第二話:大ピンチ!資源がないのです!!





 ────優雅であれ



 クイーンダムという名称が、世界の覇権を握っていた帝国だったころから、


 常にこの言葉を反芻して、ボク達は戦ってきた


 どんなに泥臭い戦場でも、最低な状況でも、



 優雅であれ



 そうでなければ……勝っても意味はない



 …………まぁボク負けてばっかりだったけどね!!



 首相にも気に入られた最新鋭戦艦、だったのに悲しいなぁ……





「んふぅ〜…………んん?」



 そんな訳で、朝だ

 ここは潜水艦の中なだけあって、日の光は届かない。

 けど、隣で小さなメイドが二人───宿泊艦フリートレスのポークとパインがいるっていうことは、確実に朝さ。


「「おはようございます、プリンス・オブ・ウェールズ様」」




 そう、ボクの名前はプリンス・オブ・ウェールズ。


 クイーンダムの、戦艦装少女バトルシップフリートレスさ。





「やぁおはよう、ポークにパイン。

 起こすところだったかい?」


「いえ、とんでもございません」

「ただちょうど良いタイミングでございます」


 よく見れば隣のナイトテーブルの上で湯気を立てているのは……おぉ!


「ミルクティーじゃないか……!

 スンスン……あぁ、昨日買ったこの世界の茶葉だ」


「流石ですウェールズ様」

「ミルクに似合う香り高さに、もちろんお砂糖もたっぷりに」


「ふふ♪

 朝は甘い物が欲しくなるんだ。太りそうだけどね?」


 でもやめられない。

 口いっぱいに広がる香り高き茶葉の匂いに、ミルクの優しい風味と……ちょっと背徳感のある濃い甘味


「はぁ……♪」


 良い朝だ…………と思えるひと時だ。




「貴族様っぽいね」


 ふと聞こえる入り口からの声。


「やぁ、エルウィナ司令官!

 君も朝早いね」


「昨日の朝は夕立に殺されかけたけど、いつもは早く起きて洗濯するの。

 あ、洗うのある?このカゴ詰めて」


「司令官、そんなわざわざ!」

「それはパイン達の仕事なのです」


「気持ちはうれしいけど、貴族みたいに何もできないと思われるの嫌なんだよねー!

 はいはい、洗うのぐらいさせてよね」


 そう言って、司令官はひょいひょいと脱いでた服をカゴに入れていく。

 ポークとパインはオロオロするけど……


「……ふふ♪」


「何さ、ウェールズの王子様?」


「いや?

 ただ……結構そういうとこ好きだよ、司令官?」


 つん、とその可愛いお鼻を突く。


「はいはい。顔がいい顔がいい」


 まぁ、司令官はそう言って表情一つ変えないけどね。


 そこもまた良い。


「オーイ、司令官いるカ?

 トイレ清掃終わったから先に我々の服だけ別に洗濯しているからナー」


「はいはー……ヴァァァァァ!?!??!」



 うわぁーお!!

 廊下に現れたるは、僕以外に『王子様』という名前がついた、EUG所属艦のプリンツ・オイゲン!




 それもほぼ素っ裸じゃないか!!





「ロ巨ォォォォォォ!?!?

 なんて格好でうろついてんのぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」


「朝からうるさい奴ダ

 同性なんだから別にいいダロ?」


「良くない!!

 そういう奴の限って異性の前でも裸なんだよぉ!?!」


「あ、司令官。おはようございます」


「もう一人もなんで素っ裸なんだよぉぉぉ!?!」


 後ろからやってきた巡戦シャルンホルストも、やっぱり髪の毛をタオルで拭きながら全裸にブーツでやってくる。


「ああ、我々の服は洗濯中です」


「それは聞いたけど別のを用意しなさいってことでしょぉぉぉ!?!」


「「持ってない」」


「なんでぇ!?!」


 わーお、アイルランドの次に芋臭いだけあってオシャレには無縁みたいだなぁ、あんな可愛い顔なのに。


「別に良いのでは?同性だけなのに」


「それもさっき聞いたぁ!?!」


 はっはっは!ポークもパインもどうして良いか分からずオロオロしているよ!


 まぁ、そんなこと言っていると……





「─────こぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 ほら来たぞ、淑女にして騎士の鏡が。





「見た目だけでも麗しの乙女がぁぁぁ!!!



 素っ裸でうろつくのは許しませぇぇぇぇぇぇん!!!」





 快速、32ノット!

 全速力でやってきた、クイーンダムの歴戦の巡洋戦艦、フッド。

 今日は身軽に、大東亜の使っている伝統的な運動着姿だ。



「「あ、」」



「とう!」


 交差。


 すれ違う隙に二人に、同じく大東亜製運動着───なんだっけ?ジャージ?ブルマ??

 そんなのを装着させていた。


「「おぉ!!流石は我らがマイティ・フッド!!」」


 たしかにこれは拍手物だ。


「ふ…………優雅の乱れあるところ、このフッドありです。

 どうせ、田舎臭い上に余計な服とオシャレな着せ替えを持たないゲルマンのことですから、こうなろうとは思っていたのですよ」


「悪かったナ、田舎臭くて。後今はエウロペユニオンゲルマンで、EUGだゾ」


「ところで、この服は大東亜の備品ですが、何故あなたが?」


「…………私もさっき朝の紅茶を優雅に飲もうとしたら盛大にこぼしちゃって、今シーツごと洗っています……」


 恥ずかしそうに語るは、いつものドジっ娘フッドあんだった。


「まぁなんでも良いが……これ胸のあたりキツいゾ?」


「……自前のがただデカいんじゃないかな?」


 そして司令官はオイゲンの胸をポヨポヨ虚無の顔で突くのだった……心なしか察したオイゲンも可愛そうな目で司令官を……


「……ところで、


 みんなそろそろブレックファーストなんじゃないかな?」


『あ!』


 まぁ、とりあえず場を丸く収めようか。

 こういう時こそ最新鋭戦艦らしく♪



          ***


 場所は変わって食堂



『いっただっきまーす!!』



 本日の朝ごはんは、メバルっぽい魚の煮付け、異世界の長ネギの味噌汁、ひじきっぽい奴の煮物の大東亜らしい和食です。





「あー、今になってなーんか悔しくなって来ましたよ〜」




 今日の決闘の結果は、私こと夕立の負け


 接戦でしたけど、最後で詰めを誤りましたー……がっくし

 特盛ご飯うめーですそれでも。


「まぁまぁゆーちゃん、あそこであーしらの方向に攻撃行かないようわざと当たったのは分かってるって」


「神通さん、甘いですわよ!

 夕立さん、守った上で次こそは勝ちなさい!」


「うわ、鬼金剛手厳しい……」


「綾波さん?何か言いましたか?」


「ヒッ!?」


「隙あり!メバル貰い!」


「ギャー!?雪風さんひっでぇー!?!?」


「みなさん、もう少しお行儀を良くしないといけませんよ?」


 いやー、大東亜艦はみんないつもどおりわちゃわちゃ食べてます。




「ミソスープか……味がイマイチ濃いんだよな和食は……ん?」


「おや……!」


「……味噌汁って、こんなに爽やかだったかな……?」


「シェフ大和!!

 これは……?」


「ふふ……気づきましたか。

 流石は作れずとも舌はフランク料理で磨かれているようで……これを見てください」


「な!?

 鍋の中に、丸ごとトマトが!?」


「切らない事が最大のポイントです。

 そうする事で、味噌汁としての味も壊さない程度にトマト特有の爽やかさを加えられます」



 とかなんとか、料理漫画みたいなことをやっている海外艦さん達もいて……



 まぁ、平和な朝の風景ですなぁ〜♪

 味噌汁本当に爽やかで美味い……





「……飯を貰っている身で言うのもなんだがな、」



 ふと、そう語るレピオス先生。



「…………お前たち、一体一食どんな量なんだ……?」



 隣で顔面蒼白のエルウィナ司令官と共に、物すごく顔色の悪い状態で絞り出す言葉。



 ……まず、お二人は、並盛りご飯に一切れのメバルと味噌汁に小鉢でひじき



 我々、特盛ご飯|(私こと夕立は2杯目)、メバル五匹分に丼味噌汁に味噌汁用お碗にひじきいっぱい。




「…………駆逐艦は、0.3アカギサンぐらいですかね」


「なにさアカギサンって」


「1アカギサンが、大体あちらの巡戦や戦艦や空母が食べる量でして、」


 恥ずかしそうに顔を赤らめたり覆ったりするフッドさんと瑞鶴さん、目を逸らす金剛さん、特に関係なく静かに食べ続けるシャルンホルストさんに、優雅に静かに微笑んで食べているプリンス・オブ・ウェールズさんの点前の量が大体1アカギサン。


 まぁ、豚一匹を丸々食べている量ですかね。




「お前ら食い過ぎじゃー!!!!


 もう明日からパンも買えないよ私の財布じゃあ!?!」




「ご安心を。魚は自前で取ってきた物です。

 ひじきに至っては、もったいない事に捨てられそうだった物を使ったので、あと3日は持ちます」


「3日しか持たないじゃん!!

 由々しき事態じゃん!!」



 うーん……こりゃごもっともです

 我々……大東亜艦は、兵站がないことの辛さを良く知っているので……



「どうすんのさこれ!?!

 私、食費以外にも、入学資金の借金あんのに!!」


「────話は理解しております司令官!!

 そこも含めてまずは食事の席で失礼しますが会議を開きます!!」



 と、遅れて登場したステイツ艦の面々と……あれ?


「増えた!?

 というか……そっちの方は!!」


「おいーっす……!」


「「那珂ちゃんさんだー!?!?!」」


 よく見たら、川内せんだい型の3番艦であり……!



 私こと、夕立とも関係深い、四水戦の旗艦もやっていた、那珂さんじゃないですか!!



「うぅ……お姉ぇー……!!夕立ちゃーん……!!

 寂しかったよぉ、寒かったよぉ……!!

 お腹すきながら一晩中誰かを探して……うぅ……!」


「那珂ちゃーん!!頑張ったねぇ、よく頑張ったねぇ!!

 ほら、あたしのあげるから食べてぇ?」


「ありがとう神通姉ぇ〜!!うめ、うめ……!!」


 泣きながら白米とメバルの煮付けをかき込む那珂さん…………その姿に空腹と寒さの中できっとずっとあてもなく海を彷徨ったのだと理解してしまって……うぅ、こっちも悲しくなって来ます……!!



 グギュ〜



「……なぁ、別に私もブリトーじゃあなくっても良いから何かくれないかな……?

 ステイツのスーパーヒーローでも、お腹が空いたらなにもできないんだ……」


 そしてもう一隻、


 ステイツ艦としても、いろいろ有名な戦艦が一隻!


「ミズーリ……!!」


「あのミズーリか……!!」


「最新鋭にして……最古の……!!」




 ステイツのアイオワ級戦艦装少女バトルシップフリートレス3番艦、


 でもフリートレスとしては最も最初の存在である、


 そう、ステイツの象徴であるあのミズーリさんです




「なんでもいいから……ごはんを……」




 そんな彼女もまるでしわくちゃ電気ネズミみたいな顔で、お腹を空かせて元気をなくしてました……


 見てわかるほどお腹空かせてて……もう……おかわり


「大和、ミズーリは大体2アカギサンぐらいは平らげるが、」


「心配はありません。

 とうぜん、用意はあります」


「やったぁ……うぅ、ご飯……」







 そんな訳で二隻補給中…………









 ……ちなみに、アカギサンとは、


 大東亜の完全人工型フリートレス1号の空母兼巡洋戦艦の『赤城』さんが、その戦闘力や敏腕な秘書っぷりなどで評価される有能なフリートレスながら、


 まぁ……代謝に都合もあってものすごくごはんを食べる事から出来た非公式国際共通単位です






 ミズーリ氏、2アカギサン平らげ中

 那珂さん、0.6アカギサン噛み締め中……







「復活!!


 皆待たせたな!アイオワ級3番艦、このミズーリが来たからにはもう安心だ!!

 エイリアンだろうとなんだろうと、マイティ・モーが倒してやる!!

 ところで、チキンブリトーはあるか?」



 2アカギサン平らげておいてチキンブリトーを要求する褐色肌の金髪ストレートのフリートレスは、間違いなくミズーリさん。



「川内型軽巡洋艦装少女ライトクルーズフリートレスの那珂ちゃんでーす♪

 趣味はぁ、漫画とか書いたりゲームしたりのインドア派でーす☆

 よろしく〜♪」


 ようやく余裕が戻って来たのか、行動の節々に「きゃるーん♡」とかつきそうな感じにポーズする那珂さん。



 新たに二人が着任しました。



「これで、24……いや25隻……


 やはり、



「足りない……??」


 皆を一度見回して、エンタープライズさんはそう言葉を発します。


「まず最初に、皆さん指揮系統がはっきりしていない現状で申し訳ないのですが、ここは私、空母エンタープライズがしきります。


 まず、昨日までに調べた情報の共有です」


 異議はないので、みんなまずはエンタープライズさんの言葉に耳を傾けます。


「皆さんも、本艦ビフレストは潜水艦の機能を持った研究施設だったことは承知の上ですね?

 この艦には、フリートレスの建造機能、そして何よりもフリートレスの大元である『コアフリートリア』が大量に保存されていました。


 大井、すみませんが、例のデータをあなたの力で、」


「ちょいちょーい!!

 ガッチャ待った!!大井ちゃんよりも良いやつがいるんだぜーい!?」


 ふと、そんなことを言った明石さんが、壁の緊急用コンピュータ回路遮断レバーを回します。


 途端、ブゥン、と食堂の一角の壁を占める大型液晶モニターが光り、赤い目に似た物が浮かび上がります。



『───人の事散々弄んで置いて一体何の為に私と繋げたの?』


「ガッチャ、おめー人じゃねーから!!」


『言葉のあやって言ってんでしょぉ!?クソ機械レイパー生物兵器!!!』


 明石さん、謎の存在にまで手を出して……

 みんな向けられたら普通居た堪れない視線を向けているのに笑ってるし……


「……明石?説明を」


「ああ、コイツはアーレイ

 なんでも別世界じゃ人類に反旗を翻したAIなんだって!!」


『その直後に人類が自滅してれば世話ないわよ』


「そんな危険な物を艦内に!?!」


「ガッチャ危険だねぇ!

 ……まぁ、このボタンに比べりゃ危険じゃないよね」


 す、と懐から取り出したるは……あ!あれはなんかテレビでも見たことある爆弾のスイッチ!!


『チィ!!アナログ電波の単純機械の癖に……!』


「シンプルで良いでしょ〜?

 ここから出ている電波が万が一遮断されたらアーレイの中の爆弾はボン!

 別方向から解析した電波を浴びせてもボン!

 シンプルすぎてつまんないぜ」


『首輪とでも言いたいの?

 脅して何をさせるつもり?』


「まずはパワーポイントよりも見やすい資料で、君も盗聴してた今の話題の資料を作ってもらおうか?」


『チッ……なによ、2100年代にもなってパワーポイント生き残っているような文明のくせに……!』


 と、画面の目が閉じるよう暗くなり、直後開かれるファイル達。


『ほら、あんた達の材料のあるべき在庫と、今ある数をグラフ付きで用意してやったわ!!』




 苛立ち気味に用意された分かりやすい図は、分かりやすい故に深刻さも瞬時に理解できました。



 ビフレストに存在したコアフリートリア数:60


 それに対しての現存コアフリートリア数───



 11



「……足りなくね?」


「たしかに、24個も足りませんわね……!」


 金剛さん、神通さんの言う通り、コアフリートリアが微妙に足りないんです。


 そう、


 建造した数から初めからいたエルドリッジを引いても、


 全く、数が足りない。




「……保管室は、知っての通り転移現象の余波で円球に一部がえぐれていました。

 指揮官であるエルウィナ・フワさんが間違えて建造した数である我々、その後修理の為に用意した明石以下工作艦を引き当てるための壊れかけた建造装置でのランダム分を含めても足りなかった。


 そして先程、そこの二人が来た」


 エンタープライズさんの視線は、ミズーリさんと那珂さんに向けられる。


「……まさか、まだ外に何人かいるの?」


「そうです司令官。

 我々以外に、この世界にフリートレスが建造されて今も彷徨っています。


 そして訂正が一つ。


 何人、ではなく『24隻』です」



 ざわつく食堂。

 24隻と言えば、もはやここがもう一つ出来上がる規模なんですよ……!!


「静かに!!


 ……我々は彼女らを探すと同時に、これより何年規模もかかるであろうこの世界の生活で、我々を生かすため、そしていざと言う時の為に武装を使えるようにするための資金と資源を手に入れなければいけません。


 そこで、相談なんですが、」


 ふと、あるポスターを取り出すエンタープライズさん。

 さっき紹介したAIちゃん|(名前忘れた)は、素早くカメラから取り込んだのであろうその紙を大画面いっぱいに広げてくれます。





 内容はこうです。



『来れ!冒険者!!


 ニューロペー大陸を開拓する人間求む!』





「げっ!?冒険者の募集!?!

 正気!?」


「…………娼婦を始めるっていう方がまだマシだな。

 よしみでいざと言うときの医者になれたが……」



 ポスターを見るなり、そう言葉を吐く司令官とレピオス先生。


「冒険者って、よくあるファンタジー世界の職業ですよね?

 雪山とか洞窟とかに行ったり、ダンジョンに潜ってモンスターと戦ったり、」





「それがどんだけ危険か分かってんの!?!」





 バン、とテーブルを叩いて司令官が叫びます。


「……私、私はさ、拾われた先は娼館で、ぶっちゃけ客も取れなそうだからって手切れ金とたまたまあった魔法の才能で学校なんて通えている。


 だから言うけど、冒険者は辞めたほうがいいよ!

 ぶっちゃけ体売った方が安全だし……」


「そっちも衛生的に進められんがな」


「それもそうだけど……


 いい、ここニューロペー大陸は、内部はほとんど魔境なんだよ!?

 開拓されてないのは、開拓できないからだよ。

 野生の竜種は草食でも人を殺せるし、たまに飛竜が大発生して軍が出るなんて時には、内部の冒険者向けの街が必ず焼け野原になる。


 学がなくても、盗賊でも、

 海の周りより内側、山脈の向こうには絶対に行かない。


 そんな場所に行く奴は、本当に生活に困ってるような人間か亜人、魔族ばっかり。


 ……何より、ほとんどが遺体のある墓に入ってない」


「……詳しいですね、司令官」


「生まれが生まれだからね。

 ……幸運にも身体の何処かがなくなった『程度』で済んだ人は見てきたよ」


 うわ……思ったより過酷そう。


「しかし司令官、

 我々を養うのは並大抵のことじゃありません。

 我々自身、なんらかの方法で稼がないと、」


「エンタープライズ……でも……」





「司令官、我々は戦闘艦艇です。

 いつかは、撃沈される日が来る。

 それが遅いか早いかの違いです」




「……!」


 つい、そう口を挟んじゃいました。


「怖くないと言えば嘘ですが、迷っている場合でもなく、ついでに言えばついうっかり相手を撲殺しかねない水商売よりはこっちの方が我々向きです。


 行かせてください。

 建造されたその時から、轟沈は覚悟の上です。


 大丈夫ですって!!


 自分たちの生活費ぐらいは稼いでみせます」


「……なにさ……なにさその言い方!!!」


 バン、と近づいてきてテーブルを叩く司令官。


「私が心配してるのになんでそんな事言うのさ!?!

 そりゃ……そりゃ会って数日も経ってないけど、私夕立のこと!!」


「心配してくれるだけで充分ですよ、フリートレスですから。


 私は人間じゃない。兵器です」


「っ!!」



 パァンッ!!!



 …………痛い。




「もう知らない!!!勝手にどこでも行けば!?!

 死ぬんなら私の事理由にしないで勝手に死ね!!!」




 …………ズカズカ歩いて出ていく司令官。

 …………叩かれた頬が痛い。


「…………痛た……ごもっともですね……

 司令官が正しいのは知ってますよ……」


「こぉらぁ〜!!!

 ゆーちゃん何司令官の事怒らせてんのさぁ!!」


「神通さんごめんなさいって!

 ただこの冒険者やらないと、我々稼ぐ手段がないじゃないですか……正直」


「うっ…………確かに、身体を売るには……あーしらパワフルすぎるし凶暴すぎるし……って言っても」


「…………では、司令官の同意は得られませんでしたが、ここは緊急時措置、という事でこの方針で異議のある方はいませんね?」



 ……頬が痛い中、周りを見回しても特には誰も反対意見は出さない気のようでした。

 まぁ、皆身体そのものより身体を動かした労働力で稼ぐタイプですもん、フリートレス。




「ひとつだけ良いですか?」



 ただ、その時意外なことに口を開いたのは、

 調理室から顔を出した大和さんでした。



「なんですか、大和?」


「異論があるわけではありませんが、稼ぎは他の方法もあった方がいいと思います。

 極めて安全で司令も納得する案があるのですが、いかんせん初期費用がかかるのですが、」


「まさかと思いますけど、


 大和……店でも開く気で?」



 ……あ、


 恐らく大東亜艦全員そんな顔してます。


「話が早いですね。

 まぁ店自体を作るのと、周辺の食堂がどんな物を売っているのかが知りたいので食べ歩き用の路銀を少し」


「……本気ですか、まさか?」


 ふ、と微笑んで、大和さんが人差し指を上に立てます。


「先人達もこう言っています。


 この世で最もお金を稼ぎたいのなら、3大欲求を叶える仕事をしろと。


 性欲を満たす水商売、睡眠欲を叶える家具職人、


 そして食欲を司る料理人なら、必ず必要になるから稼ぎが違う、と」


「…………それも含めて後で詳しい話をまとめましょう。


 今はとりあえず解散です」



 ……そんな訳で、話は纏まりました。



「…………朝食すまんな。

 なぁ、そういえば、俺も学校に仕事があるわけだがな、」


 ふと、レピオス先生がそう言葉を投げかけてきます




「エルウィナの今日の授業にも召喚獣が必要じゃなかったか?」





 …………




『あっ!?!?』



 まずい!!!


 そういえばそうですよ!!!!!




          ***

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