意志の力
一時的にエネルギー分散ビーム砲を封じられたユニガルドは、オーウィルに右腕を向けてジャーグの引力波を放つ。
「アトラクターウェイブ!」
しかし、忠志は機敏な動きで引力波から逃れ続ける。オーウィルが動く仕組みを完全に理解した彼には、地上も空中も関係なかった。
ユニガルドのパイロットは歯噛みする。
「ちょろちょろと目障りな! 行け、ワーカー!」
ユニガルドは腹部から働き蜂を飛ばして、オーウィルを追わせた。働き蜂はユニガルドのパイロットの意のままに動き、オーウィルにまとわり付いて、動きを鈍らせる。働き蜂は大きさが数メートルしかなく、エネルギー吸収能力も弱いので、逆に忠志にエネルギーを奪われる。だが、完全にエネルギーを失うまでは、オーウィルの運動を妨害する。
「これで避けられまい! 今度こそ捕らえたぞ! アトラクターウェイブ!!」
ユニガルドは働き蜂ごと、オーウィルを引力波に捕らえた。まだエネルギー分散ビーム砲は高熱で機能停止したままだが、左腕にグラムバーの冷凍砲がある。
「沈めっ!! 再び氷漬けになるが良い!」
ユニガルドはオーウィルを引力波で引き寄せながら、冷凍砲を連射する。それを忠志は働き蜂のコントロールを奪って、盾にする事で乗り切る。冷凍砲の直撃を受けた働き蜂が、一匹また一匹とオーウィルから剥落して行く。
ユニガルドのパイロットは焦って目を剥いた。
「こいつ! 私からワーカーのコントロールを奪うとは、小癪な真似を!」
オーウィルは引力波に誘われるままユニガルドの右腕に取り付き、白熱してユニガルドを融解させながら胴体へと侵食する。
忠志は自分の行動に一切迷いを抱かなかった。彼は導かれるように、次の行動を取っていた。忠志の頭の中でヴィンドーの声がする。
(巨大ロボットに乗り込むのは人間の体を守るため。高熱に人間の体は耐えられないから、機体を媒介にしてエネルギー生命体の力を使う)
それは以前のような「会話をする」感覚では無い。意識の内側からヴィンドーの言葉が自然に浮かぶのだ。
(ヴィンドーが俺を導いている。ああ、ヴィンドーは俺の中で生きているのか)
忠志はユニガルドのパイロットが最初に「全ては一つに還る」と言った意味を理解した。
(オレたちはエネルギー生命体だから、取り込まれても完全に消滅する訳じゃないんだ)
彼はユニガルドの中に、ジャーグのパイロットの存在を感じる。同様にエルーンのパイロット、グラムバーのパイロットも分かる。忠志は彼等を自分の内に取り込んで行く。もう忠志は彼等の事を憎んではいない。彼等の正体はリラ星人ではなく、リラ星人に憑依したエネルギー生命体なのだ。ただ僅かに生前の人格が形を留めているだけ。エネルギー生命体に悪意はなく、原始的な本能に基づいて動いているに過ぎない。
ユニガルドの内側を侵食してコックピットに迫る忠志に、ユニガルドのパイロットは戦慄した。
「な、何故だ!? 力の差は歴然のはず!」
その動揺は忠志にも伝わる。彼はユニガルドのパイロットに向けて答える。
「勝負を決めるのは精神力だと、ヴィンドーは言った。オレには負けられない理由がある。あんたにはあるのか? どうしても負けられない理由が」
「私は王になるのだ! そして全てを取り込み、星々を食らう!」
「それはあんたの考えじゃない。リラ星人としてのあんたは、とっくの昔に死んでいるんだ。残っているのはエネルギー生命体としての本能だけ。そこにあんた自身の意思は存在しない」
「黙れ、地球人! 貴様こそ復讐や憎しみのために戦っている分際で!」
「今は違う」
忠志は断言した。遂にオーウィルはユニガルドのコックピットに辿り着き、パイロットごと焼き尽くす。肉体を失ってもユニガルドのパイロットは死なない。何故なら実体を持たないエネルギー生命体だから。肉体を失ってもエネルギーの塊として生き続ける。
(私は王になる……!)
「オレたちは一つになる。誰が王になっても同じ事……だけど、オレには絶対に譲れない意志がある。だから、オレは負けない」
忠志はユニガルドのパイロットをも取り込んだ。
ただ王になる事だけが目的なら、誰が勝とうと負けようと変わらない。王が全てを取り込んで一つとなるのだから、誰もが王になれる。その中で忠志だけが自分だけの目的を持っている。
オーウィルはユニガルドを溶かし尽くし、発生したエネルギーを全て吸収する。
溶け落ちたユニガルドから脱出するオーウィルの姿は、まるで昆虫が繭を破り、羽化して飛び立つようだ。光の束が翅のように尾を引いて見えるのは、エネルギー吸収現象。
今や王の後継者は忠志一人。彼は上空に浮かび上がって、一度巨大宇宙船を見上げると、東京湾にそびえるアンカーへと直進する。
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