第82話
やってきました、久々のダンジョン!
ここは最深部が三十五階層までで、ツルツルテカテカの綺麗なダンジョンだ。
町の活気が無いようだったからこっちも誰も居ないかと思ったが、多少は居るようだ。
まあ、ダンジョンを稼動させなきゃ人が生活できないんだから当たり前か。
ユキとは二十七階層で別れ、サポートにリディアを付けた。
彼女たちの実力は階層的に同程度だろう。ヘイスト込みならば問題なくやれるはずだ。少なくともリディアはソロで回れるラインだし大丈夫だろう。
三十階層を越えると誰にも会わなくなった。
そして目的の三十二階層へと到着した。
今回の目的は纏いを完全にマスターする事だ。
今まで魔力を切らす訳にはいかなかったので戦闘で纏うことはしなかった。
だが魂玉を四千個以上吸収した今の俺はアリスちゃんを余裕で越える魔力を有している。
もう誰かが怪我をしてもしヒールが必要になったら、と魔力量におびえる必要はない。
恐らく、纏うだけなら丸一日でもいけるだろう。
自然回復量も同じ割合で上がるのでもはやチートの域に近い。
そんな訳で、纏いを使うならもっともっと降りれるが練習の意味を込めてここからスタートだ。
「よし皆、俺は明日までやると思うけど、好きに終了してくれていいからな」
「ハイハイ、駄目です。夜には帰りますからね」
え? ちょっとサラ?
「そうです! ずっと離れてたんですからね!?」
むぅ。ソフィまで……俺だってずっと我慢してたんだぞ。
ダンジョン久々なんだよ……遊ばせてよ。
「いいのぉ? 王女たちが来たらまた色々邪魔されちゃうよぉ?」
ハッ!? なるほど理解! 把握した!
「そうだな。うん。皆がそう言うなら、合流する件もあるし夜には戻ろう。
幸いまだ昼前だ。時間はある。じゃあ、即効で始めるぞ」
「それは構いませんけどカイト様、久々なら無理しないでくださいね?」
そんな心配性なコルトの助言に相槌を打って狩りはスタートした。
数時間で終わりということで、各お好みの階層へと移動していく。
ソフィ、ソーヤ、アリーヤさんは俺と同じ階層だ。本当ならもう少し上のはずなのだが、俺が一緒でこの人数なら問題ないと押し切られた。
レナードとエメリーは三十五階層
コルトとアディは三十四階層
サラが三十三階層だ。
皆ならまだまだ降りれるが、最終が三十五階層なので適当にバラけるとこうなった様だ。
皆も強くなったもんだ。大討伐の時はレナードでも二十四階層とかだったはずなのに。まあ、ヘイスト無しでへレンズの高難易度ダンジョンだが。
ホセさんはここじゃぬるすぎるからボスでもやるかとのんびり歩いていった。
強者の余裕だ。
まあ出会った時には既にヘイストとか無しでへレンズの三十三階層をソロで回ってたんだもんな。
その時より強くなってるって考えたらぬるすぎても仕方ない。
けど、近場でここが一番深かったんだから勘弁して欲しい。
そうして狩りがスタートした。魔物はトレントの上位種のトレント。
大きさは二メートルちょっとで余り圧迫感は無いが、上からは鞭の様に枝を叩きつけてくるし、下からは根が足を絡め取ろうとしてくるので割と面倒だ。
ドロップは普通に木材。
あのサットーラで魔紙の材料として必要とされていたものだ。
向こうでは三十一階層だったが、こっちの方がわずかにぬるいのかもしれない。
需要があるのだから人が居ても良さそうなものだが、今のところ誰とも会っていない。
「うふふ、やはりカイト様と一緒だと空気が違いますわ」
え? 何それ。悪い意味じゃないよね?
「わかります! 訓練じゃなくて遊びの様で楽しくなってきますよね」
「お、おう。良い意味でなら良かった。けど、無茶は駄目だからな?」
そう言いつつ狩りをする皆を盗み見る。
やはり俺と違って点滅させる様に纏っている。移動開始時、止まる時、攻撃時、防御時、動力が要る瞬間だけだ。
まあ、そこまではすぐには無理だろうが、この駄々漏れ状態をなんとかしたい。
「なぁ、薄く纏うのってコツがあるのか?」
「少しだけ出すんですよ、カイト様っ!」
「肌の周りに膜を張る感じでしょうか?」
「僕は出して押さえつけるイメージで使ってます」
なるほど。皆イメージが違うのか。
でも少しだけ出すのって難しいんだよな。
ああ、なら膜を張って押さえつけてやればいいのか?
皆の助言に沿って魔力に意識を乗せる。
膜を張った事で火の様に揺らめいていたのが丸くなり、押さえつけようとしたら半分程度までに留まった。
「おお、割と簡単に進歩した。ありがとな」
「むぅ。私の助言を聞いてくれてません! 出すのはちょっとですぅ!」
「き、聞いてるさ。俺にとってはちょっとなんだよ?」
多分。きっと。恐らくは……
「もうそれほど魔力が上がっているんですね。凄いです!」
うぅ。ソーヤの信頼が痛い。アリーヤとソフィにはバレてるし。
「あ、あれだ! もっと押さえつければ良いんだろ!?」
とりあえず何とかしようと無理やり押さえつけようとしたが、今度は少ししか変わらなかった。
まだ皆と比べると厚みが十倍以上だ。
くっ、押さえつけるだけじゃ、これ以上は駄目なのか?
いや! 負けては駄目だ! 圧縮圧縮! 空気を圧縮!
何でもやってやる! 不必要なものはポイしろ!
無理やり練り込め! そして固めろ!
そうだ! 固まるくらいに圧縮圧縮ぅ!
「ぐぬぬぬぬぬ」
「え? カイト様!? その姿は一体……」
「ふ、ふふ、何これ……変……」
「カイト様、それ……なんか怖いです」
えっ? 何? どうなってるの?
うん? 全身黒タイツみたいになってる?
「なんでやねーん!!」
「あははははは!」
ちょっとソフィ! 笑うの止めて! うけ狙ってないから!
「カイト様……それ、息苦しくないんですか?」
「え? 全然平気だけど? 解除した方がいいかな?」
折角頑張って纏めたんだけど……
「その状態でも纏えていることになるのでしょうか?」
あ、そうか。一応チェックしとくか。
外見はここから改良すればいいんだし。
「んじゃ、このまま敵を探すぞ」
「ぷくっ……このまま?」
「こら、ソフィ! 笑うなんて失礼でしょう!?」
ぐぬぬ……一刻も早く纏いを完成させねば。
ソフィはあとでお仕置きだな。
「カイト様、居ました。三体です」
「わかった俺に任せろ! 『烈派』!」
丁度纏まって居たので全方位に射程の短い『衝撃』プラスダメージを追わせるスキルを使うと、三匹のトレントは四散した。
「「「えっ?」」」
「ぎゃははははははははは」
おい! 笑うの止めろ!
てか、何このダメージ量……
もしかして、移動速度も?
検証しようと全力で移動してみた。
「――――っ!? はっや! マジで?」
うずくまって地を叩くソフィが気にならないほどに、能力が上がっていた。
「もはやホセさんのスキルの様でした……これは物凄いこと、ですよね?」
目を輝かせたソーヤが興奮して手を取り問いかけてきた。
確かにこれを常用できるならクソヤバイ。
一気にホセさんやアンドリューさんクラスに上り詰めるレベルだ。
「ちょっと不恰好みたいだけど、今日はこれでいくわ。性能テストする」
うん。見た目に拘るレベルの性能じゃない。
毎回これが使えるなら、ピンチを切り抜ける切り札になる。
てか、何時まで笑ってるんだソフィは!
こうなったら笑わせまくってやる!
ほれ、たこ踊りだ!
「あひゃあひゃひゃひゃひゃひゃ」
「カイト様! お止めください! あぁ……僕のカイト様のイメージが……」
おおう。珍しくソーヤに怒られてしまった。
初めてかも。
これは止めよう。なんかちょっと泣きそうだし。
「まあ、持続時間を調べなきゃいけないから、さっさと始めるぞ」
「わかりました。……ソフィは動けなそうなので私が抱えます」
つぼに入って止まらないソフィをアリーヤさんが抱えて再び狩りがスタートする。
だが、問題が発生した。
この状態じゃ敵が弱すぎて話しにならない。
通常攻撃でも一撃だし、試しに攻撃を食らってみてもダメージは無い。
足を絡め取る攻撃も気にせず振り切れてしまう。
「凄い! 凄いですカイト様!!」
ソフィとは打って変わって大絶賛のソーヤに癒されつつも続けていると、四半刻も経たないうちに魔力の減少を体感した。
「あ、もうやめとこ! 魔力が半分切った」
「えっ? もうですか?」
「ああ。やっぱり燃費はかなり悪いみたい。こりゃ切り札としてしか使えないな」
そう言って纏いの状態を一度解いた。
「ぶははははっ!」
……何故、解いたのに笑う。
流石にイラッと来たのでソフィに拳骨を落として再スタートだ。
当然、纏いの練習も続けた。
やっと何時もの調子に戻り、普通に練習をしながらの狩りを続けていると、アディが俺を呼ぶ声がした。
「もう終りの時間なのか……」
「はぁ、楽しい時間はあっという間です……」
……今それをソフィに言われても微妙なんだが、と思っている間にアディの姿が見えた。
「あっ! 居た居たぁ! ほら、さっさと戻ろ!」
走ってきたアディに強制的に手を引かれて走らされる。
後ろを振り返れば、どうやら皆ももう合流しているみたいで車を引きつつ追走している。
ホセさんは手ぶらで車に乗っているので空振りだったのだろう。
さっきの事を報告しようかな?
皆に笑われるのは嫌だな。
うん。改良が終わってからにしよう。
どうせ言ったら見せろって言ってくるだろうし。
リディアたちがいる二十七階層に戻ってきたので探そうと思ったら二人は階段前で待機していた。
どうやら様子がおかしいと走って近寄ると、二人とも大怪我をしていて慢心相違だった。
「なっ!? 『ヒール』! 何があった!」
「ご主人様!! ごめんなさいぃ。不覚をとりましたぁ」
涙目で土下座するリディアを抱き起こす。
「いい! 生き残ってくれたならそれでいい。けど何があったんだ?」
「あの、魔物との戦闘中に別パーティーに襲われまして……荷車を奪われてしまいました……」
「荷車なんかはどうでもいい!
お前たちが無事ならいいんだ。良く生き残ってくれた」
ユキも抱き寄せて「荷物の事なんて気にする必要はない」と告げる。
「それで、そいつらは生きてるのか?」
「はい。戦闘中に後ろから数発魔法を撃たれてそのまま荷車を引いて逃走したので、おそらく向こうは死んだと思っているはずです。
『マジックシールド』は普通意味を成しませんから」
リディアの説明に「わかった。しっかり『マジックシールド』付けてて偉いぞ」と頭を撫でて皆に振り返る。
「はーい! 今回の狩りで初めて『絆の螺旋』が喧嘩を売られてしまいました。
当然ぶっ飛ばそうと思います。異論があるひとぉ~」
緩く言わないと皆にも荒い言葉を使ってしまいそうなくらい頭に来ているので、わざと口調を崩し問いかけた。
「そうね。舐められたままじゃ居られないわよね」
「まあ、カイトさんならそう言うわな。俺も賛成だ。思い知らせてやろうぜ」
「ギルド抗争なんて確かに初ですね。面白い……」
そうして皆が同意して行ったのだが……
「馬鹿もん! お前らまで熱くなってどうする!!
道筋を考える前に同意するものではない!」
ホセさんの叱責により、皆の言葉が止まる。
否定されると思っていなかった俺は驚いてホセさんに視線を向けた。
「主よ、やるならやるで下準備というものがある。それを忘れるでないぞ?
こちらに正義があったとて、敵が権力と繋がっていれば犯罪者はこちらとなる」
と、ホセさんに諌められてしまった。
そうだった。俺はリーダーだった。皆を犯罪者にする訳にはいかない。
「んじゃ、領主に話を通してくれと皇子に頼む感じでいい?」
「そうじゃな。それが通れば安泰じゃ。しかし探すのも一苦労じゃろうがな」
「全く、主は絶対引かんというのに。相手を見て喧嘩を売って貰いたいもんじゃ……」と、言っている言葉とは裏腹に余裕な表情のホセさん。
「そこは多分大丈夫ですよ。教会で待っていれば来るでしょうから」
「確かに騎士ならいずれは行くと思うが、罪を犯した直後だぞ?」
コルトがリディアに疑問を投げかけたが、彼女は「そういう犯罪者は大抵、外では盗賊もやってる様な輩なので慣れてるんです。バレてないと踏んでいれば何一つ気にしませんよ」と真顔で応える。
「あの、私が……私が何とかしてきます! お任せ願えませんか?」
「あ、私もそれがいいです。ご主人様に迷惑は掛けたくないので」
大変そうだと言う話が出たからか、ユキが恐縮して自分でやると言い出し、リディアがそれに追従する。
俺が駄目だと否定する前にエメリーが声を上げた。
「えぇぇ? そんなの駄目に決まってるじゃん。全員で行くよねぇ?
仲間を攻撃する奴はギルド全体の敵なんだからぁ。
ねっ、カイト様ぁ?」
エメリーの声に俺は強く頷き、二人が誤解しない様に言葉を返す。
「言っておくが、これは俺がやりたいからやるもんだからな?
ユキはまだ入って間も無いからわからんが、リディアは俺が攻撃されたらやり返したいだろ?」
「当然です! 私からご主人様を奪おうとする奴は殺します。
たとえイケメンでも!」
いや、イケメン関係ねぇから。
いや待てよ……逆に考えると美少女か。少しだけ関係あるな!
「わ、私もです。サオトメ様が聖人様でなかったとしても、大切なお方ですから」
「ありがとな。俺にとしてもそうなんだ。迷惑とかじゃないんだ。一緒にやるぞ」
そうして指針が決まれば、即座にダンジョンを出て騎士教会で荷を売り宿へと戻った。
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