第124話


 さて、先ずは盗賊退治からだな。


 とりあえずミスリルの武器がある可能性がある所へと行きたかったので、一番大きな盗賊のアジトへとカチコミを掛けている。


 一丁前に外壁に囲まれた不恰好ながらも要塞のような作りをした建物だ。

 恐らくはどこかの軍の施設を不法占拠しているのだろう。


 こいつらは上空から見ていただけでも極悪人だとわかる異常者共なので、何も気にせず門番を出会い頭に魂玉へと変えて吸収していく。


「よっこいしょ、っとぉ!」


 丸太で作られた大きな門を蹴りでぶっ壊し中に進入すると、中には大きな建物一つに小さな建物が四つ並んでいた。


 当然大きな方だと石畳を真っ直ぐ進めば辺りが騒がしくなってきた。

 まああれだけ派手に門を破壊したのだから、誰も出てこない方がおかしいが。


「てめぇ! どこのもんだ!」

「うるさい。因果応報キーック」


 一番に出てきた犬獣人であろう男を、蹴りで入り口へと吹き飛ばせば都合よく玄関の戸が壊れてくれたので中へと進入。


 一階は余り仕切りが無く、だだっ広い部屋。

 だが、何と言うか……所々にゴミが散乱していて不衛生な所だった。

 恐らく、行商人から強奪した荷物で不要なものをポイ捨てしたのだと思われる。


 よく自分が住む場所をこんな不快な空間にできるな……


 ただ仕切りが少ないと『サーチ』を逐一使わなくても敵がどのくらい居るかわかり易いのでありがたい。


「んだよ! ガキ一人じゃねぇか!」

「しかも奴隷だ。娘を攫われた親が復讐に差し向けでもした口か?」

「どうだっていいだろうが! これ以上壊させんな全員でぶっ殺すぞ!」


 対人はお手の物なのだろう。囲み、フェイントを入れ、後ろに回りと役割に分かれて攻撃を入れようとしてきた。


「そんだけできるならダンジョン行けってのこのクズが!」


 俺も建物を壊したい訳ではないので一人一人、盗賊から奪った剣で切り捨てていく。


「お、おい! めちゃくちゃつえぇぞ! 応援呼べ!」

「いや、もうお前が最後の一人だ」

「ひぃっ!」


 そう言いながらも切り捨てた。

 魂玉を拾い集めて吸収する。

 普通はめったに手に入るもんじゃないしな。

 今まではアホみたいに手に入ってきたけど、あれはアリスが頑張って集め過ぎただけだ。


 そうして倒して吸収してと、階段を上がっていけば、二階は割りと細かく部屋が分かれていた。


 サーチを使えば、二部屋に人が密集していた。

 ここかなと、人数が多いほうの部屋を空けてみれば、死んだ目をした猫耳娘たちがそろって視線をこちらに向けた。


 俺はこっちじゃなかったとそっと扉を閉じて、隣の部屋の扉を開ける。

 下とは違い片付いた部屋に十人程度の野郎どもが警戒した様子でこちらを見る。

 早々に上に逃げた男の一人が苦い顔を浮かべながらも前に出た。


「なあ待てよ。お前の目的はなんだ?

 金ならくれてやってもいい。

 それでも足らないってんなら、俺たちに雇われろよ。

 それだけの強さなら他じゃできねぇくらい稼がせてやれるからよ」


 そういった男が親玉なのだろう。

 防具はアイアンだが、武器だけはミスリルだった。

 それも両手剣なので俺が今まで使ってきたのと同種同格だ。


 余り盗賊とは言葉を交わしたくないのだけど、その武器に免じて目的くらいは教えてやるか。


「目的はお前たちみたいな、もうどうしようもないクズを駆除することだ。

 まあ、お前の言葉なんて一切信用してないから無用な問答だけど一応な?」


 そう告げて一撃で殺し武器を奪えば奥の数人が隣の部屋へと逃げ込んだ。

 ああ、そっちからも繋がってたのね。

 けど、どうやっても逃げられる訳がねぇんだよなぁ。それこそ『テレポート』でもなければ。


 どうしようもない雑魚なので、戦闘中の使用感を確かめようと隣の部屋へと転移した。


「ひっ! な、なんで、嘘だろ!? ば、化け物めっ!!」


 飛んだ瞬間動こうとするが、やはり貰い受けた知識の通り体が動かない。

 なるほど。

 やっぱりこれで急接近するのは無謀だな。

 格下相手なら走って追いつけるし、魔力消費量を考えたら使うべきじゃない。

 戦闘で使うなら逃げ専用か。



「た、助けてくれぇ! な、何でもする! だからぁぁぁ」


 命乞いをする最後の盗賊の首をミスリルの剣で跳ねた。

 剣だけでもミスリルのがあって良かったなんて考えている俺も、相当人殺しになれてしまったもんだな。恐ろしい。


「あ、あの……私たちも、ここで死ぬんでしょうか?」


 無気力な表情で問いかけられた。


「いや、帰る場所がある人は送るし、無い人は近くの集落で引き取ってくれるからそこに行く事になるかな。

 勿論、このまま自由にして貰ってもいいけどね」


 そう告げれば数人が目を見開き、瞳に光が灯った様に見えた。


「こ、故郷に帰して頂けるんですか……?」

「ああ、うん。地図でどこだって言ってくれれば送っていけるぞ?」


 十八人程居るが、飛行魔法と転移魔法を駆使すればそこまでの手間じゃない。


 繋がれていた鎖を引きちぎって全員に『ヒール』と『クリーン』を掛けて自由にしてやれば、彼女たちは焦った風に動き出し、箪笥をひっくり返す勢いで家捜しを始めた。


「えっ……ええっ!? ど、どうした!?」

「ち、地図を! 絶対にあるはずなんです!」

「あ、あったわ! これ、ここよ! ここなの! お願いっ! お願いします!」


 テーブルにバンと置いて必死にひとつを指差した。


「私も! 私もそこなの!」

「私も!」


 その言葉に他七人ほどが自分もだと前に出る。

 同時に攫われたのだそうだ。その村は思った以上に近い。

 俺の足で車を引いて走ればすぐ着くだろう。


「近いからすぐに行けるけど、他の子達はどう?」

「その……集落ではどんなことをさせられるんでしょうか?」

「あー、先ずはそこを説明しないとダメか。正確には何も決まってないんだ。

 盗賊に襲われて四人の女の子しか居なくなっちまった所でな」


 集落の待遇次第ではといった面持ちの女性たちにそこの現状を伝える。


 今から難民を迎えるかどうかという、正直言って良い所だとは言えない状態。

 そんな旨を隠さずに伝える。


「そ、そこに行きたい! 男は居ないのよね?」

「今は俺しか居ない。

 けど、後々は必要なんだから難民が来たいって言ったら連れてくるぞ?」

「構わないわ。新参なら早々犯そうとしたりなんてしないもの」

「いや、新参じゃなくてもそんな事させないよ?」


 彼女の理論だと新参の女性なら犯されることも普通にあるという事になる。

 ……獣人側は皇国以上に人権というものがない様だ。


 だからと言って女性の貞操観念が低い訳ではなく、好きでもない男共に体を好き勝手されるのは当然、最上級の苦痛と言って差し支えないだろう。

 とても許せるものではないのだが、神の加護を得られない弱い立場である女性は泣き寝入りする他ないのだと語った。


 加護を得られないってどういうことだ?

 

 そう問いかければ「女は戦場に出ないものだとされているもの」という答えが返ってきた。

 戦力育成が大変な地だからか、出産子育てでダンジョンに行けない期間が長い女性はそもそも兵士に成ることすらできないのだとか。


「その集落って、遠いの?」


 話の段落が着きそろそろ移動しようかという時にそう尋ねたのは、帰りたいと地図を引っ張り出してきた女性。

 どうやら女の子しか居ない地と聞いて興味が出たらしい。


「いや、そうでもないよ。

 とりあえず、皆でそっち行って数日過ごしてみるか?

 服もちゃんとしたの着て帰りたいだろ?」


 そんなに近くもないのだけど、大きめな車はあったしそれに乗せて走ればすぐに着くだろ。

 まあ、行きたいならだけどと視線を向ければ彼女たちは視線を這わせたもののすぐに行く事に同意した。


 じゃ、俺の方も準備するか。と、ずっとあったら良いのにと思っていたスキルを使った。


「『アイテムボックス』!」


 本当は口に出す必要なんてなく出し入れ可能だ。

 ただ自慢したいだけである。


 体の何処でもいいから一メートル以内程度に近い距離な事が必要だが、物体が繋がっていればその限りではない。

 出す時も同様に遠くに出す何て事はできない。後は生き物も無理だ。

 縛りはその程度で神スキル待ったなしの能力だ。


 容量制限はあるが魔力依存なので馬鹿みたいな量が入るので俺には余り関係がない。

 何よりありがたいのが時間停止能力が付いている事だ。

 これで何時でも何処でも温かく美味しいご飯が食べられる。

 ダンジョンの中でも出来たてご飯が食べられるなんて最高すぎるだろ。


 そんな事を思いつつも、彼女たちがひっくり返した物の中で必要なのだけぽいぽいとしまっていく。

 装備関連はもうとっくにしまってあるので日用品だけだ。


「あの、何を……なさっているのですか?」


 うろちょろしている俺の周辺の物が消えていく様に、困惑した様子で問いかけられた。


「うん? 俺収納できるスキル持ってるんだよね。ほら」

「す、すごぉぉい! それどうなってるんですか? 本当に凄いわ!」

「そ、そんな便利なスキルがあったんですね……」


 素直な賞賛に嬉しくなり、自慢しようとミスリルの剣を出したりしまったりして見せてみた。

 盗賊の討伐劇を見ていても平然としていたので怖がられることが無いのはわかっていたが、喜色の声を上げられるとは思わなかった。


 この凄さがわかるとはキミたちはなかなか優秀だ。

 フッフッフと心の中で優越感に浸りつつも、準備を終えて集落へと移動を始めた。


 身体能力強化魔法を駆使し、全力疾走をすれば一時間も経たずに着く距離。

『フライ』も駆使して車体を浮かせてやったので揺れはないはずだ。彼女も楽しそうに外を見て騒いでいたからお互いあっという間だっただろう。


 そんなこんなで戻ってきましたオーロラ家。

 オーロラは村長の娘なのでここは彼女の家なのだ。


 家を出てから二時間とちょっとなのでまだ午前中。

 ささっと紹介すれば難民の方へも行けるだろう。

 そっちは別に送り迎えなんてするつもりはないから上手くすればダンジョンにも行ける筈。


 そんな目論見を立てて居れば、救出して連れてきた女性二人が突如泣き出した。


「え? ど、どうしたの!?」

「あの子達の故郷だったみたい。滅んだのが自分の所だって知ってね……」


 マ、マジかよ。

 別口でも攫われてたとか、襲われすぎだろこの村!


 まあ、でも今後を考えれば知り合いなのは良い事だろうと早速オーロラちゃんに来て貰って彼女たちを紹介する。


「近場の盗賊のアジトで一番大きい所を潰してきたんだけど、そこに囚われてた女性を保護してきたからよろしく」

「よ、宜しくと申されましても……」

「ああ、食事の心配は要らないからな。

 それ以外は今ならどうにかしてやれるだろ?」


 盗賊の食料庫から根こそぎ奪ってきた食材を出して見せてからもう一度しまう。

 見せてなかったスキルなので困惑していたが、一先ずはわかったと頷いてくれた。

 そして顔合わせさせれば―――――


「うそ……お、おねぇちゃん!?」

「ロラ……生きてて良かった。大きくなったわね」


 肉親が生きていた事に喜び、涙を拭いて妹を抱きしめた彼女。

 聞けば彼女は二つ隣の集落へと嫁ぎ暮らしていたのだそうだ。

 ずっと盗賊に捕まって居たわけではないが、会うのは数年ぶりなのだという。


 もう一人の女性はエヴァと向き合っていた。

 するとエヴァが予想外なほどに大声を出して彼女に飛びついた。


「リリィおねえちゃん!!」

「一月ぶりくらいね、エヴァ。

 あの日、貴方の言葉通り無理して急いだりしなければ良かったわ」


 抱きつくエヴァをやさしく撫でる彼女はエヴァの父親の妹だそうだ。

 関係としては叔母だが、年がある程度近いので姉と呼ばせていると言っている。


 ち、近いか?

 いや、年の話は止めよう。危険だ。

 俺はアリーヤで学んだのだ。

 あれだけ綺麗なんだから全く気にする必要ないのに。


 彼女は町へ売り物を持っていく時に攫われたらしい。

 人見知りのエヴァは身内には甘えん坊になるらしく、特に仲の良い彼女が離れるのを嫌がって引き止めた時の話をしていた様だ。


 しかし、周辺の村全部が被害者じゃねぇか……

 あの盗賊どもはあのアジト周辺の村を本当に好き放題やっていたんだな。


 いや、終わったことよりも今後だな。

 彼女はアリーヤと同じくらいの年代に見えるし、しっかりしてそうなので任せても大丈夫だろうか?


「えっと、エヴァの叔母さん、その後のもろもろ任せていいかな?」

「え? そ、そうね。食料は頼っていいのよね?」


 その問いかけに頷けば「なら、いいわ。あとお姉さんね?」と快く引き受けてくれたので、故郷が違う女性たちに一声掛けた。


「一先ず、この集落に一週間程度滞在して貰う感じでいいか?」

「ほ、本当に送ってくれるの?」

「待って、私この村知ってるわ。そんなに遠くない」


 彼女たちは最悪自分たちでも人を雇えば帰れるんじゃないかと相談している。


「いや、帰るなら送っていくよ? あのスピード見たろ。すぐだから」

「あ、ありがとう」


 目を潤ませた猫耳娘たちに全力の謝辞を送られ、嬉しいが困ってしまい「オーロラ後は任せた」と逃げ出した。

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