第84話


 そうして荷物は纏め終り、移動が始まる。

 俺が乗ったのは王女の車だ。ついでにアレクとアーロンさんとミアちゃんも呼んだ。

 一応まとめ役には今の現状を伝えておこうと思ってこの割り振りにして貰った。


 話はアプロディーナ教国に呼ばれた所からスタートした。

 主に神託の件を重点的に話し、俺が受けた待遇の件は過剰に受け取られる気がするのでちょいちょいで済ませた。


「――――――――そんなこんなで問題なく脱出が叶ったというわけだ」

「そう。ふざけた奴に絡まれたものね。無事でよかったわ」

「ですがカイトさん、その神託とは本当なのですか?」

「そうですなぁ。いきなり流石に人類が滅ぶと言われても困りますなぁ……」


 アリスちゃんとアーロンさんは神託の話を受け入れられないといった様子。

 他の三人も人類が滅ぶという話を信じた顔ではない。


 なるほど。やっぱり信じないのが普通なのかも。


「それなんだけどなぁ……どうやらマジっぽいんだよ」

「……そう。あなたの言う事なら信じるわ。でも理由は聞かせて」

「ああ。話すよ……けど、怒るなよ?」


 王女たちには別の国から転移させられたとだけ言ってあった。

 ずっと特別じゃない、普通の一般人だと言ってきたので怒るかなと思って前置きを入れたのだ。


 そして俺は別の世界からこの世界に転移させられた話をした。


「それは……酷い話ね」

「まぁな。王国騎士団に出会わなければ、東部森林の魔物に食われて死んでただろうしな」

「ま、まあ、神様ですから! そうなるとわかってのことかもしれません!」

「そう考えた方が平和ね。私と出会う運命だったってことだもの」

「「私です!!」」


 はいはい。

 でも確かにそうだなぁ。

 あそこに落とせばこうなるってわかってのことなら今なら普通にありがとうって言えそうだ。


「ねぇカイト? 僕にだけは言ってくれても良かったんじゃない?」


 いやアレク、何でお前が僕だけは特別だ感を出してくるの!

 確かに親友だと思ってるし言っても良かった気はするけど、その上目使い癖いい加減直せ。


「そ、そんな感じで、神様が呼んだってのはまず間違いないと思ってるんだ。

 ギルドメンバーに言ったのだって割と最近だし。

 教国の動きも神託に向けてマジな感じだったしな」

「そうなるといよいよ持って深刻ですわね。神に滅びると言われたのですから」


 ソフィアのまとめの言葉に、ミアちゃんが少し強張った顔で「どうしましょう」と呟いた。


「あら、大丈夫よ。こいつが居れば何とかなるって女神様が仰ったんだもの」

「そうね。この人が居れば大丈夫。私も支援するし」


 いや、お前らはもう少し危機感を持て。俺に任せようとするな!


「いやぁぁぁん、カイトさぁぁぁん! わたしぃぃ、こわぁぁぁぁい!」


 ……アリスちゃん、どうした!? いや、本当にどうした!?

 最近ずっとおかしい。


「アリス、引かれてるわよ?」

「お姉さま、教えてあげなくていいわよ。最近のアリスは我侭過ぎだわ」


 あれ? なんかパワーバランスがまた変わっている。

 女の子は忙しいな。


「ま、まああれだ。そんな感じで出来る準備はしておこうって話。

 なんだけれども、その前に片さなきゃいけない問題もある。

 昨日、ダンジョンで別のパーティーから奇襲を受けてリディアとユキが殺されそうになった。その報復を行う為に動いている所なんだ」

「待って。ユキって子は教国の姫のこと?」


 それに頷けば、ソフィアが額に手を当てた。


「それはよろしくないわね。下手をすれば戦争ものよ」

「いや、戦争うんぬんの前に俺の仲間だ。仮に大事になろうがやり返すぞ?」

「そこはいいわ。どちらにしてもその方が心象もいいし。

 ただ一応相手がどこの者かと、顛末をどの様に報告するかは本人と話し合っておきましょ」


 ああ、そういう話はまだだったな。

 あとでユキに聞いておこう。


「一応その後は連合諸王国のどこかに行く予定。

 今の所カノン王国がいいかなって思ってる」

「あら、一番小さい所じゃない。どうして?」


 リズの問いに皇子とルーナ姫の事を話した。


「あんた酒場で偶然とか、どこまで問題に巻き込まれやすい体質してるのよ」


 いや、それは俺も感じてるよ。

 けど俺は悪くないじゃん。


「まあ、救世主殿のことです。

 これもきっと世界を救う道に繋がっておるのでしょう!」

「なんでもかんでもそう繋げんの止めてよ。全く、いつも適当言って……」

「いいえ。これは大きいわ。そういうことなら私、皇太子殿下と話をしてくるわね」


 ソフィアは即座に立ち上がり、車を出て行った。

 どうやら、皇子に神託の件で話を詰めてきてくれる様子。

 助かるな。そういうの待ってた。そこらへんは俺の仕事じゃねぇもの。

 名誉伯爵は何もしなくてもいいって言われたもの。


「ねぇカイト……話を纏めるとさ、その犯罪者を捕まえてからカノン王国に行くんだなぁって思って置けばいいの?」


 そう言って小首を傾げるアレクに「今の所その予定だな」と返し、現状報告は終わった。


「ああ、そうだ。そういえばミアちゃん、来ちゃって良かったの?

 俺はてっきり兵士が数人送られて来るだけだと思ってたんだけど……」

「はい。私が希望しました。

 私はどちらにしても嫡子ではないのでそのうち出る予定でしたから」


 なるほど。政略結婚から逃げてきたのか?


「そっか。ミアちゃんは将来の展望とかあるの?

 一応リーダーとして何か夢があるなら聞いておきたいなって思ったんだけど」

「え? いえ、特には……一般的な女性の様に生きれたらと思いますが……」


「それは普通に結婚して普通の家庭を持って?」と話を広げていけば彼女は顔を赤くしながらも頷いた。


「まさか、貴方までカイトさんを狙っているなんて仰いませんわよね?」


 おい、威嚇すんな!

 はぁ、アリスちゃんも変わっちまったな。


「違います違います! その、一般的なので良いんです。平民でも貴族でも、子煩悩な優しい方と安定したゆったりとした時間を過ごせたら幸せだなって」


 ああ、良い夢じゃないか。なんか癒されるな。


「そう。良かったわ。こいつとじゃ絶対無理だもの。仲良くしましょ」

「おい! なんでだよ! そんな生活を俺も目指してるんだが!?」

「そう。じゃあ、それは私と実現するように頑張りましょ?」


 意味がわからん!!! 絶対無理って言ったやんけ!!!


 何言ってんだお前はとぷりぷりしているとアレクが裾をちょいちょいと引いて上目遣いで見てくる。


 ……こんなことして来るくせにそう言うとこやぞって言うと怒るんだろ?

 もう知ってるよ!


「ねぇ、カイト。魂の聖杯はどう? もう限界きた?」

「え? ああ、全然。もうトータル四千は越えてるだろうに」

「あっカイトさん! それでしたらおかわりを持って参りましたわっ! 私が!」


 ああ、うん。ありがたいんだが、いいのか?

 ある意味死体と言えるものをそんなにかき集めて……


 アリスちゃんは俺のそんな心配は何のそので良い笑顔でドンと大きな木箱を前に出した。

 ふたを開ければすりきり一杯の魂玉。


「「「うわぁ……」」」


 俺とアレクとアーロンさんは思わず引いた声が出た。


「何引いた声出してんのよ。それは放っておいても動力源として使われるものよ。

 水晶の知識でただの入れ物だってわかっているなら何も問題は無いでしょう?」


 え? 動力として使われるって?

 と問いかけてみれば、意外にも普通に町の街灯で使われているのだそうだ。


 勿論、遺族が引き取ってもいいらしいが先祖代々全ての魂玉を保管し続ける家は無いらしく、処分する際は領主が引き取ることも多い。


 昔から魂玉を動力に使う場合、炎関係に変えることが決まりらしく、灯りに使うのは皆を照らし見守って貰うという意味があるのだそうだ。


「街灯に使う魂玉を魔石に変えて持ってきてるのよ。アリスは」


 えっへんとぺたんこな胸を張るアリスちゃんかわいい。

 

 そんな事を考えつつも魂玉をごっそり取って『魂の聖杯』を連続使用する。


「うわぁ。もうそんなに魔力増えたんだ?」

「ああ。纏いを永遠にやってられるくらいになったわ」

「それは凄まじい。今は何階層を周っておるのです?」


 魂玉を吸収しながら、アレクとアーロンさんと三人での会話に花が咲き、暫く経った頃、目的地へと着いた。


 シーラル領、領主邸宅前で車を止めて外に出た。


 俺たちは護衛という立ち位置なので颯爽と皇子の所に移動して整列する。

 いや、整列と言っても皇子とルーナちゃんの後ろに俺と王女三人、その裏に皆が一塊になっているだけだが。


「これはこれは皇太子殿下、ようこそ御出で下さいました。

 おや……騎士とお見受けしますが、この者たちは……?」


 領主は思っていたのとは違い小さくひょろっとしていて、甲高い声で皇子を出迎えた。


「ああ、お忍び中に賊に絡まれてな。

 それが愚弟の策略だったので、元より知っている騎士団を雇ったのだ。

 不届き者は蹴散らして貰ったが、迎えを呼ぶまでの護衛も頼んだ。

 済まないが数日世話を頼みたい」

「なっ!? なんですと!?

 わ、わかり申した。このシーラル子爵にお任せくだされ!」


 なんというか、頼りなそうな感じだなぁ。

 任せろとは言っているが、恐怖に怯えているようにしか見えない。


 ただ、緊張の仕方を見るに、悪巧みをするようなタイプにも見えない。

 逆に脅されでもしたら何にでも従ってしまいそうな感じでもあるが。

 これが皇子の言っていた良くも悪くもってやつか。


 彼らの話し合いが終わると、使用人が二人ほど来て別邸に案内すると言ってくれたので付いて行こうとしたのだが。


「サオトメはこっちだ。護衛の件で話がある」

「了解しました」


 一応公の場っぽいので軽口は止めて素直に従う。

 彼もそれを茶化すでもなく安心した様な顔で頷き、一緒にシーラル子爵の後ろを付いて行く。


 客間であろう綺麗な部屋に通された。

 今までみた貴族の内装の中で一番良い部屋だった。

 思わず声が出る。


「凄いな。部屋そのものが美術品の様だわ」

「ほぉ! これをわかって下さるか! 流石皇子がお認めになった騎士である!」


 彼は生き生きした顔で見所を説明して俺もそれを聞いていたが、皇子を置いてけぼりにしている事に気がついたのか、彼は焦った様子で着席を促した。


「子爵、彼を呼んだのは一つ頼みがあってのことだ。先日、私の護衛中の身の彼らが、ダンジョン内で襲撃を受けた。

 その罪人を断罪する権利を彼に与えたい。構わぬか?」

「当然、異論は御座いませぬ。

 必要であれば我らもその罪人の捜索に当たりますが?」


 やり取りが面倒だし要らないな。姿しかわからないんじゃ難しいだろうし。


 皇子がこちらを見ている。

 ああ、俺が応えていいのかな?


「いえ、それはこちらで。ただの盗賊の可能性もありますから」


 一応、今のところわかっている情報を伝え終わると「そうか。必要であれば声を掛けてくれ。協力は惜しまぬ」と言ってくれて無事話が終了した。


 やり取りを見届け、皇子はゆっくりと頷く。


「シーラル子爵この様な時に済まない。支援が必要な時は遠慮なく相談を寄越せ」

「い、いいえ! とんでも御座いません!

 きっと、きっと近いうちにそちらも何とかして見せましょう!」


 うーん、やっぱり身長と声の所為でなんか頼りない。

 いい人そうなんだけど。だからこそ逆に勿体無いな。


 そんな心象を残す彼との話し合いは終りを告げ、皇子と共に別邸へと向かう。

 わずかな距離だが車に乗っての移動。乗れば勝手に向こうが動かしてくれる様子。


「皇子もこっちなんだ?」

「ああ。そう言い付けたからな。それより、口調を崩すならルークでいい。

 口調を崩されたまま皇子と呼ばれると落ち着かん」


 ああ、そういえば名前はルークだったな。と言えば呆れた視線を向けられた。


 普段は許されないが、市民に混ざるのが好きな彼はこうしたやり取りは楽しいらしい。

 だが、それだけに皇子と言われながら口調を崩されると傍目が気になる様だ。


「お、おう。わかった。ちなみに勝手にやっちゃっていいのか?

 それとも報告を先に入れた方がいい?」

「事後でいい。ただ、終わったのかどうかは一応耳に入れておきたい。

 ああ、そうだな。あとで通信魔具を渡そう。それで伝えてくれ」


 ああ、こいつとの通信魔具なら持っててもいいなと彼の言葉に了承した。



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