第93話


 カノン王国に居を構えて三ヶ月。


 俺は自由気ままなダンジョン生活を満喫していたのだが……


 なにやらうちのギルドは酷く注目を集めているということに気が付いた。

 教会に行けば入隊したいという騎士に囲まれ、町を歩けば異性から声を掛けられと大変面倒な思いをしている。


 それもこれも、成れるやつは全員特級になっちまおうと試験を受けさせた所為だ。


 うちの古参は全員。他にはおっさんたちやリズ、アレクも普通に合格していた。

 俺はずっとダンジョンに居たので知らなかったのだが、纏まって試験を受けた為、最初からどこの騎士団だと噂にはなっていたらしい。


 そのままバレなければよかったのだが、レナードが女の子に声を掛けられまくって気を良くし、うちの自慢をしたことにより情報が流れてしまった。


 そんなこんなでレナードは今、皆に囲まれて正座している。


「まぁまぁ。俺たちは基本ダンジョンに居るんだからいいじゃん。

 面倒だけど、遅かれ早かれ話は回っていただろうし」

「た、助かるぜカイトさん。

 俺だってこんなに面倒なことになるとは思ってなかったんだ」


 レナードが発言するとアディたちが睨みつける。

 正直自業自得だが、これでは話が進まない。


「まあ、レナードの事はもういいじゃん。それよりもこれからどうするかが問題だ」

「何か収める策があるの?」

「いや、そこじゃないよ。入団希望の騎士を入れるか否か」


 そう。本気で入りたいと願うものが多いのだ。


「止めておくべきだわ。

 ただ強者が居るから入りたいなんて言っている輩は付いてこれないもの」

「まあ全員とは言いませんが、大半は無理でしょうな。

 不和を撒き散らし足並みを崩される危険もあります」


 人を纏めた経験の多いリズやアーロンさんがそういうならその方が良さそうだな。


 まあ確かにそうかもな。

 ここに居るやつらは強くならなきゃいけない理由があった。

 戦争だったり大討伐だったり国の為だったりおじいちゃんの為だったり。


「じゃあ、完全に断っていくスタイルで行くか」


「いいの?」と問いかけるアレクに「いや、俺も入れたいなんて思ってないよ」と返した。


 俺たちは大きな戦いを控えている身だから、皆が人を増やしたいのかを確認して置きたかっただけだ。


「なぁ、女の誘いに乗るのもダメなんて言わないよな?」

「レナード、あんたねぇ!」

「はいストップ。そっちはいいよ。ただちゃんと見極めて性格いい子をゲットして来いよ? 変な奴を輪に入れろって言われても困るからな?」


 レナードだけじゃなく、コルトにも向けて言う。


「流石カイトさんだぜ! 話がわかるぅ!」

「まあ、カイト様がそう言うなら話を聞くくらいはしますが……」

「おう。いい人を見つけるのは大切な事だ。

 皆も何かあった時は遠慮しないで相談をしてくれよ。

 ギルドの妨害にならない限りは基本的に応援するつもりだからさ」


 低層で頑張る騎士たちにも向けて言ってみたのだが、彼らはまだそんな事は考えられないと答えた。


 彼らも俺と同じスケジュールでダンジョンに篭り、ひたすら強くなる事を目標としている。

 生き抜きも必要だとは思うが、邪魔なだけかもしれんから好きにさせよう。


「それで主よ。この国に魔法を教えるのはどのタイミングで行うつもりじゃ?」


 えっ……ああ!! そうだ、忘れてた!

 こっちは問答無用で巻き込まれるから教えるって決めてたんだったよ……


「ああ、うん。面倒だけどこれから行ってくる。一応紹介状も持ってるし」

「こういう場合、誰が付いていけばいいのかしら……」


 良くわからないから任せると同行者の選出をお願いしてみれば、決まったのはホセさんとシホウインさんだった。


「停戦調停のときに顔合わせしている私が居る事で、聖人様が神に選ばれた方だという事を証明できると思います」


 彼女が選ばれた理由はこの一言だった。

 ホセさんはルーナ姫救出時に同行していたし、最高戦力なので安定の推薦だ。


 ソフィアたち王女姉妹は逆に混乱させそうだから待っているとのこと。


「んじゃ、二人とも宜しくね」と声を掛けて話の場が解散となった。








「ほう、貴殿が件の聖人様か。

 こうしてここに現れるだけでなくルーナを助けてくれていたとは数奇なことよな」


 紹介状を見せればたかが数時間程度の待ちで、カノン王国王城、応接間にて会談を開いてくれた。

 国王、宰相と向き合い、俺とシホウインさんが対面テーブルに着いている。

 ホセさんはカノン王国の近衛兵と同じ壁際で控えている。


「その件に関しては皇太子が強引に巻き込んで来たんですけどね……」

「ほう。手紙にも書いてあったが真なのか。娘は虐げられては居ないのだな?」


 いや、それはどうですかね。俺は皇国の事は一切知らないし……

 ただ、皇子は本気で彼女を友達だって言ってましたよ。


 そんな雑談を交えてから一息吐き、本題へと入った。


「ええと、確認なんですけど。国王陛下は神託を信じていますか?」

「はっはっは、随分直球だ。そう聞くという事はわかっているのだな。

 ああ。勿論信じてはいない」


「なっ! 何をっ!!」と立ち上がるシホウインさんを座らせて「そうですよね」と返す。


 うん。俺は学んだんだ。普通は信じられないってことを。


「ただ、現実になってしまいそうだという事は理解していますか?」

「ふむ。アプロディーナ教国が確認したという、大規模な魔物の群の件だな。

 規模の確認をせねばなんとも言えんが、その話まで頭ごなしに疑うほど狭量ではないよ」


 よし。まともな返答がきた。多分このまま行けば普通に協力体制は取れそうだ。


「一応皇国も調査隊を出すそうですが、連合諸王国からはどうなのでしょう……?」

「皇国か。貴殿はアイネアースの騎士だと聞いているのだがね?」


 国王は渋い顔だ。宰相もこちらの真意を測りかねるといった面持ち。


「ええ。オルバンズとの戦争にも出ましたよ。その後の事はご存知でしょう?」

「それは調べさせた。済まんな。聞いてしまったが全て知っておる。

 ただ、貴殿が皇国と繋がりがあるのが不思議でね」

「確かに……俺も不思議ですよ。

 終戦の契約を交わす時に一度会話しただけだったんですけど、いきなりルーナちゃんを助けたいからって無理やり巻き込んで来たんですから……

 人助けなら仕方が無いとしぶしぶ協力したらこの国の姫だったんです」


 王は「ほう。それほどまでにルーナを……」と嬉しそうな困ったような複雑な面持ち。


「それで本題なんですけど、支援魔法を教えるんで騎士に広めてくれませんか?」

「なに……どういうことだ? 全く理解が出来んのだが」

「いや、こっちは神様の神託を信じてるんで人類の総力を上げないと拙いんですよ。そっちにしても戦力アップはお得ですよね?」


 国王と宰相は顔を見合わせ、無言のやり取りをしているがお互いに首を横に振るだけだ。

 何を相談しているのだろうと観察していれば、シホウインさんが「下らない」と呟き、キッと彼らを睨みつける。


「神も聖人様も信じぬなど笑止千万!

 我が国では既に教えを頂き、戦力が大幅に上がっております!

 黙ってありがたく頂戴せねば、後悔とともに国が滅びますよ?」


 ちょっと? シホウインさん?

 言ってる事は概ね間違ってないけど、ガン飛ばすのやめようか。


 怒っちゃダメだよと囁き、頭をポンポンして落ち着かせた。


「まあ、試すだけ試してください。

 広めるのは問題がないと確認が取れた後でも結構ですから」

「ふむ……効果は当然見せて貰うとして、いくらだ?」

「あ、対価か。うーん……教国との協力を……いや、どうなんだろう……」


 報酬は要らないがより良い環境で討伐に望みたい。

 そう考えて協力体制を取る事を頼もうと思ったのだが、対策は自国のみの方が上手く回るのではないだろうかと迷い言葉が止まってしまった。


 俺としては最善を尽くしてくれるなら何でもいいんだよな……

 あ、ならそれでいいじゃん。


「条件は討伐に最善を尽くす事にさせて頂きたいんですけど。どうでしょう?」


 魔物の調査や討伐に向けた準備などに今から最善を尽くすことをお願いした。


「それでそちらに何のメリットがあるというのだ?」

「だから、俺は神託を信じてるって言ってるじゃないですか。

 このままじゃ人類が滅びるって言われてんですよ?」


 そう告げつつも「まあ、そこはいいか」と流して魔法の効果を確かめて貰うことにした。


 魔法は主に支援魔法だと伝えると、騎士が御前試合を行う所へと案内された。


「一応差を見るテストですんで、等級が違う騎士に試合をして貰う感じで良いですか?」

「そうだな。その方がわかりやすかろう」


 宰相が近衛騎士に声を掛けると、二人の騎士が選出されて闘技場の上で向かい合う。

 片方が特級でもう片方が上級だそうだ。

 上級の彼に『ヘイスト』と『シールド』を掛けて試合をスタートして貰う。


 開始の合図と共に激しい打ち合いとなり、互角の戦いを繰り広げた。

 そして特級の騎士の一撃が入り、決まったと思われた。


 だが上級の騎士は微動だにせず、立っている。

 特級の騎士が「大丈夫なのか?」と声を掛け「ええ、加減、間違えました?」と言葉を返す。


 このまま続けさせるのも危ないので『シールド』の効果で凌いだので全力で撃てば次は危ないということを告げた。


 そうして再びスタートし、速さに慣れてきた上級の騎士が辛勝するという結果になった。


 その結果に愕然とし膝を突く特級の騎士がかわいそうになり、彼には『ヘイスト』と『シールド』の使い方をレクチャーした。

 最初は「いや、そんな簡単には……」と訝しげにして居たが、即座に習得できた事で彼は復活した。


「こ、これなら聖騎士にも届く! なんて魔法だ! ありがとう!」と彼は声を上げた。


「なっ!? 特級が聖騎士に届くだと……

 これが事実ならば勢力図が塗りかわるぞ。本当に構わんのか!?」


 いや、変わらないでしょ。皆に教えるんだから……

 まあ皇国が相当馬鹿じゃない限りは、だけども。


「もし皇国が討伐に本腰を上げて協力するのであればそっちにも教えますよ?

 今の所協力するつもりが無いとのことだったので教えてませんけど」

「な、なるほど。貴殿の目的を考えればそうなるか。

 しかしどちらにしてもこれは逃せん。討伐も最善を尽くすのは当然のことだ」


 王は、契約書を持って来いと文官に告げたが、別にいらないと断った。


「良いのか?」

「ええ。だって、どう考えても履行されるでしょ。口約束でも……」

「ふはは、そういえばそうだな。

 礼を言うぞ。これの対価としては足らぬが褒美も出させて貰おう。

 これほどのものを貰って褒美を出さぬなど大恥じであるからな」


「くっ……」と悔しそうに表情を歪めたシホウインさん。

 ああ、教国からは何も貰ってないもんね。

 でも、俺がいきなり国を出た事が原因だし、故意にじゃない事はわかってるよ?

 

 ほら、そんな顔しないの。と彼女の頭を撫でて顔を上げさせた。


 その時だった―――――――シホウインさんが金色に光り輝いて、僅かにだが宙に浮き始めた。


『なんぞ!?』と驚いて構えれば、声が頭に直接届いた。


『サオトメ・カイト、貴方のお陰で第一波をしのげる可能性が出てきたわ。

 本当にありがとう。

 勝手を言ってるのはわかってるけどお願い。私の子供たちを助けてあげて。

 時がくれば貴方も本当の力を出せるようになるから』


 こ、これが神託か?

 ってことは神様と漸く話せる!?

 

「あぁ、色々聞きたい事があるんだけど、いい?」

『ごめんなさい。この状態では無理なの。この子の体が持たないわ』


 え? マジで? そりゃ拙い。


「あー、わかった。じゃあ大丈夫そうなら一つだけ。今勝率何%くらい?」

『正直に言うと戦力差は七対三で人が三。

 人の知恵を加味すれば良くて半々と言ったところね。

 でもね、予知ではなく予測だから絶望の必要はないの。

 戦力が大きく傾き始めたから諦めない限りきっと上手くいくわ。

 ごめんね。いつか貴方に報いたいと思うけど今はまだ無理なの……』


 彼女の言葉が終わると、金色の光が薄くなっていく。 


「まあ、やれるだけやってみるわ」

『ありがとう。お願いします』


 あー、ビックリした。

 けどもっと傲慢な神を予想してたけど思いの外優しそうで安心したわ。


 そんな面持ちで驚かせたであろう国王へと視線を向ければ、その場に居た全員が平伏していた。


「あれ? 信じてなかったんじゃ?」と思わず呟いた。


「あれを見て信じぬものはおらん。体の奥底から女神様だと理解させられた。

 元よりそのつもりではあったが、全力で協力致す。

 失礼を言って済まなかった。聖人殿、私からも協力宜しく頼む」


「あ、はい」と答えようとした所でシホウインさんが地に足をつけ倒れこんだ。


 危ない、と抱き支え「大丈夫か?」と声を掛ける。 


「聖人様、申し訳御座いません。私が未熟なばかりに……」

「いや、逆だって。

 シホウインさんが頑張って神託を受けてたから今人類が勝てそうだってところまで来てるんだぞ。そこは胸を張ってくれよ。

 それと、そろそろ名前で呼んでくれ。カイトでいいから」


「良く頑張った」と頭をなでなですると、彼女は感極まって泣いてしまった。

 どうしていいかわからず、何とかしなければと適当に声を掛けまくる。


 そ、そもそも俺は聖人じゃないんだからな?

 まあ、悪人じゃないけど?

 いや、正義の味方ではあるかもしれない。


 俺は~正義の~みかたぁ~! 力は~正義~! 強いものの~み~かた~!


 なんておどけていれば、皆に見られている事を思い出した。

 うん。ここ王宮だった。と咳払いを一つ。


「ゴ、ゴホン。そういう訳なので、魔法の習得方法を説明したらお暇しますね」


 彼女を抱き止めたまま、そう告げれば再び応接間に通される。

 シホウインさんを抱っこして移動し再び同じ席へ着き、一刻ほど掛けて全部の魔法の解説を作って渡した。


 そして帰り際にまた大金を渡されてしまい、いいのかなぁと疑問に思いながらも帰路に着いた。 

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