第23話『作戦会議』

 

 結局夏休みの間にエンディングまでなんてとてもいけなかった俺たちは、新学期が始まってからも引き続き、学校と小林さんの自宅で、【最高を越えた最高のハッピーエンド】を目指すことにした。


 今日は夏休み明け初日。学校が半日で終わったので小林さんの家に集合して、今はコンビニで買ってきた昼飯を食べながら、「ついでに作戦会議しよ!」と小林さんが言い出したので作戦会議中だ。

 【異世界の命運を握る神々の作戦会議】とかいってみると、えらい壮大な感じがして、ただの高校生が飯食いながら雑談しているだけという現実とのギャップがいい感じだと思う。


「さて、そろそろゲームの世界あっちもこっちも秋なわけだけど、秋の終わりには古の魔女の復活がいよいよなわけで、フィーネたちの戦力の増強をしなきゃ、だよね?」

 小林さんは、ふいに真剣な表情でそういった。

 そうだ。秋の終わりには化け物が復活してしまう。リーゼロッテがその体をのっとられてしまう危険性は排除できても、それで絶対に安全だとは断言できない。


「具体的には残りの2人の攻略キャラさえそろえば逆ハーレムルートと同じだけの戦力がそろうわけで、勝てる計算になる……、とは、思うんだけど……」

 小林さんはそこまで言うと、デザートのプリンを一旦机の上に置いて、難しげな表情をしている。


「なにか問題があるのか?」


「うーん、なんていうか、残りの2人はゲームだと、こっちから積極的にいかないとおとせない、元々フィーネにそこまで興味のないキャラ、なんだよね」

 俺に尋ねられた小林さんは、頬に手をあて考えながら言葉をつむぐ。

「あとの2人は年上枠のレオン先生と、ショタ枠のファビアン・オルテンブルク子爵子息……、ファビアンきゅんなんだけど、さ。ファビアンきゅんは恋愛とか抜きに素直に力を貸してくれそうないい子、なんだけど、レオン先生が……、なー……」

 本編は逆ハーレムルートしかやっていない俺からすると、2人については戦闘スタイルの記憶しかない。ファビアンは防御が低くて溜めが長いけど威力の高い魔法や派手な全体攻撃が使えて、レオン先生は状態異常魔法(麻痺や睡眠、毒など)とステータス異常魔法(防御力を引き下げたり)が使えた。どちらも戦力としては欲しい。


「レオンってそんなに面倒なやつだっけか?」

 わりと腹黒そう、というか糸目のいつでも笑顔のキャラだったので腹黒で間違いないと思うんだが、生徒を見捨てるほどまでにひどいやつでもなかったような気がする。普通に協力を依頼するのではいけないのだろうか。俺が首を傾げると、小林さんはため息を吐きながら言葉を続けた。


「レオン先生は、なんというか、本性を隠し通したがるキャラなんだよね。

 レオン先生は妾の子だけど唯一の男児だからと父親に引き取られていたのに、先生の成人直前に本妻が待望の男児を産んで跡取りからはずされた人なの。で、社交や政治から遠ざかって無害アピールするために魔導師じゃなくて教師の道を選んだわけさ。

 そんな人が、状態異常……、つまりは呪いの類が得意っていうのは、他人に、特に実家に知られたらまずいわけで、レオン先生を戦闘に引っ張り出すには……、それこそ、フィーネちゃんに恋をさせるくらいのことが、必要、なわけで……」


「それはもう無理だろうなー……」

 バルドゥールとフィーネがうまくいった今、他の男を誘惑するような不誠実なことはフィーネもできないだろうし、俺たちだって無理強いしたくない。

 そもそもレオンだって家の認めた相思相愛の婚約者(に、一見見えるが実際は今のところはまだそうじゃないけど)のいる女の子に惚れるようなことはないだろう。


「ってことで、フル戦力をそろえるのは、難しい、かな……?」

 小林さんは悲しげにそういって、ずるずると机につっぷしていく。


「でも俺思うんだけどさ、古の魔女って要するに魔王的存在なんだよな?」

 俺は、さっきからずっと疑問に思っていたことを、確かめてみることにした。


「そだね」

 小林さんはやる気のない姿勢でやる気なくプリンを食べながら、俺の質問に答えた。


「魔女をほっとけば、最悪国や世界を滅ぼすんだよな?」


「バッドエンドだとそうなってたね」


「……なんで、学園の中の人材だけで、解決しなくちゃいけないんだ?」

 俺がそのずっと抱えていた疑問を投げかけると、小林さんははっと何かに気がついたような表情になった。

「たしかに、よく考えたら、国家の危機を子どもたちだけで解決するって、変だよ!」

 俺の言いたいことが伝わったらしい小林さんが、机から起き上がりながらそう叫んだ。

 そう。ゲームだからといってしまえばそうだが、いくらなんでも国家の危機の前には大人だって全力で立ち向かえって話だ。

 まあレオン先生だけは成人しているが、それだってたしかまだ24歳の若造なわけで、基本的に子どもたちだけのパーティで最終決戦に挑めだなんて、俺はそんなことは命じたくないし、むしろ大反対だ。


「普通に考えたら、警察?とか、あっちだと騎士団?いや軍になるのか?まあとにかく、大人、っつーか国家権力の出番だろ?」

 子どもたちだけの力で巨悪に打ち勝つ、というのは物語としては美しいが、現実的に考えれば奇妙なことだ。ありえない。あってはいけない。

 俺の言葉を受けた小林さんは、何度も真剣な表情でうなずいている。


「そう、そうだよ……。むしろリーゼロッテとフィーネのピンチなんだから、まずは2人のパパの協力を仰ぐべきだよ……」

 小林さんは、えらく真剣なままの表情で重々しくそういった。


「リーゼロッテとフィーネの父親、つまりは、将軍、およびその部下の騎士たち。そいつらを引っ張り出せれば、たぶん状態異常担当のレオン先生1人よりずっと強いだろ?

 しかも今のフィーネたちは、逆ハーレムルートのときよりも、よっぽど強そうだし」

 精神的にも、肉体的にも、今の主要キャラクターたちは、かなり頼もしく見える。

 フィーネはいわずもがなゴリラだし、フィーネがゴリラなせいでバルドゥールも必死に鍛錬を重ねているし、殿下もいつからかバルによく手合わせを頼んでいるし、リーゼロッテもフィーネといっしょに住むようになってから楽しく鍛練しているようだし、最近になってリーゼロッテにまでぼこぼこにされてへこんだアルトゥルがフィーネに殴りアコライトの戦い方を教えてもらっている。勝てる。

 俺の考えをきいた小林さんは、じわじわと嬉しげな笑顔になった。


「よし、レオン先生は、諦めよう!

 当面の目標は、リゼパパに魔女討伐に参加してもらうことと、ファビアンきゅんの勧誘!」

 そういうことだ。俺がうなずいてその作戦に賛同の意を示すと、小林さんは、はたとなにかに気がついたような表情になった。

「だけど、それを、誰に、やってもらおうか……?」

 現在俺たちの声が聞こえるのは、ジークヴァルトとフィーネの2人。このどちらかに頼むかたちになるだろう。


「将軍には、フィーネから頼んでもらえばいいんじゃないか?

 なんかあのおじさん、新しい娘……、つーか【憧れの兄上の娘】と話したくて話したくて仕方ないみたいだし。ジークヴァルトに命令されるより、かわいい娘にお願いされる方が、やる気でるだろうし」

 俺がそう提案すると、小林さんはふんふんとうなずいた。


「そっか。そしたらファビアンきゅんの方は、ジークヴァルトにお願いすればいい、かな?」

 それでいいと思う。

 そっちは王太子自らに勧誘してもらうことで、敬意を示すほうが、たぶんいい。

 俺は、ただ深くうなずいた。


「よし、では作戦決定ということで、さっそくやるぞー!」


 そういって張り切って立ち上がった小林さんを見ながら、俺は心の中でひっそりとレオン先生に謝った。

 すまんレオン先生。君の出番も、かわいい女の子との恋の可能性も、俺がつぶした。

 まあ、そもそも15歳のフィーネにレオン先生が惚れちゃったら、それはもうロリコンだし……。

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