第12話 七歳になりました

 さて。

 母さんに、戦闘訓練の強制参加を取り下げさせてから早二年。

 俺はすくすくと成長し、七歳になった。

 とは言っても、何か変わったことはない。あるとすれば、周囲からの風評が変わったくらいだ。

 二年前にあったあの戦いの後、俺は「エインフェルトの神童」などと呼ばれるようになったのだ。

 聞いた話によると、この戦いの決着は、あの後すぐに別の公爵家に流れたらしい。

 曰く、これまでエインフェルトの兄妹の中で最も強いと言われていたクレオ兄さんを打ち負かしたことで、公爵の座の継嗣が変わるのではないかと、一時期騒がれたらしい。

 無論、俺としては絶対に受け継ぎたくはない。前世から続いて事務仕事なんて絶対にやりたくなかった。

 そしてその意向を父さんに伝えると、この話題は一旦の収束を見せる。父さんが、別の公爵家の人達に広めたに違いない。

 だが次に話題になったのは、その戦闘技術の高さだ。

 俺や兄さんを含む、いわゆる「次世代」と呼ばれる世代において、唐突なブラックホースが現れたと、界隈は騒然とした。

 何しろ五歳にしてその勝利をもぎ取っているのだ。将来有望ながら、それは一角の問題も抱えていた。


 それは、公爵家同士の力量関係の崩壊だ。


 一つの公爵家に、ずば抜けた天才児(自分で言うのもなんだが)が現れたとなると、公爵家が保有する武力に差ができてしまう。

 四つの公爵家が東西南北に分かれて国土を統治しているこの国において、これは大きな問題の火種となりかねなかった。

 だがこれも、少しして収束した。まだ俺が台頭するほどの年齢ではなかったので、今話すべき内容ではないと結論付けられたのだ。

 再び話が盛り上がるとすれば、それは三年後の対面式の時だろう。同年齢の家族の子息が一度に集まるこの時に、話は進むだろうと予測されている。

 現状は、悪い方向に、と結論付けられてはいるが。

 とはいえ、いくつかの問題の火種を生み出す結果になったが、後は何事もなく落ち着いた。


 家庭内からの反応で変わったことといえば、まず、兄さんが俺に対して丁寧な口調になった。まるで父さんの相手をしている時とそっくり。

 兄さん曰く、「対等か、それ以上の存在として接している」とのこと。

 個人的には、何か冷たく厚い壁ができたような感覚だが、依然として兄弟として振る舞ってくれるので、現状何か困っているわけではない。


 もう一つ、父さんからの反応がガラッと変わった。

 これまでは事務的というか、必要最低限の会話くらいしかしていなかった。

 だが最近は、世間話で盛り上がったりする間柄だ。最近では一緒に風呂に入ったこともある。

 メイドの制服で議論しあったのもいい思い出だ。ちなみにその場は、母さんの降臨によって有耶無耶となり、メイド服の再調は、目下最優先事項として日々議論が展開されている。メイド服への情熱は二人とも決して劣らず、この話題においては良き同胞ともとして接している。

 詰まるところ、俺の評価は鰻登りとなったのだ。


 周囲の話はこれくらいにして、ここからは俺の話に移る。

 俺は二年前の宣言通り、のんびりと魔法の研究を始めていた。

 既に図書室の本はあらかた読み切り、俺は次の作業に移っている。


 つまり、魔法の習得だ。


 厳密には「魔法式の収集」である。だが使える魔法を増やすことも同時進行で行っており、既に数十個の魔法を会得している。

 そして俺が何をしているのかというと、簡単に言えばまず資料集めだ。

 この屋敷の図書室には、多くの教本の他に魔導書なども収蔵されている。

 それに気付いたのは、本を読んで勉強を始めた時。つまり二年ほど前のこと。

 多くの知識を得た今、俺は魔法の研究のために、まず既存の魔法の知識を得るところから始めているのだ。

 俺は多くの魔導書を読み漁り、書かれていることを書き取っていった。

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