言ってやれば空なのもお構いなしに抱きついてはしゃいでいる。
「そうだ、一緒に帰省した他の奴らは元気か?」
「ええ。強くなり過ぎたらしくてポルトールからも貴方向けに感謝状が来たわ。
同じくヘレンズからもね。
残った『おっさんの集い』のメンバーと合流して楽しくやっているそうよ」
ああ、そうか。ヘレンズに残った奴らも居たんだったな。
まあ、何にせよ楽しくやれてるならオッケーだ。
俺が居ない間の事をちょいちょい教えて貰いながらシーラルへ戻る。
移動が大変楽になったもんだ。数日が数十分レベルだもんな。
はい着いたと支店の中へと入れば、もう既にアディたち七人が待ち受けていた。
「カイト君!」
「「「カイト様!!」」」
皆に飛びつかれるが、先ずはお説教だと引き剥がした。
「お前ら、相当無茶してるだろ!?」
リズ、アディ、エメリー、サラ、アリーヤ、ソフィ、アレクに向けて強く言い放つ。
「してないよ。全然してないもん」
「ソフィ、可愛く言っても無茶は許さないからな!」
頬をむにっと掴んで横に引く。
力を入れて無いからかニコニコとされるがままになっている。
「無茶なんてしてないわ。してないもの」
「いや、お前エムだからってソフィの真似してまで叱られにくるなよ」
「ばっ、違うわよ! この馬鹿!」
ソフィから手を離してリズの頭を撫でた。
「わ、私も無茶してませんよ?」と、それから無茶してませんラッシュが続き、一通りハグしたり撫でたりした後再びもう一度説教を始めた。
だが彼女たち曰く、長時間はやっているが睡眠は取っているし本当に危険のないレベルでやってきたと譲らない。
一応話しは聞こうじゃないかと彼女の言い訳を聞いていけば、そこまでの無茶でもなかった。
俺みたいにボス前で止まらず協力して叩き、討伐する階層を一撃縛りから二撃縛りにまで引き上げたらしい。
それも急所を狙えれば一撃もあり得るレベルで、だそうだ。
三人一組でやってたから危険はなかったと全員から言われてしまった。
そう聞くとそこまで危険でも無さそうだ。
「そ、そう。じゃあいいかな?」
話していると残りのメンツも帰ってきた。
こっちは主に男メンバーだ。
ホセさん、アーロンさん、レナード、コルト、ソーヤ、アリス、リディア、ユキが部屋に入り『お帰り』と各々の言葉で帰還を祝ってくれた。
「そんで、説教ってなんだよ」
「ああ、そりゃもういいや。それよりお前らに朗報だ。
新しい魔法とスキルを入手してきた。覚えられるものは覚えてくれ」
と、移動魔法からバフスキルまで長時間を掛けて彼らに伝授した。
やはり転移や飛行魔法、アイテムボックスなども教えて覚えられるものじゃないみたいだ。
ステータスが上がるバッシブスキルも教えようがない。
結局まともに覚えられた戦闘効率に直結しそうな魔法は『フォートレス』と探知系くらいなもんだった。
あれ、もしかしてあんまり意味ない?
そう思ったが、意外にも身体能力強化は使えそうな兆しがあった。
「これは……主の纏いよりも更にすごいのう」とホセさんが完全にとは言わないが七割程度の完成度で強化魔法を使えていた。
年単位の修練が必要だと思っていたのだが、完全じゃなくても発動に問題のない魔法だったな。
どうやらかなり効果が上がっている模様。
ただ、魔力消費量がかなり下がったとはいえ通常の纏いの倍近い消費があるから常時展開は無理だろうな。
思ったよりもみんなの強化に繋がらず、残念。
「おい、カイトさん! 出した魔力を内側に向けるってなんだよ!
教えろって! これは覚えねぇとダメだろ!?」
そう言って騒ぐレナードに解説を入れれば全員が黙って真剣に聞いていた。
そうして後は自主訓練でと話が落ち着いた後、俺は帰ってきた理由について初めて触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます