第65話



 あれから数日、面倒事が起こるであろうと不安を抱えながらも、ダンジョンに籠もり続けた。

 階層は変わっていない。三十一階層だ。変わった事と言えば、一緒に狩りをする面子だ。


 俺、アレク、アリーヤ、ソフィ、ソーヤの五人だ。


 ソフィアに全員分のヘイストを頼むのは厳しいし、三刻で戻る訳にもいかない。途中から速度が変わるほどだれるものはないのでヘイストは俺が掛けることにした。

 

 因みにリズやうちの武闘派メンバーは三十三階層でやっている。

 そんなに急ピッチで階層下げて大丈夫かと何度か聞いたが、俺に言われたくないと返ってきて沈黙した。


 心配して言ってるのに。


 皆が言うには、前より安全マージンは取っているから大丈夫、だそうだ。

 まあ、今やれてるならいいだろう。俺は当分階層を下げる気はない。深層といわれるだけあって、魔物の強さの上がり方が厳しくなってきてる。


 いや、簡単には加護が貰えなくなってきてるという事なのかもしれないな。

 なんにせよ、ここからは高レベルのレベリングタイムだと考えるべきだろう。

 そう、毎日毎日同じ場所に行って同じ事をするお時間って事だ。


「ちょっと、聞いてるの! 折角魂玉を取り寄せてあげたのに!」


 ……現実逃避タイムは終わりのようだ。

 そう、リズの計らいでポルトールから盗賊の魂玉五百を取り寄せ、目の前に置かれていた。


 俺とアレクが座る席の目の前に。


 いつものリビングとして使っている大きな食卓のある部屋。

 今は丁度おやつ時を過ぎた頃。王都に居る知り合いの大半が集まっていた。


 何故かカミラおばちゃんやワイアットさん、エヴァンの父ちゃんまでもが席についている。


「アレクさんや、お腹一杯になるまでたんとお食べ」

「ちょっと! 二人で交互に、でしょ!? 僕ばかりに押し付けないでよ!」

「そうね。早くしなさい。盗賊を百人以上も討伐したんでしょ?

 なんで今更魂玉の扱いをそこまで気にするのよ」


 いや、まあ、それはそうなんだけどね。出来ればアレクに吸わせて注目をこいつに集めたいんだよね。英雄になりたいって言ってたし。

 まあ、魔力が増えるの事態は大歓迎だし気は進まないがやるしかないか。


「まあいいや。んじゃやるぞ! 『魂の聖杯』」


 とりあえず一個掴んで使ってみた。


 すぅっと光を放ちながら手の中に落ちて消えていく。

 特に体に異変も感じない。


 アレクもやり始めたので俺達は黙々とスキルを使っていく。


「あ、僕はもう限界。これ、魔力使うね……」

「え? あ、ヤバイ、使いすぎた。だ、だるい……」


 黙々と体を動かさない状態でやっていたからか、消耗具合に気が付くのが遅れた。


「十一個って所ね。丁度いいわ。毎日やってどのくらい増えるのか見て行きましょ。

 平行して魂玉も集めておくから」

「ちょ、ちょっと待てよ……そんなん集めたら悪い噂が立つんじゃないか?」

「大丈夫です。処刑される罪人を集めれば良いのですから!

 丁度今、戦争に向けて治安を良くしておく為、罪人の一斉検挙を行っているのです。集め放題ですわ!」


 え? アリスちゃん、なんか怖いよ?


「いや、しかし凄い事だね。本当に魂玉を吸収できるとは……人に伝えられないのが残念でならないが、どうやっても無理なのかい?」

「父上、こんなものは広められない方が良いとは考えないのですか?」


 エヴァンが親父に喰って掛かっているが、ニコラスさんは気にした様子もなく興味をこちらに向けている。


「うむ。得た相手が彼らだと言う事を喜ぶべきであろう。こんなものが広まってしまえば、心無い者が魂玉を求めて殺人が横行する可能性するらある」


 全くだ。町の人たちならその可能性は低いだろうけど、盗賊連中であれば喜んでやるだろうな。

 しかしこれだけの為に女王までうちに乗り込んでくるとは……アレクめ……


「お婿ちゃん、そんなもの食べて大丈夫なの? お腹痛くない?」

「食べた訳じゃありません! それと婿じゃないです。

 お腹撫でるの止めてください! もう一人居るでしょ!?」


 あらあらと楽しそうな視線がアレクへと向かう。


「この子は団長のお孫さんよね?」とアレクの頭を撫で撫でしながらカミラおばちゃんが問い、アレクは上ずった声で「ひゃい! 私も王国騎士を目指しております!」と元気良く答えた。


「ふふふ、嬉しいわ。これで国は安泰ね?」

「い、一命に変えましても、かならずや一生お守り致します!」

「あらぁ? プロポーズかしら? 可愛いわぁ、えいっ!」


 おばちゃんに抱きしめられて口を空けたまま固まるアレク。ソフィアたちは彼の様を見て笑っているが、ワイアットさんやニコラスさんは額に手を当てて溜息を吐いている。

 当然俺は余裕な面持ちだ。俺の苦労をちょっとは知るといい。


 そんなことを考えつつも、ワイアットさんに聞きたいことがあったことを思い出し問いかける。


「そういえば、戦争に向けた作戦って堀を築く以外にも上がっていたりしますか?

 障壁の強度が五割り増し程度じゃまだ足りませんよね?」

「うむ、先日の討伐で出たミスリルを使い、主力への装備を整えて居るところだ。其の方にも作っておるのだぞ。まあ、ソフィア様から鎧は貰ったようだから剣のみになるだろうがな」


 マジかー! 

 それはありがたい。全身超高級装備じゃんか!

 って買えるんだから買うべきだったな。どうしても弱い所でやってるから買う必要性を感じないんだよな。

 この世界に来てゲームの時とは違い限界まで強い所ってのに行かなくなったから高価な装備の必要性を感じないんだよな。


 って、大討伐でボスドロップあったんだ?


 そんな呟きを漏らせば周囲から訝しげな目を向けられた。


「どうして中心にいた貴方が知らないのよ。相当に沸き立ったって聞いているわよ」


 と、ソフィアの疑問もリズが「限界まで魔力を使って意識をうしなったのよ。流石に団員から聞いていると思っていたけど……」と説明を入れた。


「そういえば忘れてたな。起きたら起きたですぐダンジョン行こうとか言い出すからよ」


 レナードがいつもの口調で言い、ホセさんに場を弁えろとお説教され始めた。


 いや、そんな事はいいんだよ。

 それよりも数点ミスリルの装備作っただけじゃ足りないだろ?

 もっと無いの? 大規模詠唱魔法みたいな凄いの。


「なに!? カイトの故郷ではその様な魔法があるのか!?」

「え?

 あ、いや……なんとなくイメージでそういうのないかなぁって思っただけです」

「そうか。この国には無いのう。現存の魔法はすべて士官学校で教えておる。逆にこちらから聞きたい。戦力差を詰める術はないか?」


 うーむ。そう言われると難しいな。そもそも戦場がどういったものかもわからんし。

 盗賊とのバトルを思い出すと無駄打ちさせるのが有効だったな。正規の兵士に通じるかはわからんけど。

 いや、あの時は俺達三人だけだったけど、今回は違う。

 普通に人数が居れば撃ってくるか特攻するしか道がないよな。囲む予定なんだし。


 そう思ってアリーヤさんに紙を用意して貰い、陣形を書き出してみた。





  ティターン皇国国境門



     敵軍大隊

    推定数六千人




 Λ    Λ    Λ    Λ

 兵   兵   兵   兵

 兵   兵   兵   兵 

 兵   兵   兵   兵

 兵   兵   兵   兵

    一列十名前後


      深い堀


 ―――――――――――――

     本隊二千人


「こんな感じでストーンウォールをVの字に作って感覚を開けてみたらどうですかねね?」

「いや、流石にこれでは前に出した兵が死んでしまうのではないか?」

「ええ。なのですぐ後ろに穴掘って置いて、無理そうだったり魔力が厳しそうならそこに避難すれば距離的に魔法が届かなくなりますよね?

 間隔を開ける分無駄打ちをかなりさせられると思うんです。

 後ろの本隊からの魔法攻撃を考えれば近づくのも難しいでしょうし」


 その話にニコラスさんが身を乗り出し覗き込み「なるほど」と一つ頷き、懐から地図を出して広げた。


「しかし、うちの兵は相手の三分の一、それを囲むとなれば当然かなり薄くなる。そこをカバーする手立てはないかな?」


 そう言って広げた地図を覗き込めば、平野だと勝手に思っていたのだが、割と森が多かった。



 壁     国境門    壁

        道

        道

 森      道     森

        道

        



 森に囲まれた地形になっている。

 門の周囲二百メートル程度は草原だそうだが、両側にある森林は国境の壁から二十メートルもないほどには接しているらしい。


「じゃあ、都合良いじゃないですか。道の真ん中にこっちの本隊置いて、両側の森に百ずつ伏兵起きましょう。完全に身を隠して狙い撃ち出来る様にして置いて、森に行かなければ最期の詰めで両側から挟撃して貰えば相当戦意を削げるでしょ?」


 両側が森なら囲む必要は無いと地図を指差しながら提案を入れていく。

 本隊千五百、前に出すのが三百、伏兵が二百と紙に書き込んだ。


「伏兵か。確かに有利ではあるね。だけどそっちに精鋭を二百も持って行っては本隊が弱くなりすぎる」

「いや、そこを考える必要はないんじゃないかの? もし、特攻をかけてくるのであれば、乱戦に持ち込み側面からの挟撃も入れられる。

 側面であれば、遠距離からの攻撃も割りと気兼ねなく行える。これは大きい」

「そう言われれば確かに。ヘイストがある以上こちらが不利になるのは主に魔力総量で負ける魔法戦のみ。であれば乱戦は歓迎すべき事態か。弱く見て貰えた方がありがたいのだから……

 なるほど、だから防衛力を上げつつも弱く見せるのか。理にかなっている」


 いや、そこまで考えてないんだけど……

 ただ数の差を少しでも埋める為にサラがやられた時の様に茂みとかを利用すればいいんじゃないかと思っただけで……


 それに悪くないと思うけど、これなら絶対に平気だとは思えない。

 自分で提案しておきながらも不安になり懸念事項を挙げた。


「あー、でも全軍を持って森を抜けようとされたら終わりますね。

 ポルトールやオルドフォードに向かわれたら止めようが無いかも……」


「いや、それはしないね。出来ないとも言える」とニコラスさんがニヤリと笑みを浮かべた。


「うむ。こちらの方が足が速い。

 確かに数を鑑みればその策を実行出来るなら成るだろう。

 しかし、長時間後ろから狙い撃ちされ続ける以上、恐慌状態に陥り指揮系統が崩壊する。それに自分の街への道を開けることも出来まい」


 あそっか。自分達より強い奴らが後ろから魔法を撃ち続けて来るんじゃ長距離の移動なんてやってられんわな。


「あらあら、凄いのねぇ。こうして書き出してくれると私でもわかるわぁ」


 とカミラおばちゃんののほほんとした声が響き、苦笑が起こる。


「ええ。私もこれならすぐに理解できますわ!

 カイトさん、私は何処に配属されるのですか?」


 俺は「アリスちゃんはここだ」と紙の端っこの白い部分を指した。


「そこは、なんですの?」

「兵士を送り出す本陣ってところだな。王女三姉妹はこっちだろ。普通に考えて」

「ちょっと待ちなさい! 私は出るって言ったでしょう!」

「私だって出ます! 何の為に鍛えていると思っているのですか!」


 いや、お前達は大将より上の存在だよ?

 もし討たれたら士気総崩れになってもおかしくない存在なの!

 前に出して良い訳ないじゃん。


「言っただろ? 出しても大丈夫なほどに鍛え上げなきゃ無理だって。

 三十三階層程度なら精鋭兵と変わらないレベルだ。そのレベルなら簡単に死ぬ。

 士気が崩壊する以上マイナスになるって事だ。勝ちたいなら今回は我慢しろ」

「それは極論よ。本陣から魔法を撃つ程度なら死ぬ事はないわ。アリスの魔法力なら兵士数十人……いえ、精鋭と考えなければ百人以上の効果が見込める。

 私だって乱戦ならば格下に遅れを取ったりなんてしない。馬鹿にしないで!」


 いや、馬鹿になんてしてないっての。

 この前まで軽く考えてたけど、数の暴力ってやばいんだよ。

 うーん。ステラの無茶が無ければどうにもならないってはっきり言えたんだけど。あいつがどうにかしちゃったからなぁ……


「カミラおばちゃんはどう考えてます?」

「お、おばちゃ……」


 はっ!? しまったぁぁ! つい、言ってしまった……

 あれ? でもワイアットさんはちょっと楽しそう。ニコラスさんも苦笑いながらも笑っている。他の皆は唖然としているけど。

 これはもしかして許されるパターンか?

 よし、今のうちに訂正しよう。


「カ、カミラ女王陛下はどう考えてます?」


 目を背けながらも訂正して言い直せば、頬を抓られた。どうやら本人は怒っている御様子。


「ご、ごめんなさい。間違えました」

「間違えるなら今度からはお姉さんと呼びなさい。良いわね?」

「は、はい……マム。痛たたたた、お姉さま! 痛いです!」


 あぶねぇ、結構力強いなこの人。てっきりクソ雑魚女王だと思ってたわ。


「ゴホン。不本意ではありますが、エリザベスとアリスを戦場に出す事は了承しています。しかしながら本陣よりも前に出る事は許容しません。

 婿養子のあなたにはそれを前提に入れた作戦立案を要求します」


 おいぃ! 無茶言うな!

 てかなんで婿養子決定になってるんだよ!


 しかしながらやらかしたばかりな手前、強く否定が出来ない。ワイアットさん助けてと強い視線を向けた。


「カミラ様、作戦の方は一先ずはこれで良いでしょう。本隊を出ずに魔法支援に限ればこれ以上の安全を保障するのは難しく思います」

「ほ、本当に出されるのですか? 私としましてもサオトメ殿と同様に出さぬ方が国の為かと思いますが……」


 その言葉に二人の王女からニコラスさんに強い視線が向く。


「そうよねぇ。けど、リアムならば戦に出たと言われて納得してしまったのよ。

 あの人の娘として恥ないように生きたいと言われてしまってはねぇ……?」

「た、確かに陛下ならば……お止めしても聞いてくださらなかったでしょうね……」


 なるほど。こいつらが聞かん棒なのは父親の血か。


「ふむ、しかしこの様な事が続いて血が絶えてはならぬ。そうした我侭を通されるのであれば早急に御子をお作りになって頂かねばなりませんな」


 なぬっ! こいつらが他の男と子作りと考えると、ちょっと嫉妬するな。

 いや、かなり嫌だな。断っている以上、絶対に言えんけど。


「ですって、お婿ちゃん。どの子にする?」

「ちょっと待ってお母様! こ、子作りなんて早すぎるわ! ダメよ!」


 そうそう。早い早い。もっと言ってやって。


「で、でしたらお姉さまは後回しという事で……チラチラ」

「そ、そうね。早いと思っている人は後回しにしてあげるべきね?」


 なぬっ!?

 アリスちゃんとソフィアは乗り気だと!?


 ふむ、良く考えてみようか。

 今までは手が出せなくて責任がのしかかるから嫌だった。しかし今ならば責任はあるがやれる。しかもこの二人と!

 乗るべきか!?

 いや待て。いやしかし姉妹丼。


 うむむむむむ……


「ちょっとぉ! 何本気に考えてるのよ! 冗談に決まってるでしょ?

 ね? 冗談よね、お母様? 冗談って言いなさいよコラァ!」


 え? 冗談なのとカミラおばちゃんに視線を向けた。


「あらぁ? お母さんのそんな口の聞き方しちゃうの?

 お婿ちゃん、私と子作りしましょうか。この子の前で」


 ぶはっ、何言ってんのこの人。

 皆ドン引きだよ? てか女性陣の大半は怒ってるよ?


「そういう事はアレクとやってください」

「ちょ、おま!」

「まぁ? お姉さんをそんな目で見てたの!?

 そんなにガチガチになってアレクちゃんはいけない子ねぇ?」


 あ、やばい。アレクが青い顔になってる。緊急回避とはいえやり過ぎた。


「そろそろガチで冗談は終わりにしましょう。性質が悪いですよ。カミラ様」

「そうね。けど、血を残すという話は冗談じゃないの。

 この子達の願いを考えれば、あなたに決断して貰いたいのも事実よ。

 この際既成事実を先に作っても文句は言いません。心に留めておいて?」


 マジかよ。本気で言ってるのかとワイアットさんの顔色を伺うと『うむ』と深く頷かれた。どうやらやっちゃっていいらしい。


「ウェスト伯爵やここに居るウォーカー候爵には殿下の我侭を受け入れて貰えた。幼子も入れればまだ候補はいるが、無理にそちらを選ぶ理由も無い。しかし何時までも王女殿下を未婚にしておく訳にもいかぬ。

 タイムリミットがある事は努々忘れるでないぞ?」


 えっ? 何か話がおかしい。俺は選ばないと散々言ってきたのに。

 まあ、放っておけば良いだけならいいか。我慢できず手を出しちゃったら責任取ればいい。


「わかりました。出来るだけタイムリミットを狙っていきます」

「何でよ!!」

「いや、お前はまだ早いって言ってただろ?」

「それは……そうだけど……」

「だろ? うん、話も着いたことだし、今日はもうお開きって事で!」

「あらぁ、もう終りなの? もうちょっと遊びたいわぁ……」


 おい、遊びに来たのかよ!

 相変わらず自由だな、このおばちゃん。


「ダメです。カミラ様も遊んでないでお仕事してください!」


 そうして突如押しかけられ、軍儀から政略結婚話にまで及んだお話し合いは終わりを告げた。

 国の重鎮達が帰るといの一番にアレクに責められた。


「カイト、いい加減にしなよ! 僕を殺す気なの!?

 本当に生きたここちがしなかったんだからねっ!?」

「それはカミラおばちゃんが悪乗りしたからだろ?」

「どう見たっておばちゃんじゃないよ!!」

「そうか。喜ぶぞ、アレクがそう言ってたって言って置いてやる」

「止めてよ! ホントに止めて? お願いだから!」


 と、段々と主導権が俺に移り「仕方が無いな。言わないでやる」と言えばアレクはホッとして腰を下ろした。

 そんな様を苦笑してみていた王女達やエヴァンもそろそろ良い時間なので帰して『絆の螺旋』メンバーのみとなった。

 さて、飯食って後片付けして寝るかと声を掛けたのだが「カイトくん、話があるの」とアディに止められた。


「どうした?」と軽く返したのだが、目が真剣さを帯びている。


「今日から毎日好きに抱いていいから、絶対にハニートラップに掛かからないで!

 お願い距離が開いちゃいそうで怖いのっ! 我慢して欲しいの!」

「ああうんわかった。さあ行こう!」

「はやっ! じゃなくて、アディばかりずるい!」

「カイト様、私たちにもお情けを……」

「イケメンの独り占めはんたーい。ご主人様は皆の物です!」


 おおう。なんだなんだ? いつのまにか浮気が許される空間ができているぞ?


「うむ。じゃ……なんだ……話し合って順番を決めなさい」

「うわぁ……順番ってカイト様……ホントにこの前まで童貞だったんですか?」


 おいぃぃ! コルト邪魔すんな! 天国か地獄の境目なんだよ!

 俺は地獄を通ってでも天国に行きたいんだよ!


 そうして俺はもう傍目に惑わされぬと目を瞑り、彼女達の話し合いが終わるのをひたすら待った。

 選ばれたのはアリーヤさん。年功序列らしい。


 彼女のスローガンは『一日でも若いうちに抱かれたいの』だった。それが皆の心に響いたらしい。


 いや、そんなに年くってないでしょと言いたいが、女性はそういう所で繊細だと聞くので無駄に掘り返さず、二人で楽しいひと時を過ごした。

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