Episode FOURTY-TWO 《二人2》
走っても、走っても。その殺意というものは変わらなかった。薄れるわけもなく、その重みが一層に増されていくだけだった。
近づいている? いや、そうでもない。それならさすがに分かって当然。一体、何を為してこうなっているのかは、彼には理解できていなかった。
「クロ君‼‼ な、んでっ!」
「いいから! 奴が……」
彼がそう言った瞬間、乾いた破裂音がが耳をかすめる。
ビフイイイイイイぃイイイインン‼‼‼‼
体が止まる、いや何かの危機感が彼を襲った。
ゆっくりと、首を動かす。目線を変え、彼女を未だに持ちながら後ろを向いた先に、
————クロが立っていた。
紛れもない自分自身。
ニコニコと気味の悪い笑みを浮かべ、右手にはナイフ、左手には変形した銃の様なものがしっかりと握られていた。彼を……もはや自分だ。それを見れば見るほど激痛が頭を襲う。
「ほお、これが異世界の……」
「お、まえ……くそ」
「k、くろ、くろくんが……二人?」
彼女の動揺は止まらない。血まみれの踵は震え、瞼も不規則に上下する。心臓は激しく振動し、筋肉は麻痺を始める。呼吸すらも間に合っていなかった。
「なあ、俺は……そっちじゃあそんなもんなのか?」
「ああ、もっと残酷だったよ」
同じ起伏のない声が混じり合う。
お互いを見つめ、お互いの述べる。喉は乾き、脳が震える。
「っち、うぜえな。それに、さっきから頭が痛いんだよ?」
「こっちもだよ……」
「そうか、これが噂による同調刺激か……まったく」
「それで、そんな、のは……どうでもいいんだろ?」
「ああ、そうだぜぇ。こんな誰もいない公園に誘導したのは俺だからなあ」
「僕の頭を、どの同調ってやつで……?」
「そう、ベストだろ?」
「そうかもね、っち」
二人の会話は思ったよりは弾んでいた。むしろ独り言と言っても差し支えはない。彼は彼自身に対して、疑問を投げかける。
「そんな——なんで、二人いるの⁉」
そして、何より今回はゆりがいた。
「さて、彼に聞いてみるといいさ」
「偽物はそっちだ」
「は、なめるなよ? お前はよそ者だ、どちらかと言えば君じゃないのか、偽物は?」
「いったい何なの、分からないよ、こんなの‼」
叫ぶのも無理もない。常人には、科学の最先端に触れたことのない人間ならなおさら分かるわけがない。ドッペルゲンガーを間近で見ているようなものだった。
「だから、そこのくそったれに聞いてみなよ。そんな腕なんて掴まずにさ?」
するすると離れる右手、温かいぬくもりはいつの間にか冷たいものに変わり、表情もどんどんと恐れの色へと変わっていく。
「クロ君……これは、なに?」
「それは、言えない」
「なんで、クロ君おかしいよ!」
「……」
「なんでなんで、なんで? やっぱり知りたいよ! 何があったの⁉」
数メートル先でニヤつく彼の表情はとても愉快なもので、何より目の前の怒りの入り混じった表情はとても痛々しい。
「予想はしていた、もっちろん……確率的には低いと思っていたからな。お前が、いや俺が来ることは事前に分かっていた、それが故の作戦だって考えていた。それでこそ、俺ら暗殺者だろ?」
「黙れ」
「あんさつしゃ?」
「ああ、そうさ。俺たちは人殺しさ」
「違う」
その言葉に反応した偽物はこう告げる。
「おい、今なんて言った? 違うだって? ふざけるな、こっちに来ている理由など何となく分かっている。やったんだろ? その汚い手で、ゆりを引き裂いたんだろう?」
「黙れ」
「え?」
混沌と焦燥。
「とにかく、こっちのカードはそろってるんだ。いい加減帰ってくれないかな?」
「?」
「かしげても変わらないぞ、事実は。君がやったんだろ? それにな、自分を殺すのはなかなかできないしな、個人的にもやりたくない」
「救うんだ」
「ほお、面白いけどね、でも君はよそ者だ」
「なにがだ、お前は僕で、僕はお前だ。それに、間違えを犯していない」
「なあ、自分でも気付いているんじゃないのか、本質を?」
「もう、いい加減にしてよ‼‼」
彼女は怒鳴った。
やまびこのように響く声に、公園の木々は揺れる。
「そうだね、さきにやっとかないとね」
「っ⁉」
ゆりを身の後ろ隠れさせる。そして、近づいてゆく自分。
——ここから先は、互角の戦い。
フュンッ‼‼
なんだ、今のは?
「ゆり‼」
後ろを向けば彼女はいない、目線を下げて見えたものは再度の絶望だった。
「y、ゆ、ゆり! おい、ちょっと! ま、て‼‼」
「馬鹿かよ、さっき言ったろ『予想はついていた』ってなぁ」
「ゆ、り……あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼」
「クソだなあ、いい加減やめちまえよ、死ねよ」
「っ‼‼」
涙を流し、彼女を抱きかかえたクロに広がった絶望、一度きりの旅が終わる。あっけない時間の旅が幕を閉じる瞬間。すぐさま広がった周りの景色に彼は飲まれていた。
気づくのが遅かった。
途端に銃声が聞こえる。
同時に伴う痛みに埋もれ、埋もれ、埋もれ、視界がぼやけていく。最後の彼女の顔すらも拝めず、無残に消えていく意識。結局は悪足搔き。
何も変わらない人生に幕を閉じ——。
<あとがき>
遅れてすみません!
まさかの自分、なぜかは最初に出題した題名にありますね!!!!
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