第6話 夢の中Ⅰ
ここ、どこ?
目が覚めると真っ暗闇。前も後ろも上も下も暗くて見えない。
というか、これ……こないだの夢と一緒だ。ということはこれも夢? ええっと、どういうことなの? 確か私、グレンズ先生と話してて……そしたら急に身体に力が入らなくなったんだよね?
その後どうなったんだっけ?
なんだか変な感じ。これ、どうやって目覚めればいいんだろう。
そんなことを考えているうちに、だんだん目が慣れてきた。そしたら急に、またこの前の足音のような音が聞こえた。
タン、タン、タン。
やっぱり誰かいる。夢だって分かっていても不気味だし、怖い。
『あの、誰なんですか?』
声を出すと、
私はとりあえず、歩いてみることにした。まるで暗い洞窟の中みたいだ。
そんなことを思っていると、突然目の前がぼんやりと光った。そして人影が現れた。
えっ……?
『殿下⁉︎』
な……何故ここに殿下がいるの?
光の先には、王族の正装に身を包んだ殿下の姿があった。だけどなんだか様子が変。雰囲気がいつもの殿下と全然違う。まず表情がない。いつもそんなに表情豊かってわけじゃないけど、この殿下は明らかに私の知ってる殿下とは別人に見える。まるで人形みたい。顔色もよくないし、目の下には薄らと隈がある。それに私の声に全く反応しないし、目線も合わない。
すると殿下がこちらの方向に向かって歩いてきた。な、なんなのこれ。夢……なんだよね?
『あ、あの殿下? これってどういう……』
ついに殿下が目の前を通る時、私はどうしたらいいか分からなくて声をかけた。
だけど殿下はまるで私が見えていないように、そのまま隣を素通りしていった。
聞こえてないのかな。
『ディアナ・ベルナール、顔を上げなさい』
その声に驚いて、私は振り返った。この声はさっきの殿下だ。
『はっはい! 何でしょう、殿下!』
『……なぜランドルフ様がここに?』
盛大に誰かの声と被ってしまった。さっきの殿下は少し離れたところで、その誰かに話しかけていた。真っ暗闇の空間で、そこだけが光ってる。でもここからじゃ少し遠くて、相手の顔が見えない。殿下はこちらには背を向けたまま、もう一人の人物と向かい合ってる。
誰と話しているの……? き、気になる。ただの夢にしては、妙にリアルで不穏だ。
なんだか殿下の雰囲気も怖いし。分からないことだらけだ。
私は殿下ともう一人の人物がいる光の方向へ行ってみることにした。近付くにつれて、光が眩しくなる。私はなんとか目を開けて、もう一人の人物を見た。私はその瞬間、驚いて硬直してしまった。
……私だ。
そこにいたのは、もう一人の私だった。だけど、これまた雰囲気が違う。いつもより、キリッとしてるっていうか……私じゃないみたい。そして服は灰色の粗末なものを着ていて、まるで囚人みたいだ。いくら夢でも違和感がありすぎる。
それに殿下が話しているのに、もう一人の私は地面に座ったままだ。どういう状況なの。
そしてどうやら、二人には私のことが見えてないみたい。まぁ、これは夢だからそういうものなのかもしれない。とりあえず私は、二人の会話に耳を澄ませた。
『……こんなものは必要ありません。一体どういうつもりですか?』
うわっ、態度悪いな。
今起こっている事を説明すると、まず殿下が何か紙みたいなものをもう一人の私に渡した。だけど、もう一人の私はそれを見るなりその紙を地面に投げつけた。そして吐き捨てるような口調で、さっきの言葉を言った。
『今日の裁判で、君はこの通り証言するんだ。そうすれば君は死罪を免れることができる』
殿下は、もう一人の私の態度なんて気にした様子もなくそう言った。裁判とか死罪って……何のこと?
もしかして、これは断罪後の私と殿下? ゲームでは、ディアナは捕らえられて、その後に裁判にかけられた。そして最後は死刑になったんだった。
これは予言か何かなの?
『……私は反王制派の荒くれ者達と行動を共にした上に、貴方の最愛の人までも殺そうとしたのですよ。何故庇うのです?』
『庇うのではない。君がジュリアを危険に晒したことを私は許していない。だが、君は結局何もできなかった。いや、やらなかったのか』
『違うわ。本当に殺すつもりだった。いつも邪魔が入ってできなかっただけよ』
『君がなんと言おうが、もうこちらで調べはついている。しかし今の状況では真実が何であっても、私は君を罰さなければならない』
『ならそうしてください。覚悟はとっくに出来ていますから!』
『君は利用されたんだ。自分でも分かっているだろう』
な、ななな何を見させられてるの?
二人とも凄い剣幕だ。
『笑わせないで! 私は利用されたのではないわ。自ら望んだの。私はジュリアが目障りだったし、
『いや、君は
『いいえ、違います。私はあの人の役に立ちたかった。私は彼を裏切れない。だから貴方の情けも受けないわ!』
ちょ、ちょ、ちょっとー! 何言っちゃってるのよ私! なんだかよく分からないけど、せっかく殿下が死刑をとめてくれるかもしれないのに余計なこと言うんじゃないよ。
というか……あの男って誰? 利用されたってどういうことなんだろう。
『私は何の感情もなく君を処刑できるほど優秀な人間ではないんだ』
『そうだったわね。……貴方は優しすぎるもの。私は貴方のそういう所が昔から大嫌いだった』
しん、とその場が静まった。
二人の間に重い沈黙が続いた。
だけど、私には分かった。殿下も私も、いつもと様子が違うもの。まるで涙が出る一歩手前のところで精一杯強がってるみたいだ。
胸の奥がキュッと苦しくなる。
……これが私の未来?
「違うなぁ、それは」
聞き覚えのある声とともに、突然後ろから肩を掴まれた。すると、さっきまで目の前にいたはずの殿下とディアナの姿は綺麗に消えて、ただの真っ暗な空間に戻った。
今、私の肩を掴んでるのは大きな手。たぶん男の人だ。ずっしりと重くて、身動きがとれない。聞き覚えのある声はまだ続いていた。
「これはね、一度経験した記憶なんだ。前世の記憶っていうのかな。君もよく知ってるでしょ?」
知ってる。知ってるよ。この声も知ってる。なんで……。
「なんでグレンズ先生がそんなこと知ってるんですか」
重い身体を振りかざして、後ろを見た。また木霊みたいに響くと思ったけど、自分の声はいつも通りだった。
そしてそこにいたのは、やっぱりグレンズ先生だった。
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