第133話
宴会が終わった次の日、きっちり早朝から全員集合して移動を開始した。
車はこの村にあったものや盗賊から貰ってきた物、そして難民だった彼らが移動に使っていた物すべてを出して住民八十人を全員乗せて俺たちは車を引いて走った。
歩かせたら二日以上はかかると言われたので時間短縮の為だ。
地図で見た感じ飛んで三十分くらいなのに。
一番大きかった盗賊のアジトの向こう側なので俺が引けば一時間と半くらいで着く距離だ。
そう考えるとちょっと先行ってるねなんて言いたくなるけど、嫌われそうだから自重した。
しかし、ダンジョンでは出ないのにゴブリンは何処からやってくるんだ?
そんな疑問を走りながら若僧たちに問いかけた。
「ダンジョンの近くで稀に生まれるんだ。
管理されている所ならば直ぐに討伐されるが、町から離れた場所はどうにもならんからな」
あ~、アイネアースで言うところのダンジョンの外に沸く虫か。
こっちはゴブリンが生まれるんだ……
ちょっと生まれる瞬間を見てみたくはあるな。
「そんなことよりも、ゴブリンキングを本当に倒せるのか?」
「気付けばやられていてこっちに流れてくるなんて事にならないだろうな?」
「ふん、若僧でもあるまいし、そんなヘマするか!」
「な、なんだと……」とわなわなする若僧。ローガンさんがそれを見て笑っている。
「ははは、余りからかわんでやってくれ。まだ、精神面で未熟なのでな。
しかし、カイト殿の本気の戦いが見れるのは楽しみだ」
「あー危険はなさそうだし、皆で観戦とか出来たら面白そうだね」
うん。皆俺が戦えるの微妙に信じてないっぽいしな。
いや、状況証拠的に信じてはいるんだろうけど、素直に認めてくれないというか……
俺も、力を誇示したい訳でもないから普段は別に良いんだけど、こういう風に何かあった時に割りと会話が食い違うんだよな。
まあ、兵士たちの場合は自分の命がかかってるから怖いだけだろうけど。
「うーむ、こっちまでゴブリンが流れてきているな……」
「それ拙いんじゃないの。いろんな所で繁殖するんじゃない?」
ローガンさんに懸念事項を尋ねれば彼も苦い顔で頷いた。
恐らく、数が多すぎて討伐が追いついていないのだろうとのこと。
「本当にいつの間にか増えているからな……
最弱故に本腰入れれば直ぐ終わるのだが、今回は領地の外から流れてきているそうだ。
大変宜しくないことは事実なのだが、それではどうにもならん」
そりゃゴブリンが雑魚とはいえ、自国領で百万匹も育てるほど馬鹿じゃないよね。
オークの時と一緒か。
ディーナの話しでは本来、一定の数を超える事は早々ないのだそうだ。
その地の魔素量を超える数に繁殖することは出来ないのだとか。
だから、どんなに放置した所で上位種が一匹居る群れが十から三十程度できるくらいで止まるのだとか。
それを無視した大量発生は地中の魔素の流れが乱れた所為で起こるものらしく、その乱れは百年から千年程度の周期で必然的に起こるものなのだそうだ。
近場にダンジョンが無いほどそれが起こり易いのだとか。
百万の群れの方は魔素の乱れで出来た群れだろう。
それが散らばった所で他の地では魔素量上限までしか増殖できない。
だが、この地はダンジョンの難易度を見るに魔素が濃いはずだ。
そんな中でゴブリンなんていう弱い魔素を多く必要としない種だと、他に移って再び大量発生されてもなんらおかしくない。
まあ、ぶっちゃけると人が生活する為と考えれば、東の方には居てくれた方が助かる気もするけど。
戦闘用員育成的な意味で。
とはいえ部外者の俺がそんな事を意図的にやる訳にも行かないので、素直に討伐させて貰うけど。
戦えない人にとっては十分命を脅かす脅威だからな。
そうしてちらほら出てくるゴブリンを討伐している時だった。
通信魔具が光を放った。こっちに来てから早々使われた事のない通信魔具。
村に置いてきた物だ。
なんか問題でも発生したのか?
そう思いながら魔力を注ぐ。
『た、助けてくれ! アトル兵が攻めて来やがった!
出来るだけ時間を稼ぐ。今どこら辺だ?』
「今行く! 『テレポート』!」
恐らく、残った兵士の一人だろう。
切羽詰った声に、相談している場合じゃねぇと即座に飛んだ。
戻れば、本当に剣を構えた兵士たちにペネロペとオーロラが囲まれていた。
『サーチ』で人の動きを伺えば、大半は新しく建てたアマネさんの家で固まっていた。他にも家から動いて居ない。
「着いたけど、表に居る奴らが全て?」
『はっ!? あっ、転移か!!
多分そうだ。まだ来たばかりだからな。
ペネロペさんに剣を向けたから守りに出ようかと思ったが、その前に連絡だけはした方がいいと思って』
「ナイス判断! 後は任せてくれ」
そう返して通信を切り彼女らを囲んでいる兵士を飛び越えて二人の隣に降りた。
「お待たせ。待った?」
「嘘っ! 戻って来てくれたの!?」
「よ、よかったぁぁ……」
二人は座り込んだまま抱き合い、泣き始めてしまった。
せめて情報が欲しかったんだけど……
まあ、こいつらから聞くしかないか。
「で、お前らなんなの?」
「こっちのセリフだ! お尋ね者を匿った犯罪者共め!
アトル様は不穏分子を領地に置いておけないと仰せだ。
貴様らには全員即刻退去して貰う!」
「うん? 退去でいいの? 全員?」
「そうだ! 何も持って行くなとは言わない。
だが、力づくでも全員退去して貰う!」
あら? 切りかかってくるかと思ったが意外と優しい判決だった。
難民が流れ込んだのだから、国のトップが受け入れられないと断るのは割と普通にあることだ。
そうなると、暴れて問題クリアって訳にはいかないな。
「わかった。その方向で話し合う。せめて半日くらいは時間をくれ」
「その程度であれば構わん。
だが、その時になっても居残る様であれば切らねばならん。そのつもりで居よ!」
話のわかる奴だった。
一先ず二人を連れてアマネ家へと戻る。
そして状況を村人に話し、オーロラに何でこうなったのかを尋ねた。
その間に他の村人たちも全員集めて貰った。
「皆さんが出立して直ぐに、アトルの兵士が来たので、こちらの兵士さんを見せない様に応対しようと迎えに出たのですが、先ほどと同じように村を出て行けと言い出しまして……
そんな事出来ないって言ったんです!
そしたら剣を向けてきて、言うことを聞けないのであればここで死んで貰うって」
ああ、なるほど。
状況が掴めず抵抗しちゃった訳だ。
「攻めて来るなら叩き潰したんだけど、あいつ等の言い分はもっともなんだよな。
難民ってだけでも厄介なのに、お尋ね者だからな。
物持ち出しオッケーで時間もくれるんだから、易しい対応とも言えるくらいだ」
「そ、そんな事言われたら俺たち、生きて行けねぇじゃねぇか!」
熱くなる若い男に「全然生きて行けるっての。ワール国が受け入れてくれなきゃ、新しく場所を開拓したっていいんだ」と絶望するほどの事じゃねぇと肩を叩いた。
「しかし……再び移動に野晒しの生活ですか」
おじいさんが暗い顔でそう言った。
「あー、そこは多分何とかなるかも。一旦表に出ようぜ」
そろそろ人が集まっている頃だろうとどちらにしても全員入れないから表に出てもらった。
そして家を収納する。
すっとアマネ家は消えて元の更地へと戻った。
「へっ!?」とオーロラのマヌケな声が響いた。
「ああ、俺の収納で家も運べそうだな。
全部持ってっちゃおうぜ。それなら何処でやり直しても一緒だろ?
逆に未開地まで行って自分たちで国を興したって良い。
誰にも文句を言われない自由の国とかさ」
「「「――――っ!?」」」
一同の顔付きが目に見えて変わった。
その気になってくれたって事でいいのかな?
それなら、家を全部しまっちまうか。
全部入ると良いけどと収納していけば、十五軒程度で一杯になってしまった。
「あー、後から取りに来ないと駄目っぽいな。
うーん……でもそれだと退去してないって文句言われそうだし……」
あっ、良い事思いついた!
と俺は元盗賊のアジトに『テレポート』で飛んで家をポンポンと並べていった。
そして再び戻り、全てしまいこむ。
テレポート連発で結構魔力を消費させられたが、今日は移動だし問題ない。
皆にも状況も説明した。これで後から取りに来ても大丈夫だと。
「め、めちゃくちゃね……あっちの兵士も腰を抜かしてるわ」
ペネロペの声に視線を向ければ本当に数人が腰を抜かして座り込んでいた。
「ただ、移動の方は自力でやって貰わないとならないんだ。
一応、アマネさんたちがワールに着いたら馬車とか戻して貰うからさ。
それまで歩きだけど頑張ってくれ」
あ、そう言えば何も言わずに来ちゃったし連絡入れないとな。
ローガンさんに渡している物とリリィに渡している通信魔具を同時に起動させた。
「えっと、村にアトル兵士が来て退去勧告されちゃったから、村人全員でそっち行くことになったわ。幸い被害はないけど、もうこっちには戻れないっぽいな」
『え……?』
『そうか。悪いことをしたな……』
おおう、何やら一発でお通夜ムード。
まあ、ローガンさんはそうだよな。自分たちの所為でって思うだろうし。
「ああ、いや、先を見ればこの方が良かったんだ。
何時誰かに文句言われるかもわからない生活なんて嫌だろ?
だから、皆で合流してから話し合ってワール国に頼むか、自分たちで国作るかしようぜって話をしたところなんだ。使ってない土地なんて一杯あるんだからさ」
『そ、そんなの一から作るのにどれだけかかると思っているのよぉ……』
クスンクスンと泣きが入ったリリィ。
「そんな情けない声出していいのか、皆聞いているんだぜ?」といつものお返しをしてやる。
『そんな情けない声出していいの? 皆聞いてるわよ』とよく言われているのだ。
俺の思いが伝わったのか『ぶふっ』と掠れた声ながらも噴出す声が聞こえた。
ちくしょう。割と元気じゃねぇか……
「まあ、俺が力技で何とかしてやるから心配するな。
多分そんなに時間かからないで出来ると思う」
『カイト殿は何があっても凹まぬな。本当に外見通りの年齢なのか?』
「ああ、これでも何度も修羅場潜ってるからね。
五十人で二万の兵と戦った事だってあんだぜ?」
『二万、か。冗談が上手い……訳ではないのだな?』
少し強張った彼の声に「ああ、女神様に力貰う前だけど余裕で勝ってやった」と自慢する。
『ねぇ、これからどうするの。
合流するの? それとも先に行ってればいいの?』
「あー、先行ってて。そんでなるべく早く行って車を戻して欲しい。
というか俺が取り行く」
『了解した。では、着きそうになったらまた連絡を入れよう』
「頼むねー」と声を返して通信を切る。
そして溜息を一つ吐いた。
面倒事が一杯増えやがったと。
やっぱり地盤を固めないとまともにダンジョン生活も出来ないんだな。
それならがっちがちに固めてやろうじゃないか。
うん。統治はアマネさんがやってくれるだろうしな。
「んじゃ、話も決まったし、ぼちぼち行こうか。
今回は二日程度の行程だし、明日には車も来る。なにも心配いらないからな」
不安だろうと思って声を掛けたのだが、思いのほか気合が入っている。
そんな余裕なら最初から討伐参加してくれよ!
絶対お得だよ? 畑を耕すのだってかなり楽になるし。
まあいいや。
逆に考えたら、穏便にアトルの考えを知れたと思えばそこまで悪い事でもない。
俺の知らない所で襲われて死者が出ていた可能性だってあるんだもんな。
とりあえず行こうと遠巻きに見ている兵士に手を振って出て行くことを知らせ、俺たちはワール国方面へと歩き出した。
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