奴隷 四

 翌日、ニートはお供のプシ子を伴い町に繰り出した。


「朝っぱらから町に何の用ですか?」


「あのショタに着せる服を買うんだよ。いつまでも薄布越しにデカチンを見せつけられたんじゃ堪ったもんじゃねぇ。ついつい宿屋の外に放り出したくなる」


「いいじゃないですか。目の保養になります」


「ならねぇよっ!」


 このマリオネットは俺のだ。


 絶対に他のヤツにはくれてやらないんだからな。


「んで、服屋はどこだ? それっぽいのが全然見当たらねぇよ」


 中世ヨーロッパ的な世界観のおかげで、どうにも建物の外観と、その役柄とが一致しない。飯屋だと思って入ったら宿屋だったり、宿屋だと思って入ったら飯屋だったり、そんな具合だ。


 そもそも看板が少ないんだよ。


 街並みが簡素過ぎる。


 現代の日本みたいに、あちこちにチカチカと光る立て看板が立ってりゃ話は早いのに。クルクルと回ってるコンビニの看板とか、まさに画期的だろう。田舎から都会に出てきた当初は、あれが町中に見られなくて困ったもんだ。


「あちらに一軒、それらしい店舗があります」


「よし、それじゃ行くか」


 三号の案内に従い移動する。


 訪れたのは百平米程度の規模を持つ店舗だ。石作りのしっかりとした建物である。どこも似たような感じなのだが、コンクリートで作られたビルしか知らない現代日本人からすると、かなり年季が入って思える。めっちゃ歴史のある老舗に思える。


 そして店内をぐるりと一望すれば、そこには無骨な鎧やら盾やら兜やら。


「っていうか、ここ服屋じゃなくて防具屋じゃね?」


「どうやらそのようですね」


「お前はショタに何やらせるつもりだよ」


「美しい女とイイ男は、共に冒険を乗り越えて一つに結ばれるのです」


「誰が結ばせてなるものか」


 まあ、防具だろうと衣服には変わりないな。


 適当にアンダーウェア的なものを買って終わりにしよう。あんなショタの為に町を歩き回るのも腹立たしい。さっさとこの店である商品で、本日のお買い物を済ませてしまおうじゃないの。


「よし、適当に買って帰るか」


「防具を買うのですか?」


「防具の下に着るシャツみたいなのくらいあるだろ? それでいいじゃん」


「なるほど」


「シャツだけじゃなくて、肝心なのはズボンだよな。ズボンズボン……」


 オーバーサイズのズボンを穿かせて、形が浮き上がらないようにしないと。


 大切なのはヤツの股間の一物をプシ子の視界から阻むこと。


 ショタと三号がやってる光景とか目の当たりにしたら、ニートはもうこの世界から逃げ出す自信がある。間違いなく鬱になってしまう。向こう十年はどこへとも引きこもるだろう確信があるわ。


「嫉妬ですか? ペニスの小さな男は心も小さいですね」


「う、うるせぇよ! ペニスの小ささは謙虚さの表れだかんな」


「どこ情報ですか?」


「あと、元が小さい方が膨張したときにグングンと膨らむんだろ?」


「それの何が嬉しいのですか?」


「普段とのギャップが素敵じゃないか」


「言ってて悲しくなりませんか?」


「なるに決まってるわ!」


 ああもう止めだ。人様の前でペニスペニスと叫ぶもんじゃない。


 店員から嫌というほど注目を受けているぞ。


 たぶん、見た目美少女のプシ子が卑猥なことを口にしているから。


「さっさと買ってとっとと帰るぞ」


 三号を置いて店内の物色を開始する。


 お買い求めしたいのはズボンとシャツだ。鎧だの盾だの兜だのは要らない。普段着にしても問題なさそうな布切れを探して、店内を歩み始める。けれど、我々の求めている品はなかなか見当たらない。


 店内には所狭しと武具が並ぶ。大半は金属や硬そうな皮で作られた、無骨なデザインの防具である。もろバトル系だ。日常生活で着ていたら、それだけでバテてしまいそうな代物ばかり。


 そうした金属や皮の品々を素通りして、綿っぽい商品を探す。


 すると店舗の奥の方にそれらしいものを発見した。


 大きな木の箱に放り込まれた、ズボンやらシャツやらといった衣類。スーパーのバーゲンセールでよく見かけるワゴン売りのような感じ。見たところ柔らかな素材で作られており、普段着としても問題ないと思われる。


「これなら良さそうだな」


 お子様でも着用可能な品を探すべく、木の箱に手を突っ込む。


 これと前後して、ふと良いこと閃いた。


「ステータス画面があるなら、アイテム画面もあるだろ」


 物の価値を知らないショップで値打ちものを安く買い叩いて、他所の店舗やオークションで高値で転売する。これこそ理想的なテンプレ俺TUEEE展開だよ。億万長者も楽勝だ。プシ子のヒモになる必要もない。


 目の前のセールワゴンを睨み付けて、画面よ出てこいと唸る。


 アイテム画面、アイテム画面、アイテム画面。


 するとどうしたことか、出てくるじゃないかアイテム画面。




 名前:木箱

 耐久力:10

 希少性:0

 属性:なし




「ほう!」


 木箱か。まあ見たまんま木箱だし、他に言いようはないよな。


 じゃあ次は、この木箱の中に注目してみるとしよう。


 適当にシャツっぽい布きれを掴んで凝視してみる。


 出てこいアイテム画面。




 名前:旅人の服(上)

 耐久力:5

 希少性:0

 属性:なし




「なるほど、なるほど」


 旅人の服らしい。安っぽい感じが奴隷向けでグッドだ。


 よし、これはお買い求めすることにしよう。


 この調子でちょくらワゴン内を鑑定してやろうか。


 次はズボンっぽい衣類を手に取って睨む。




 名前:旅人の服(下)

 耐久力:4

 希少性:0

 属性:なし




 さっきのと大差ないな。普通のズボンっぽい。


 まあ、これもショタ向けに買うとしよう。


 更に続けて幾つか、ワゴン内のアイテムを鑑定してみる。




 名前:ぬののふく

 耐久力:2

 希少性:0

 属性:なし

 状態:破損


 名前:皮の腰巻き

 耐久力:5

 希少性:0

 属性:なし


 名前:バンダナ

 耐久力:1

 希少性:0

 属性:なし




 なんつーか、碌なもんがないな。


 ロールプレイングゲームで喩えるなら、最初の村で売ってる安っぽい防具ばっかりだ。こんなのどれだけ装備したところで、屁の足しにもならないだろ。やはり、この木箱は売れ残りやゴミ商品のワゴンで間違いない。


 そこでワゴン外の商品についても確認してみた。


 しかし、店内にある品々で値段と性能が乖離していると思しき物は、一つも見つけられなかった。どれもこれもお値段相応の防具ばかりである。こうなると転売TUEEEEは困難である。


 たしかな目利きを持った店とか、ニートは大嫌いだな。


「さて、さっさと買って帰るか」


 これ以上の長居は無意味だ。


 店員の立つカウンターに向かい踵を返す。


 その過程でふと目に付いたものがあった。


 店の隅の方で棚と棚の間に設けられた僅かな隙間スペース。そこに無造作に立てかけられた木製の棒。一見しては掃除用具か何かかと、わざわざ目を留めることもないような長物である。


 ただ、なんか気になる。


「……なんだこれ」


 歩み寄り、手に取ってみる。


 長さ一メートルほどの木の棒だ。特に刃が付いていたりすることはない。ただ、取っ手というか、柄というか、そういう感じの握りは付いていた。正直、何の役に立つのか全く分からない棒だ。


 これで殴り掛かれということだろうか。


 ひのきのぼう的なアイテムなのだろうか。


 ここは防具屋なのに。


 ということで、鑑定だ。鑑定してみよう。




 名前:死霊の杖(脚部)

 耐久力:9

 希少性:13030

 属性:闇

 状態:破損




 なんかスゲェの見つけた予感。


 超レアなアイテムっぽい。


 見た感じ完全に木の棒だけどさ。


「っていうかコレ、おいくらだよ?」


 それとなく探ってみるが、値札は見当たらない。


 売り物であるかどうかすら怪しい。


 本当にタダの木の棒である。


「いずれにせよ、これは間違いなく買いだろ」


 こうなったらショップの店員に聞いてみるとしよう。


 ショタの衣服と合わせてカウンターに運び込んだ。


「すんません、これください」


「あぁ? おい、兄ちゃん、その棒は売りもんじゃねぇぞ」


「え、違うのかよ?」


「元々は古びた杖だったんだが、武器屋の野郎と喧嘩してな、そのときにぶっ壊しちまったんだ。なんか悔しかったんで、そっちだけ勝手に持って帰ってきた」


「人んちのもの持って帰ってきちゃ駄目だろ」


「ちょっと長い棒が欲しいぞコラって思ったときに丁度いいんだよ」


「それじゃあ金払うから売ってくれ。いいだろ?」


「こんなもん買ってどうすんだ?」


「ちょっと長い棒が欲しいぞコラって気分なんだよ」


「……なんだそりゃ」


「いいからほら、さっさと売ってくれよ。カネならちゃんと払うから」


 防具屋のオヤジを急かして、強引に棒を購入。


 こうなるとショタの服はついでみたいなもんだ。


 あぁ、そういやアイツってば、靴も持ってなかったよな。


 めっちゃ面倒臭いけど、やっぱりそれも用意しなきゃならないよな。

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