第126話
今は昼の三時くらいだろうか。
割りといい時間になってしまったが、彼女たちに今後を安心して貰う為にも食材を持って帰ってやりたいところ。
というか、こっちのダンジョン早く行きたい。
そんなこんなで俺は急ピッチで移動を開始した。
川沿いに飛ぶこと数十分。
思いの外早く見つかり、目的地に着いた。
確かに崖の下の方まで確認してみれば、幾つかの穴が開いていた。
今すぐでもそこから突撃できそうだが、俺もそこまで馬鹿じゃない。
先ずは一階からだと、崖上に上がりダンジョン入り口を探した。
「おお! あったあった!」
崖上は何もない平野なので直ぐに見つかり、駆け足で入り口の階段を下りていく。
盗賊のアジトからせしめた紙とペンで先ずはマッピングをしようと思った所で思い出した。
わざわざ書かなくても魔法を使えば良いじゃないかと。
『ソナー』
早速使えそうな魔法を使ってみると、一度でこの階層の大半を把握することができた。
これはただぶつかった所で再び弾けるという指向性を持たせた魔力を全方位に飛ばし、跳ね返る具合で空間を把握するという魔法だ。
マップさえ把握できれば低層には用はないと雑魚を蹴散らし降りていく。
聞いていた通り、難易度は高い。六階層へと降りるだけでブラックサーベルタイガーがわらわら沸いていた。
これは東部森林に居た種と同じだ。
主なドロップは牙なのでこれも相手にせずに階層を降る。
十階層のボスも東部森林程度なので余裕で即殺して下へと降りていく。
二十階層のボスも軽く討伐できた。
毎度のことではあるが何も落とさない。まあ、こんなもんだろうと先へ進む。
名前も知らない悪魔系だろう気持ち悪い魔物が出てくる階層が続いていて、肉がねぇと辟易するが、二十四階層まで降りたとき、漸くまともな肉を落とす魔物が現れた。
「これじゃ人間がここで暮らしていくのは難しそうだな」
恐らくはこのダンジョンが特別食材を落とさない所なのだろうが、近場は出る魔物も似通ったものになる。
もし周辺も全部そうなら少なくとも人族ではやっていけないだろう。
ベジタリアン待ったなしである。
いや、待てよ。地上でオークの養殖が出来ればあるいは……
まあそんな事はさておき、ここら辺に人の集落が一切無い理由がわかったわ。
だってここ、あっちで言うと五十階層付近だもの。
種族全体で見てもトップクラスの戦力が居ない限り、ダンジョンでの食料が見込めない状態ということだ。
逆にトップがずば抜けていたとはいえ、あっちでは七十階層レベルだと考えたら獣人って強いんだな。
ゲームだと身体能力が高く魔力が低いってイメージだけど、そこらへんどうなんだろうな。
帰ったら聞いてみようと目の前の敵に集中する。
焦げ茶色の毛並みに立派な二本の角、牛を立たせた様な体躯、そして引き締まった体。
そう。これはあれだ。
ミノタウロス君だ。
絶対にそう。間違いない。
そしてお肉も美味しい牛肉に違いないと、身体能力強化全開で即殺して肉をアイテムボックスにしまっていく。
ほぼほぼ確定ドロップで一回五キロくらいの肉が落ちるので、一回がっつりやれば当分は持ちそうだ。
この世界の、少なくともダンジョンで落ちる肉は緑色とか可笑しな色をしていない限り食べられるそうなので毒はないと思うが想像通り美味しいといいな。
今晩のご飯を妄想しながら狩りに耽る。
「――――――――――っ!? しまった! 今何時だ!?」
よく考えたら時計を持っていない。
盗賊のアジトでは見当たらなかったし、体一つで出てきたのだから無くて当たり前なのだが。
一先ず肉は十二分に確保できたので今度は外に出られる場所を探した。
探知魔法があるのだから、そっちから出た方が早いだろうと『ソナー』を連発しながら降りつつも走り回れば、二十九階層で外に出れる場所を発見した。
天井に斜めに亀裂が走っていてそこから夕暮れの空が見える。
そこを通れば飛んで出れる様だ。
そのまま『フライ』で飛び上がり、どこら辺から出てきたかを確認すれば、幾つかある穴の一番上だった。
「おおう。ここで二十九か。となると一番下の穴は九十とかか? 恐ろしいな」
心底調子に乗らなくて良かったと考えながら上空へと飛び上がり、村へと戻った。
農村のど真ん中にある村にしては立派な建物へと入り「ただいま」と声を掛けて居間へと入る。
「あ、お帰りなさい。どうでした?」
そう声を掛けてくれたのはエヴァの叔母さん。
「順調順調。聞いていた通り途中から入れそうだし、良い所だった。
試食してみて大丈夫そうなら今日はみんなで焼肉パーティーにしようぜ」
「え? 私たちも食べていいの!?」
「うん。腐るほどあるから、好きなだけ食べられるよ」
彼女の疑問に答えながらも肉を三十キロほど出した。
「え……こ、これ……もしかして高級肉じゃない?」
「た、確かにこのサシと色は町で見た高すぎる肉に似てるわね」
いつの間にかほぼ全員集まってきていて、肉の品評を始めている。
「そこら辺はわからないけど、この色なら毒はないだろ。試食してみようぜ」
オーロラに大きなフライパンを借りてサイコロステーキサイズにカットして塩とスパイス系の調味料を軽く振りかけて三キロほど焼いてみた。
大きな皿にどっさりと盛って、さあ試食開始と「さあ食べてみようか」と声を掛けた。
皆まるでお預けを喰らった犬のような顔でフォークを握っている。
何故かこっちをじっと見詰めて動かない。
「食べないの?」
「大黒柱が一番最初に食べなきゃ手を付けられないわよ」
どうやら、こっちの文化らしい。
んじゃ、頂きますかね。
待たせるのも悪いと一つフォークで刺して口へと運んだ。
「うおぉぉぉぉ! これだよこれ! これぞ、牛肉!」
いや、正確に言うのであればこれは牛肉を越えた何かだ。
お米が欲しくて堪らない。
「皆も食べてみてよ。マジうまいから!」
その言葉に皆恐る恐る一つ刺し、口へと運んだ。
口の中が強い旨味に驚いたのか、頬を押さえ強く目を瞑っている。ゆっくりと租借を終え飲み込み終わると、そこからは皆無言でカチャカチャカチャカチャカチャカチャと、フォークが食器を叩く音が響き続けた。
当然俺もその一人だ。
気が付けば一瞬で山盛りあった肉が消化された。
「ねぇ! 試食って言ってたよね? これも食べていいの?」
ノアが辛抱堪らんと腕を引きピョンピョン飛び跳ねて残りの生肉を指す。
「おう。まだまだあるから、お腹一杯になるまで食べようぜ」
「「「「きゃぁぁぁぁ!」」」」
大人も子供も大はしゃぎでお肉を持って台所へと走っていった。
そして、それから三度ほど焼かねばならぬほどの絶大な人気を誇り、半数はもう食べられないとお腹を押さえ動けないほどの事態になった。
「じゃあ、俺はこのまま寝て起きたらダンジョン行くから、後は宜しく!」
片付けは任せたと昨日使わせて貰った部屋をそのまま使い寝に入った。
深夜に起き、再び亀裂からダンジョンへと入り狩りを再開させた。
どうせ、肉はまたどこかで出るだろうとミノタウロスの所には戻らず、予定通り三十階層へとやってきた。
ボス部屋で角の生えた大きな魔物を見上げる。
「おおう。マジかよ」
ここのボスもミノタウロス君だった。
肉ドロップがほぼ確定だったということはここでもお肉が期待できるということだ。こいつのお肉はどのくらい美味なんだろうかと強い興味がわいた。
腰を落として角を前に出し突進してくるボスミノ君を交わし、剣を向けた。
「頂きます!」そう宣言して全力火力で火魔法の雨を降らせて見た。
五十を越える数の巨大過ぎる『ファイアーボール』が降り注ぐ。
余りの高熱と追加される『ファイアーボール』にミノタウロスの体から大きな火柱が上がる。
これは余裕だな。と考えた瞬間、目の前にミノタウロスが居た。
拳を振り上げているのに角を押し出し突き刺そうとしてきてる。
恐らく後ろに一歩避ける程度では拳に撃ち抜かれてしまうのだろう。
「残念! 進化前のオークジェネラルに比べれば余裕過ぎるんだよなぁ。
『シールドインパクト』!!」
盾は持っていないが、手甲に魔力を這わせてダッシュエルボーをかませば、衝撃で炎が掻き消えてミノタウロスの体から煙があがる。
角をすり抜け奥に入ってしまえば、体勢を立て直すまではまともな攻撃は出来まいと思いつつも『アースバインド』による追加の時間稼ぎをする。
ボスミノが拘束を解こうとする間に、『五月雨』を放ち魔石があるはずの心臓付近をくり抜く様にめった刺しにした。
その瞬間、光を放ちボスミノは肉と魔石を残して消えて行った。
やはり、魔石と体の接触部分を大きく傷つければボスでもすんなり倒せる様だ。
落ちる前に『アイテムボックス』にドロップを収納したが、流石ボスだけあって肉の量がかなり多かった。パッと見で大きさが五倍以上はあったから三十キロ近くはあるだろう。
これは『絆の螺旋』の分も残してゆっくりじっくり食べるとしよう。
そんなことを考えつつも先へ進む。
三十一階層では大蛇が出てきたが、難易度的にまだまだ温い。
まあ、ボスを一人で危なげなく倒している時点で三十五階層までは行けることがわかっているのだが。
それもこれもバフのおかげだ。一気に強くなれたのは本当にありがたい。
常時身体能力強化を使い、その上でソフィアと同じ効果の『ヘイスト』。
力と共に耐久も上げてくれる『フォートレス』。
『シールド』と『マジックシールド』この二つも効果が爆上がりしていて、前みたいに気持ち程度防ぐというレベルじゃなくなっている。
他にもスキルで敵の攻撃軌道を予測する『心眼』や純粋にステータスバフが付く系統の『豪力』『鉄壁』『俊敏』『賢人』『天運』など、色々なスキルを使っている。
その他にも試験運用的にあれもそれもと試しているが、どれもあったらあっただけ良いらしく、バフの数がどんどん増えていく。
だというのにまだアクティブスキルをポンポン使えそうなくらい魔力に余裕がありそうなのだから驚きだ。
使用効率を上げただけって言ってたけど、今までどれだけ無駄に散らしていたんだろうな……
しかし、百階の魔物を即殺できないと足手まといでしかない程の強敵か。
出来れば四年とか、五年とか時間を多めに掛けて指先一つでバーンと弾き飛ばせるくらいになって安全に終わらせて隠居したいなぁ。
皆もやる気になっちゃってたし、三年後合流してそこから二年くらい修行してから討伐に出れば……
あれ? それなら離れる必要なくね。
ああ、お互い離れて修行しないと階層が合わないからか?
いやいや、それでも離れる必要はないだろ。
元々ディーナが言っていたのは付いてきて死なせてしまうからって事だよな?
ああ! わかった。三年で百階層ってのがまず無理なんだ。
うん。そういう事だろ。
俺の許可って付けたのはもしもの時の保険なんだきっと。
よくよく考えてみれば、無茶だよな。
俺は魔力が多くてバフをめっちゃつけられるからどんどん階層降りれるけど、皆は『ヘイスト』と普通の纏いだけだもんな。
簡単に言えば、十レベルでゴブリンでレベル上げするのと、同じく十レベルでオークでレベル上げするのくらい差が出るだろう。
そんなことを考えて色々計算をしていればいつの間にか、三十九階まで来ていた。
「どうすっかな」
四十階層のボスをやるか否か。
持っているスキル次第では危険もあるだろう。
「まあ、逃げることは可能だし試すだけでもやっておくか」
転移魔法がある以上、即死しなければ何とかなる。
オークの時のような自爆でも転移があれば逃げられたくらいだしな。
油断だけはしないように本気で行こうと集中しながらボスの階層へと向かった。
ボス部屋に入り、俺は驚愕した。
「おいおい。ロボットアニメじゃねぇんだぞ?」
ボスはミスリルゴーレム。それは良いのだが、巨大ではあるもののスリムなボディに鋭利な手足。
東部森林に居た奴とは一線を画すフォルムをしている。
そして、何より―――――――――――――
「めっちゃカッコええ!」
おおぉ、と声を上げながら、部屋の外からしばらく中を覗いて観察していたが、そろそろ行かなきゃなと満を持してボス部屋に足を踏み入れた。
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