三人の意外なきっかけ
一瞬の沈黙を破ったのは、リッキーの快活な声だった。
「いや、いきなり他人の好きな人バラすなよ! ひでぇ友だちだな」
「あんたのせいでしょ!」
お腹の底から一気に怒りが突き上げて、思い切り怒鳴ってしまった。そうだ、リッキーのせいだ。全部全部、リッキーが悪い。
「あのさ」
私たち二人のやり取りを、宮崎くんがさえぎった。
「真美ちゃんがオレのこと好きって、間違いじゃない? だって、あの人、前に三組の奴のことが好きだって、オレに相談してきたよ」
宮崎くんはまん丸になった目を私に向けている。ああ、この人は本当に天然たらし野郎だ。相談しているうちに、おおらかで柔らかくて無邪気なこの雰囲気にやられたな、真美ちゃん。私がそう思っている横から、珍しく上島くんが口をはさんできた。
「それ、オレたちが仲良くなった時と同じパターンなんじゃない?」
「何、それ?」
胸に好奇のあかりが灯って、私は上島くんに尋ねた。私以外のみんなも、上島くんを見ている。清水さんは興味津々という感じで、宮崎くんとリッキーはちょっと目を細めて。上島くんはいきなり視線を浴びせられて、怯んだように口ごもった。でも、小さく息を吐くと、仕方なさそうにたどたどしく話し出す。
「去年、リッキーが転校してきて同じクラスになってさ、いきなりオレのことひどいいじり方してきたんだ……その、『顔面障害者』って」
その話は知っている。でも、それが三人が仲良くなるきっかけだったとは、思いもよらなかった。私はちょっと身を乗り出して、上島くんを見つめ続けた。けれど、次に話し始めたのは宮崎くんだった。
「かみっちょ、もともと顔がどうこうってことで、周りから変にいじられててさ。陰でキモいって言う奴もいたんだけど、あそこまではっきり大騒ぎしたのはリッキーだけだったんだ。それで、あんまりひどかったから、みんなかみっちょの顔なんかよりリッキーの方に引いちゃってさ。転校してきたばっかなのに、先生にもめちゃくちゃ怒られてたし。それでもやめないから、かみっちょが困ってオレに相談してきたんだ。リッキーにああいうのやめてほしいんだけど、上手く言えなくて困ってるって。で、二人でいろいろ話してる間に、まずはオレたちが仲良くなってさ」
宮崎くんはそこで言葉を切って、上島くんへ視線を向けた。目が合うと、彼はニコッとして続ける。
「それで、オレ、リッキーに言ったんだ。かみっちょのこと『顔面障害者』って呼ぶの、やめてあげなよって。そしたらリッキーは――」
「もういいよ。やめろ」
リッキーが強い口調で話し続ける宮崎くんを止めた。
「かみっちょの言ったことはもう分かっただろ? かみっちょが相談してるうちに和真と仲良くなったのと同じで、吉村さんも相談してるうちに和真のこと好きんなっちゃったってことじゃん」
一番いいところで話にピシャンと幕が下ろされてしまった。すごく気になって、心がソワソワソワソワしてくる。宮崎くんもさえぎられて不満だったのか、ちょっと口を尖らせた。でも、彼はすぐに笑みを広げる。
「好きって言われるの、嫌じゃないけど、どうしようかなー。オレ、真美ちゃんのこと、特別どうとも思ってないからなー」
「今、どうするかなんて決めなくていいよ。それよりさっきの話の続きは?」
私が言うと、リッキーは大きな声を出した。
「だから、それはいいっつってんだろ!」
びっくりして見ると、リッキーの目には怒りの色が宿っていて、私の好奇はみるみるしぼんでしまった。仕方ない。また今度、リッキーのいない時に聞いてみよう。
しばらくの間、宮崎くんは一人で、どうしようかなー、どうしようかなーと言っていた。彼の様子を横目に、私たちはリッキーのおばあさんが出してくれたメロンにかじりつき、明日の宿題やってないとか、今日やるドラマがどうとか話した。そうするうちに宮崎くんも、まぁ、いっか、とこぼし、目の色を変えて自分の前に置かれた手付かずのメロンに取りかかった。
リッキー、なんであんなに怒ったのかなぁ。
熱いお湯に体を沈め、湿った白い湯気が流れていくのを眺めながら、私は考えていた。何か知られたくないようなことだったのかな? でも三人が仲良くなるきっかけだったなら、そんなに悪い話でもないはずなんだけどなぁ。現に、話そうとした宮崎くんは全然普通だったし。頭の中でブツブツつぶやいてすぐ、私は、いや、と首を振った。宮崎くんは極端に空気が読めない。リッキーが知られたくないと思っている話を、そうとは気づかないでペラペラ喋ってしまうことも、もちろんあるだろう。考えていると、心が期待に膨れ上がってきた。リッキーが嫌がったとしても、宮崎くんならうっかり口を滑らせてくれるかもしれない。すごく意地悪だとは分かっているけれど、想像すると胸がワクワクしてきてしまった。
私は真美ちゃんの件をすっかり忘れ、リッキーのことばかり考えていた。けれど、学校へ行くと、私の貧弱な想像力では思いつかないような展開が待っていた。
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