出会い 三
近場の森で簡単な仕事をしていたら、想定外の強敵に襲われて大ピンチとか、この手の世界観じゃあ頻出パターンだ。ロールプレイングゲームの最初の町で、スライム系のモンスターが出現するにくらいに一般的だろ。
「オッサン、もしかして倒せたりとかしないか?」
「無茶言うなよ。死んでしまうだろ」
「……しないよな。そうだよな」
「悪かったな。弱くて」
せっかく転移したのに俺TUEEEする間もなく終わりかよ。
とりあえず、この犬のステータスを確認してみるか。
名前:ポチオ
性別:男
種族:ハウンドウルフ
レベル:35
ジョブ:ニート
HP:1800/2000
MP:0
STR:300
VIT:150
DEX:200
AGI:330
INT: 80
LUC: 45
こいつニートかよ。俺と同じじゃんか。
あとINT80って、犬の分際で俺の十倍頭良いとか、三回まわってくたばれよ。
「オッサン、に、逃げるぞっ」
「い、言われなくても逃げるってーのっ!」
金髪ロリータと頷き合う。
いっせーのーで、で走り出した。
だが、四本足は速かった。
「うぉああっ!」
二人並んで走り出した俺と金髪ロリータ。
狙われたのは後者だった。きっと犬は、こっちのが身体が小さいから、弱いと考えたのだろう。子供だからより簡単に倒せるとふんだのだろう。流石はINT80だ。天才的な頭脳じゃないか。
しかし、馬鹿め、実はそっちの方が強いんだ。俺の方が弱いんだぜ。
「うぉあああああああっ!」
仰向けに倒れた金髪ロリータ。そこへ犬がのし掛かる。
グアバァと大きく口を開いて、今にも相手の喉に噛み付かんとする。
こりゃもう無理だろう。
俺も足を止めて思わず硬直だ。
次の瞬間には血がブシャァといくだろうと。
そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
「喰らえっ、アイスアロー!」
どこからともなくイケメンっぽいボイスが響いた。
ここ数年ではイケボとか言うらしいな。
「ワォオオオオオオオン!」
犬が吠えた。
脇腹に氷柱のようなものが、数本ばかり突き刺さっているぞ。しかも、突き刺さった部位を中心として、犬の身体が凍り付いてゆく。パキパキと音を立てて、氷はゆっくりと表面を覆うように面積を増してゆく。
なんかスゲェ。
数秒の後、犬は完全な氷の彫刻となった。
ピクリとも動かない。
札幌冬の雪祭りもビックリだ。
「大丈夫かっ!?」
そうかと思えば、余所から駆け寄ってくるイケメンが一人。
金属製の鎧を着ている。手には剣を持っている。どんな男だと訪ねられたら、騎士っぽいヤツ、と答える。首から上はモナコのアンドレア王子みたいな、すっきり爽やか系イケメンだ。
「あ、あ、あぁ……」
放心状態の金髪ロリータの下へ一直線だった。
当然、俺は放置だ。
無視すんじゃねぇよ。ちゃんとこっちも構えよ。
「大丈夫か!? 怪我はないかっ!?」
「あ、あぁ、ありがとう。ありがとう、ございます……」
「それならば良かった」
ロリが頷くのに応じて、イケメン騎士はホッと胸をなで下ろす。
確かに良かった。それは俺も同感だ。
そして、ここまで話が進めば、後の流れは容易に想定された。
「おい、そこのお前っ!」
「え? あ、な、なんスか?」
「こんなところまで子供を連れてどういうつもりだっ!?」
「おうふっ……」
イケメンは金髪ロリータを危地に晒したことに対して、俺を責め立てた。グチグチと説教してきた。なんで子供を連れて森に入ったのだと。まったくもってその通り。でもそんなに怒らなくたっていいじゃん。
そして、こちらが頭を垂れている間に、イケメンは金髪ロリータと共に、森を脱出する算段を立て始めた。近くに馬を止めてあるとかなんとか。俺の可愛いヒロインは、これにコクコクと頷くばかり。
自分も連れてってくれ、そう言ってみたら、悪いな、この馬は二人乗りなんだよ、的なこと言われた。んなこと見れば分かるわ。馬に三人も乗れるかよ。お馬さん可愛そうだろ。仲良く歩いて帰ればいいじゃないの。
めっちゃ切ない気分だ。
どれくらい切ないかというと、何が好きかじゃなくて、何が嫌いかで自分を表現しろよ! って台詞を思いついて、マジ名言じゃね? ってネットで検索したら、正反対の台詞を売れ筋漫画の主人公が言ってたときと同じくらい切ないね。
流石は売れ筋漫画の主人公、その前向き具合が眩しいわ。
そんなこんなで、一人で町に帰る羽目になった。
ちくしょう、イケメンにヒロインを奪われちまった。
◇ ◆ ◇
翌日、俺は冒険者を辞めた。
辞めたとは言っても、何か手続きをした訳ではない。ただ、そういう心持ちになったということだ。せっかく手に入れた俺のヒロインを、イケメンというだけで持ち去りやがった、あのいけ好かない騎士野郎のせいだ。
まあ、金髪ロリータ当人としては、ハッピーな展開だったろうがな。
ちなみに昨晩は、冒険者ギルドの近くにあった宿に泊まった。
安いところを教えてくれと店員に言ったら、教えてくれたんだ。
宿泊費には薬草集めで手に入れた金を使った。
一応、半分はヒロインの為にとってある。
けれど、きっと不要になるだろう。
森の中で遭遇した騎士系イケメンは、顔が良ければ身なりも良かった。ヤツが俺TUEEEしたのなら、少女の病弱な母親も即日でマラソンをできるくらい元気になるはずだ。
あぁ、俺の金髪ロリータ、さらば。
「くそう、辛めのジンジャエール飲みてぇ……」
もう花でも育てるかな。ドラゴン氏もハマってたハイソな趣味だし。
そうだ、ステータス確認しとくか。せっかくのステータス機能である。
名前:ワタナベ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート
HP:9/9
MP:0
STR:3
VIT:2
DEX:6
AGI:1
INT:8
LUC:1
HPが回復してる。
そこいらのゲームと同じで、宿屋に泊まると回復する仕組みなのか。
あるいは単純に疲労が癒えたからなのか。
まあ、どっちでもいいや。考えるのも面倒だ。他のステータスが残念すぎて、見てるだけで憂鬱な気分になってくるぜ。そう言えば、あのイケメン騎士のステータスとか、確認してなかったな。見たくないからいいけど。
特に目的もなく町を歩く。
随分と賑やかだ。休日の秋葉原や渋谷くらい賑やかだ。
向かう先、出店が幾つも並んでいる。
その中の一つにダンジョン饅頭と書かれた垂れ幕を発見。
温泉饅頭の親戚みたいなもんだろう。
もちろん、お金が勿体ないので買うことはない。こういうのは高くて不味いって相場が決まってるんだよ。流石は俺、情強な判断だ。
「あー、そういやここってダンジョンあるんだよな、ダンジョン」
いいよなぁ、ダンジョン。
ダンジョン。ダンジョン。
せっかくだ、行ってみるか、ダンジョン。
ダンジョンと銘打つ饅頭が売られているくらいだし、ちょっと観光するくらいなら大丈夫だろう。やばくなったら速攻で逃げればいい。平日の日中帯、他人があくせくと働いている時間に余暇を楽しむのが、ニートにできる唯一の娯楽だ。
案内板に従い、ダンジョンに向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます