闇の底
「ダメ!」
セヴィーリャが海に落ちたとき、もう何をしても間に合わないのはわかった。
着いた頃には、部隊は壊滅状態だろう。それでいて、出来ることなどセヴの死体を回収することくらいだ。
魔王陛下にお伝えするべきだろうかと、迷う。
何もしなくていいといわれていたのに、気になって監視だけは付けていた。彼女が先代魔王陛下の奪還を果たせたら、そのときは救出部隊を出してもらうくらいのことは出来るだろうと思っていたのだ。
それももう、叶わぬ夢だ。
「イグノちゃーん」
タイミングが良すぎる魔珠からの声に、私はビクリと身を震わす。
「は、はひぃ!」
「どしたの、声が変よ」
「なな、何でもありません問題ないです。魔王陛下なにか問題でも?」
「営業終了後の定時連絡よ。
「了解です。城の倉庫から積み出して、すぐに戻します」
「朝までに来てくれたらいいわ。街道なら自動運転で問題なさそうだし」
最近は防衛や農業だけでなく倉庫番や食材加工など専用機能を持った
問題は……
「パット」
「なにー?」
「
「あさには、
「ヒルセンは」
「もう、できてるー」
「……わかった、ありがと」
わたしは定位置である製図台から立ち上がり、工廠の奥にある隠し扉を開く。壁と同色に偽装されたそれは防音防呪の多重障壁で、通過すると耳が気圧変化でキュッと鳴った。
そのまま薄暗い通路を進むと、地下に続く吹き抜けの螺旋階段に出る。地下に明かりが見える。階段を下りてゆくにつれて、激しい衝撃音や破砕音が響いてくる。このまま順調にいけば、問題が起きる前に切り抜けられると思っていたのだけれど。
パットの分身が階段の天井に留まっていた。
「ねえ、いぐのー、まだ、まおーに、ないしょ?」
「完成したら、私からお伝えするわ」
「ふーん……?」
逆さにぶら下がった彼は、
ハーン陛下、ごめんなさい。
私はきっと、何度でもあなたを裏切る。あなたの期待を、あなたの希望を、あなたの理想や、美意識を。
それが、あなたの未来を守る最善の方法だと信じて。
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