第136話
二週間が経ち、六十階のボスの大ワニを倒した次の日にワール王に呼び出された。
ゴブリンキング討伐の件は一度話し合いをしたから既に終わっているはずだ。
もう既に報酬と定めた大佐という地位も貰ってある。
彼はつまらない面倒を押し付ける様な事はしないだろう。そうなると何で呼ばれたのかが尚更わからずアマネさんに尋ねた。
「連合会議があるの。そこで貴方の存在知らしめておきたいそうよ」
あぁ、参戦するなら顔出ししておいた方が良いって事か。
「じゃあ、挨拶だけして聴いていればいいだけか」
「随分と落ち着いているのだな。わらわはそわそわして堪らん」
各国首脳会談に代表として出る事に少し挙動不審となっているクレア。
呼ばれたのは俺たち三人だけだ。
アマネさんは事前打ち合わせで主要国との会談を済ませているようで、内容を殆ど把握しているようだ。
今回の内容は、どの国がいつまでにどれだけの戦力を出してどの程度の賠償金をディンバー王国と獣王国に要求するか、ということらしい。
恐らく、戦後にゆっくりと返していく借金という形になるだろうと気重い空気で言っていた。
「結構しょっぱなから大詰めまで決める内容なんだな」
「ええ。聞けば降伏勧告を出されている国が参加国にもあって、予断を許さない状況らしいの」
いきなり攻めてくるものじゃないのかと問えば、そんな事をすれば普通は周辺国が問答無用で立ち上がり敵対国に囲まれるから出来ないのだそうだ。
本来は大儀を掲げ、攻めなければいけない理由があるのだと周囲に宣言するものなのだとか。
獣王国の時は宣戦布告と同時に責められたが、平和ボケしていた事や実子が先導していたことにより内輪もめと取られた為、様子見をすると決まったらしい。
そうしている間に落とされた国の数を見れば、どこも尻込みをしてしまうまでになってしまったとのこと。
要するに、彼らの時間稼ぎにまんまと嵌ってしまったという訳だ。
そうした説明を受けながらも案内の人に付いていけば、映像通信はもう既に行われていた。
大きな円卓に八つの台座があり、その上に映像通信の魔具が置かれ六つが光を放っていた。
「ああ、来た様だ。早速始めさせて貰おう。
各々、名乗りを上げた後、そのまま本題に入らせて頂く」
ワール王が主催として名乗り次々に各国の王が名乗っていく。
ロンド王
ディフ王
ファスト王
ブライト王
ボルト王
ゼラム王
彼らが名乗り終わると最後にアマネさんが名乗った。
視線がこちらに向いたので俺も立ち上がり自己紹介をする。
「ええと、私はカイトと申します。
もしもの時の助っ人として控える予定なので宜しくお願いします」
軽く頭を下げて着席すれば二人の王がワール王へと視線を向けた。
「この方は伝承にある人族でありこの戦いとは本来関係ない。
だが、我らの手に終えない場合に限り手を貸して頂けるとの事で同席して頂いた」
「人族だと……待て、ワール王よ。
俄かには信じがたいが、それが事実だとして多種族の力を借りると言うのか?」
「ワール王よ、正気か?」
どの通信の映像を見ても王の補佐であろう者が王に進言を行っている。
その様子を見るに、多種族であるという話は伝わって居なかった様だ。
ワール王が手で制し場を静まらせる。
「ならば我らで解決すればいい。
申した通り、我の敗北が濃厚となれば出て貰えば良いだけのこと。
私は負けるよりは断然良いと思うが?」
「確かにゴブリンキングを単独で倒す強者がこちら側に居るというのは大きいが」
最初に名乗りをあげたロンド王が口を開けば、ゴブリンキング討伐という言葉にボルト王、ゼラム王が強い反応を示した。
『それは真か』と。
「事実だ。我が弟ジェレが立会い確認した。魔石もここにある」
「「「おお」」」
ワール王がテーブルの中央に魔石を置けば、各国の王が感心の声を上げた。
「それに、もう残された時間は無いはずだ。
本来ここには後二人の王が参加するはずだったのは知っての通り」
どうやら、この短期間で二つの国が参加できない状態に陥ったらしい。
降伏を受け入れたのか、戦って散ったのかは口にしていないのでわからないが。
「それは重々理解しておる。
だがこれだけは事前にはっきりとさせねば成らん。
カイト殿は報酬に何を求める」
ロンド王の問いかけに各国の王の視線がこちらへ集中する。
一昔前なら緊張でガチガチになっていただろうが、今ではもう慣れたものだ。
「あぁ、じゃあ地図をお願い出来ますか?」
そう言ってワール王に地図を用意して貰い、何処の国の領土でもない場所を大きく囲った。
「この何処かしらに国を作るんで、それを認めて貰うというのはどうですかね?
ああ、まだ場所が決まってないだけで全域をとか言う話じゃありませんよ。
普通の町一つ程度で構いません」
「なっ!? 国を作るだと!? ならん!
異種族がこの地で国を作るなぞ、そんなもの認められるか!」
ディフ王がワール王に「聞いていないぞ!!」と声を上げて睨みつけた。
「ディフ王は勘違いをしておられる。異種族の国ではない。
この地で盗賊により住処を追われた村人と、アマネ殿について来た民が迫害されぬ地を求めて未開の地で開拓をするだけの話だ。
そもそも此度のディンバー打倒に我らが乗り出さなければ、そこを治めるのはアマネ殿だったのだ」
彼がそう弁解すると、続けてアマネさんが口をひらいた。
「先ずは経緯をご説明させて下さい。
発端はアトルの民が地を追われる原因を我らが作ってしまった事に起因します」
アマネさんは国を追われたリリィたちの事情を人数だけを伏せて話した。
そして、俺がその村人に迫害される事がない自分たちの住処を約束した事も。
「ですので、そこに住まう異種族は今の所彼だけです。
そもそも未開の地で国を作ろうが責められる謂れはないでしょう?」
「貴殿らは軽く考えすぎては居ないか?
これが人族の侵攻の足掛かりだった場合どう責任を取るのだ!
そうなってからでは全てが遅いのだぞ!」
あー、そっちの心配しちゃったか。
確かに強さもわからない異種族が攻めて来るかもなんて怖すぎるわな。
「いいや、それは違うぞ。もとよりそうなれば終わりだ。
手を繋ぐ道を探した方が良いことは明らかである」
こんな空気の中、意外にもこちらを擁護される発言が出た。
そう発言したのは静観していたファスト王だ。
「あの霊峰を行軍して越えるのは最強の聖獣王ですら不可能と言わしめたのだ。
現にゴブリンキングを単独で討伐したのであれば、一人で国を相手取れる程だ」
「違う。違うぞファスト王!
敵が強大だから国を明け渡しても仕方がないなど愚の骨頂だ!」
ボルト王が強く言い放ち他の四人の王がそれに頷いた。
ファスト王が「明け渡すなど言っておらぬ!」と反論をする。
それに他の王が「それに繋がるという話であろう」と参戦して収集がつかない空気を感じたので別の方法を考える事にした。
「あー、じゃあいいや。ここで国作るのは諦めるよ」
「お、お待ちください! どうか、どうかもう少しお付き合いを……!」
あれ?
なんかワール王が勘違いしてるっぽい。
「いや、不安なのは分かるから、人族の領域の方で獣人の国を作ろうかって考えてるだけだよ?
俺、これでも向うじゃ結構偉いんだ。
少なくとも俺の領地を貰うくらいは多分出来るからさ」
うん。俺もあっちの方が住み慣れてるしな。
断然治安も向こうの方がいいし。
そう言えば、彼らはどういうことだと顔を見合わせている。
「俺の目的はアマネさんが言った通りだから、ここじゃなくても良いってだけだよ」
「御使い殿、彼らは現状を正しく把握出来ていないだけなのだ。
お手数だが今持っている魔石で一番大きい物を幾つか出して貰えぬか」
ワール王にそう言われたので大きい順に十個ほど出して並べた。
すると、彼らは揃って動きを止めた。
「こ、これは予想以上だ。どこのですかな?」とワール王に問いかけられた。
「東の川沿いにあるダンジョンの五十九階層と六十階層ボスから出たやつですね」
そう言って説明し終わると、ワール王は何故か各国の方へと向いて一つ頷いた。
「これで多少は理解できたと思う。一国では無いのだ。
それとこの方はただの人族ではなく、伝承にある神の御使い様だ。
これはワール国の威厳を掛けて真実であることを誓う」
シーンと静まり返った会議室に場違いの声が響き渡る。
「俺も誓うぜ! ゴブリンキングをたった二撃で屠ったんだ。
全獣人が束になっても絶対に敵わねぇのだけは間違いねぇ!」
何時の間にか入ってきていたジェレがあくどい顔をしながら言い放っていた。
「また、勝手に入って来やがった……呼ばないって言ったのに」
心底嫌なものを見たと言わんばかりの顔でクレアが呟く。
「ああん、お前はなんでいつも俺様をそんなに意識しやがるんだ。
さては俺様に惚れちゃってんのか?」
クレアは見た事もないほどに表情を歪め、切りかかりそうな顔をしている。
何故かアディを思い出して少し和んでしまった。
「ジェレ、各国で一人だと言ってあったはずだ。
獣王国はトップがまだ未定だから特別に二人呼んでいる。
ここまでは許すが即刻退室するんだ。いいな?」
「ちぇっ! わぁったよ。まあ話は外からでも聞けるしな」
相変わらず自由人の様で、がに股で肩を揺らしながらのご退場だ。
ワール王ナイス!
「ワール国の懐刀と言われたジェレ殿がこんな場に出てまで宣言するとは。
これは信じざるを得ないようだな……」
は?
あいつが一目置かれてんの?
いや、強さは一切見てないんだけどさ。あれを信じるとか本気で言ってる?
そんな疑問を浮かべている間に空気は一転していた。
「カイト殿に一つ問いたい。
それだけの力を有していながら、何故我らの承認を求めた」
は?
そんなの当たり前じゃん。
「いや、だって勝手に住み着いたら喧嘩になるでしょ。
喧嘩なんかしたってお互いつまらないですよ?」
仲良くして交流した方がお互い豊かになるし、豊かになれば治安もよくなるし良い事尽くめじゃん。
そう言って同意を求めたはいいものの、アイネアースに帰れた方が良いという思いが湧き出てきた。
「いいだろう。
ワール王の言を信じ、我らロンド国はカイト国を承認する!」
ちょっと待って! 勝手に人の名前付けないで!
「事実であれば認めざるを得まいな」
「力を示す戦争の報酬であれば同時に真偽も確かめられよう」
ロンド、ファスト、ブライトが賛成の意を表すとボルト王以外はしぶしぶと認める声を上げた。
「まあ、どちらに転んでも攻撃でもされない限りは諍いを起こすつもりは無いので、承認するかの判断は任せます」
「反対しても諍いを起こさぬか。ならば私が反対すれば大人しく出て行くのか?」
ボルト王は鋭い視線を此方に向けて問う。本当に構わないのかと。
「あーはい。それでも構いませんよ。あっちに居場所はありますから」
うん。無理は良くないしダメならダメで仕方ないな。
あれ……でもリリィたちに了承取ってないわ。
新天地がアイネアースって聞いて反対したらどうしよう。
その時はアマネさんたちにお願いすればいいか。異種族に警戒してるだけだしな。
うん。落ち着いたらこっそり会いに来ればいいだけだろ。
「ふん。ならば好きにすればよかろう。承認はせんが反対もしない」
うん?
出て行けって言ってたのにどうしてそうなった。
よく分からんと思いながらも不都合はないのでまあいいかと話を流した。
なんだかんだで建国を許された様で俺に対する報酬はそれに決まった。
「それはそれとして、現状は頗る宜しくない状態である。
アトルが降伏し、ザラームも落とされた。早急に対処せねばならんだろう。
我がゼラムでも何時開戦してもおかしくない状況だ」
地図を見ると、ゼラムはアトル、ワール、元獣王国の三つに囲まれている国だ。
ディフとボルトも今では勢力を大きく拡大させたディンバー王国の隣接国となっているそうだ。
その隣接国の中で宣戦布告されているのがゼラムらしい。
「是が非でも早急にゼラムに全戦力を集めて頂きたい!」
「それはわかっているが、今のディンバーが慣例を守るとも限らん。
宣戦布告はされていないがこちらも隣接地、うちからは出せぬぞ?」
「それはそうだが、隣接しておらぬ国は一先ずはゼラム優先で送るべきだろう。
ゼラムが落ちればワールが孤立する。ワールまで落ちれば終わりだぞ」
そうして話は漸く前に進に、応援に出した兵に一人当たりいくら戦死者の遺族にいくらと話が決まっていく。
強さの差が大きすぎるこの世界で一人頭なことに少し首を傾げれば、クレアが説明を入れてくれた。
「お前の様にどこまでも強くなるやつなどおらんわ。大半は十五階層前後だぞ。
三十階層を超えれば英雄に近い扱いを受けるものだ」
「なんでそんなもんなの。流石におかしくないか?」
気になる話だったので会議そっちのけでクレアと二人雑談を続ける。
難易度が高いからその程度になるのは当然なのか?
確かに若僧に聞いた話じゃ基本的に兵士は町に肉を供給する為に永遠とオークを狩りしたりするのが普通らしい。
いつまでもオークだけやってたって強くは成れない。
その話を聞いた時は強く納得した。
ご飯の為にやらなきゃいけないなら仕方ないし。
けど、ご飯調達部隊の他にも兵士はいるだろ?
そう問いかければ「当然いるぞ」と返事が返る。
そもそもダンジョンで狩れるようになるにはサポートを受けなければ無理だという理由で絶対的に強者は国に属した兵士なのだそうだ。
だから基本的に勝手な行動は許されず、命じられたままに食料供給や階層攻略を行う。
ああ、なるほど。
ダンジョンが好きだから行きたい階層に篭りますってのが許されないのか。
突出した強者というのが早々現れないのは仕方がないみたいだな。
ジェレがそこそこ強いのは自分勝手で傲慢で馬鹿だからなのだと彼女は豪語した。
クレアとこそこそ喋って居る間に会談は終わりに差し掛かっていた様だ。
「では、ここで決まった内容を最終決定とし動く事で宜しいか」
ワール王が〆の言葉を放てば一人一人異論が無い事を告げて通信を切っていった。
「御使い殿、申し訳ない。
私の力が及ばぬばかりに不快な思いをさせてしまいました……」
「いや、大丈夫ですよ。あれは普通の反応ですもん。
得体の知れない相手が近づいてきたら場合に寄っては威嚇するもんですよ」
「ありがたい。理解ある御使い殿を遣わしてくれた神に感謝を捧げなくては」
それで、どういう風に決まったの?
と問いかければ、アマネさんに呆れた目を向けられてしまった。
どうやらファスト、ロンド、ボルトからの援軍はすべてゼラムへと向けられ、一番距離が近いワールと獣王国の連合軍はゼラム北にある要塞にて待機しどちらにも応援に迎える様にするのだとか。
どれどれと地図で場所を確認すれば、盗賊のアジトがあった場所だった。
というか、幾つか潰したアジトの場所を指差してみれば全部国の所有する要塞だと言う。
北の要塞とは違う場所だが、リリィたちが囚われていたのもゼラム南の要塞だった。
「おいぃ! 全部盗賊のアジトにされてた場所じゃねぇか!」
と突っ込みを入れれば「ゼラムは要塞の管理もできぬのか」とクレアにすらダメだしをされてしまった。
誰も管理して居なかったのか管理者が殺されてしまったのかはわからんが、全てが盗賊に奪われたまま放置とか、流石に杜撰過ぎだろ。
だが、俺としては都合が良さそうだ。
行った事があるから一瞬で行けるもの。
「それじゃ、話が終わったのなら俺はダンジョンに行くけど。いい?」
ワール王が頷いてくれたのでいつもの様に俺は崖のダンジョンへと向かった。
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