数年後

「アレ、殺しにいこうよ」

 成長した「僕」だが、身分を偽る日々に終わりはない。

 定職に就くことはなく、強請、たかりによる稼ぎをおもな頼りにした。

「『アレ』?」

「ケラケラケラ」

 リップクリームを唇に塗るのは「死」。

 髪型はかつて同様ボブカットのままであるが……「僕」と同程度の身長を得ていた。

 豊かな乳房を掻く爪には紫色のマニキュアが塗られていた。

 鏡台の前。

 金色の首飾り以外一糸纏わぬ彼女は、鏡に向けて手招きをした。

 ベッドから這い出た「僕」は「死」に従う。

「昨日の『肉』。覚えてる?」

 首を傾げながら、人差し指を僕の右眼窩に押し込む。

 以前、つまらぬ賭け事に負けた故、そこにあるべき眼球はないので安心だ。

「覚えているよ」

 昨晩、彼女が選んだ客だ。

 そもそも仲介人は「僕」自身である。

 生活費等は「僕」の暴力のみで補えているが……「死」は自らの商売を尊び、辞めはしない。

 むしろ「死」は、彼女なりのを楽しんでいた。

「どうやって殺す?」

「脳を抉って」

 断言した。

「生きたまま脳天を割って、中に詰まっている血肉を抜き取るの」

「うん」

「その後、首を落として」

 どこか「鬼」の殺し方を想起させる手段である。

「僕」は微笑む。

「いいよ」

「必ずやってね。私が見ているから」

「うん」

「あいつ、終わった後……帰り際になって非難と説教をしてきたの。この私に」

「分かった」

「仕事について。『ヤメロ』だの。『マチガッテイル』だの。指をさしながらね。許せないでしょう」

「うん」

「だから、すぐに殺さなかったの。君に聞いてほしかったから」


      〇


 十二時間ほど二人きりになった。


      〇


 深夜の一時。


 決行だ。

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