再会 三
愛娘の反応を受けて、他の誰よりも驚いたのはお義父さんだ。
「な、なんだと……」
目の前の光景が信じられないと言わんばかり。
これに対して、娘も目を見開いて訴える。
え、なにこれ、みたいな。
彼女も自分自身が信じられないようだ。
「魔法が失敗したのではないですか? もう一度、お願いします」
「そ、そうだな、もう一度ちゃんと試してみるとしよう」
どうやらプシ子もお義父さんと同様に、マリオネット的なお約束は胸の内に秘めていたみたいだ。自分の思考が他者によって一方的に作られたもの云々。故に俺のようなロクでなしのクソ野郎に付き合っているのだと。
なので、テイクツー。
やり直しだ。
お義父さんが紫色のビームを放つ。
プシ子が痙攣する。
ビクンビクン。
ちょっとグロい感じの痙攣あざます。
今し方と同じ光景が、ニートの面前で繰り返し展開された。
前後しての輝きは、先程よりもグッと長く続けられた。
しっかりと施行できたのではなかろうか。
やがて消沈。
結果、プシ子は心身共に自由な存在となる。
「そんな、こ、こんな馬鹿なことが……」
自らの肉体を見下ろして、愛しのマリオネットは驚愕の只中へ。
語る姿は先程にも増して、深い悲しみを湛えて思われる。
どうやら何かが、本人の想定とは違うらしい。
「この心は、今感じている感情は、紛い物だとばかり信じていたのにっ……」
「だ、駄目なのか!? 何故なんだっ!」
親子揃ってこれでもかと言うほど驚いていらっしゃる。
しばらくの間、わなわなと震えていた。
ややあって、娘が大きな声で吠えた。
ニートに向かって無我夢中で吠え散らかした。
「ど、どうしてくれるんですか! プッシー三号の精神が大変なことになっていますよ!? これは間違いなく、主人が何かしたのですね!? そうですねっ!? 私の心がレイプされていますよっ!」
「し、してねぇよ! なんにもしてねぇよっ!」
「ではどうして、プッシー三号は主人を殺していないのですか!? 心身ともに自由になったプッシー三号は主人を殺して、晴れて真なる精神を手に入れるという流れではないのですか!? そんな最高にドラマティックな展開が待っているとばかりっ!」
「そりゃお前、こっちだって都合ってもんがあるだろ?」
「主人の都合なんて知りません!」
「いいから最後まで聞けよっ! 精神を解き放たれて自由になったお前が、俺と死闘して、最後はこっちの祈りが通じて真実の愛をゲット! 俺ともラブラブ仲直り! 一緒にそこのお義父さんを圧倒するっていう、最高にラブロマンスな展開がっ!」
「真実の愛? キモいので二度と口にしないで下さい」
「おぶふっ!?」
口にした瞬間、プシ子から殴られた。
左上の犬歯がいい感じにスポって抜けて飛んでいった。
あぁ、この感じ、プシ子だよ。間違いない。
「テ、テメェ……」
「見て下さい、鳥肌がこんなに立っているじゃないですか」
「地味に凹むから、鳥肌だけは止めろよな? 本当に」
「今後は鳥肌を自由に立てられるように、修練を積んでおきます」
「だから止めろってば!」
殴られはした。けれど、ニートは死ななかった。
歯が一本抜けた限りだ。
だからだろう、直後にお義父さんから声が上がった。
「まさか、こ、こんなことが……」
こちらを見つめたまま、驚愕から固まっている。
ちょっと待ってくれよ、みたいな雰囲気で我々を凝視だ。
「貴様、このマリオネットに何をした!? たしかに一連の魔法で、私は対象の封を解いた。枷は間違いなく掛かっていた。そして、これを絶対の感触と共に、全てを解放したのだ! それがどうして、なんだおい、この反応はっ!」
「いやいや、お前の未熟を責任転嫁するんじゃねぇよ」
「貴様は何をしたのだ!? この私の作品にっ!」
「だから何もしてねぇって言ってるだろ!? お前が作ったものを、お前より遥かにザコい俺がどうこうできる訳がないじゃん。何もしてないのに責め立てられて罪悪感とか、理不尽にもほどがあるだろ」
「ぐっ……」
議論は平行線。
解決の糸口は見つかりそうにないぞ。
なんて頑固なお義父さんだ。
「ま、まあいい。いずれにせよ貴様はこの場で処分してくれる」
ニートとプシ子を正面に捉えて、臨戦態勢となるお義父さん。
意地でもマリオネットを取り戻したいみたいだ。
一度はプレゼントしてみせた手前、なんて意地の悪いヤツだろう。
まるで俺みたいじゃないか。
「お、おい、プシ子。お前のパパがご立腹だぞっ!」
「そんなに私が好きなのであれば、父親くらい説き伏せて下さい」
「それはまたハードルの高いお義父さま攻略だな」
「できないのですか? だとすれば本日でお別れですね」
「いいや、任せろ。俺ならできる」
「……本気ですか?」
「当然だ。俺は愛の戦士。プシ子愛の戦士」
自らを鼓舞するように呟いて、一歩前に歩み出る。
俺ならできる。俺じゃなきゃできない。
そう、これは自身のプシ子に対する、愛の証明なのだ。
「私に勝てると思うか?」
お義父さんが問うてみせた。
もちろん、返す言葉は決まっている。
「と、当然だなっ!」
何もかもが足りていない令和男児のお義父さん攻略。
ちゃぶ台返しはクリティカルヒット。心と体を打ち砕く。学歴が、職歴が、そして何よりも給料が足りていない。昭和の時代の産物は、自らの娘を生涯養えと老後までのロードマップを求める。終身雇用は前提条件。
これに声も大きくお返事をすると、直後に先方からビームが放たれた。
前動作もなく輝きが発せられて、こちらに向かい伸びてきた。
咄嗟に飛び退くと、今まで立っていた地面に拳大の穴が空いたぞ。
「テ、テメェッ、いきなりなにすんだよっ!?」
「黙れ、これ以上は時間の無駄だ」
「どうしたらプシ子をくれるんだ? 教えろよ!」
「欲しかったら奪い取ってみるといい。自らの力でな」
「くっ……」
たまにこういう勘違いした父親っているらしいな。
ニートも社畜をしていた時分に聞いたことあるわ。同じフロアの先輩が交際相手の実家までご挨拶に伺ったところ、年収やら何やら確認された上、先方の父親に殴られて警察沙汰になったとか。
だがしかし、ニートにはお義父さんに対抗する力などない。ステータスウィンドウのおかげで、自分の性能はこの上なく客観的に測れてしまう。ズラリと並んだ数字は目の前の相手と比較して、文字通り桁が一つ二つ違っている。
名前:ワタナベ
性別:男
種族:人間2.0
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:358001/358001
MP:582000/602000
STR:12400
VIT:14200
DEX:12000
AGI: 9900
INT:19090
LUC:21540
名前:アルベルト
性別:男
種族:リッチ
レベル:680
ジョブ:ダンジョンマスター
HP:125900/125900
MP:500000/5000000
STR: 92400(+10000)
VIT: 83200(+120000)
DEX: 74920
AGI: 60900
INT:100210(+100000)
LUC: 4040
こちらの世界を訪れた当初と比較したら、かなりの成長が見られる。少なくともそこいらのモブには負ける気がしない。むしろ人類枠としては、かなり上等な部類なのではなかろうか。ニート64と人間2.0の合せ技だ。
しかし、お義父さんには遥か及ばない。
どうするよ。どうしたらいいんだよ。
ゾンビ獣耳オヤジを総動員しても勝てる気がしない。アイツら数は多いけど、全体魔法とか喰らったら一ターンで瞬殺コースだからな。きっと炎系の魔法で弱点判定、六桁ダメとか受けるタイプだ。とことんザコなんだ。
いいや、ちょっと待てよ。
リッチってアンデッド属性だったような気がする。ネトゲ的な意味で。
そう考えると、オナホ石ゲットしたスキルが使えるんじゃなかろうか。
パッシブ:
魔力効率 Lv10
魔力回復 Lv10
アクティブ:
すかしっぺ Lv10
死体操作 LvMax
死霊生成 Lv5
そうそう、このレベルがカンストしているやつだよ。
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