匂ふ梅が香

作者 吾野 廉

58

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★★★ Excellent!!!

 私はあまり史実に基づいた歴史小説を読まないので、後の新選組をつくる人たちの名は知っていても、どんな人物だったのか、どういう生き方をしたのかはよく分かりません。
 しかしこの作品を読めば、幕末に生きた人々がどんな思いで生きようとしていたのかを、垣間見ることが出来ると思います。
 また新選組の題材が多くあるなかで、「芹沢鴨」をピックアップしたものは中々ないのではないでしょうか。(名前をほとんど聞いたことがないので、そう思うだけかも知れませんが)
 歴史的背景はもちろんのこと、当時の言葉遣いなども良く調べられていますし、その上文章もきちんと練られていて良質な作品であると感じます。

 新選組のお話が好きな方はもちろん、そうでない方も是非お読みください。

★★★ Excellent!!!

新撰組の局長といったら近藤勇。
でも新撰組が有名になる前にもう一人局長がいたことをご存知でしょうか。

その人物『芹沢鴨』を、共に過ごした女性の視点で重厚に描かれています。
そして彼らの運命を握る沖田総司がどう振る舞うか。

歴史の中に埋もれてしまった一ページ。
その中には、覚悟をもった男女の生き方が詰まっています。

★★★ Excellent!!!

全五話、一万文字未満の短編の中に、お梅さんという一人の女性の悲喜こもごも、人生が詰まっています。
物語は新選組初代局長・芹沢鴨とその愛妾お梅の恋を描いていますが、新選組を知らなくても、十分楽しめると思います。
新選組好きな人にとっては、斬新な芹沢像に触れられる、興味深い作品。

すべては、安定した高い筆力を誇る作者様の成せる技。吾野廉さん作品の入門にもおすすめです。

星だけつけっぱしで本文をずっと書きそびれていましたが、別件でのお祝いの気持ちも込めて書かせていただきました。遅くなってしまってごめんなさい。。


何のお祝いかって?それは吾野さんのTwitterをチェックです!笑

★★★ Excellent!!!

舞台はシンプル、長回しの映画のようなシーン。

背景は緊迫していて不穏な空気が漂っているのに、穏やかに見ていられるのは、そこに唯一といえる確かなもの、ふたりの情愛が描かれているからかもしれません。

……とここまで書いて、これは映画ではなく小説のレビューだったことを思い出しました。作者特有の語り口が、私にはいつも美しい映像を見せてくれるのです。今回は、あの甘くて少し酸味のある、涙腺を刺激するような梅の花の香りまでが漂ってきました。

★★★ Excellent!!!

「鹿恋」という職位のようなものに恋という字が使われているのみで、(わたしが見落としていなければ)恋という字は見当たらない。
しかし、ここに描かれているのは、恋そのものだ。恋以外のなにものでもない。
匂わせる文章は、そのタイトルを体現している。「けったいなこと」と突き放すそれが、奥ゆかしく趣き深い。

★★★ Excellent!!!


時は幕末。
会津藩の御預かりとなった壬生浪士組のひとり、芹沢鴨は……あ、新撰組を詳しく知らない方も、ここで回れ右しないでほしい。
これは時代を超えてわたしたちの心に響いてくる、普遍的な恋の物語である。

乱暴者で粗忽者、短気で女好きで大酒飲み、だが剣の腕は隊士の中でも一流。
資料と言い伝えではそのように知られる芹沢鴨に、令和の時代を生きる若い作者は新たな息吹を吹き込んだ。

「あんたはん、寂しいお人や」

芹沢の愛妾で、隊士による暗殺時に最期を共にした、この物語の主人公であるお梅の台詞である。
ふたりが出逢い心を通わせてゆく様を、作者は丁寧に、まるで幕末の時空から切り取ってきたかのようにいきいきと描く。

悪漢として知られる芹沢の人物像を踏まえつつも、作者はお梅の視点を通して別の解釈を示す。それはまるで古いモノクロ写真にカラー補正を施すように鮮やかに、軽やかで無駄のない筆致で。

芹沢の死に際にはお梅の他にも平山五郎や平間重助、彼らの馴染みの芸妓たちが傍で寝乱れていたとされており、ふたりきりでしっぽり愛し合えたのかどうかはわからない。
闇討ちはスピード勝負だ。刀に手をかけた沖田総司とお梅が会話をする暇があったとは、頭の固いわたしには考えにくい。

それでも、こんな風に描かれたら信じたくなってしまうではないか。
隊士たちに疎まれ、嫌われ、恐れられてきた芹沢鴨が、ひとりの寂しい人間として、真実の愛を知る男として死んでいったと。
そうであってほしいと願ってしまうではないか。
こんなのずるい。――これは褒め言葉だ。
己の数奇な運命をどこか他人事のように見つめた、印象的なモノローグ。それをぽつりと響かせてスッと暗転するような幕引きも見事だ。

蛇足ながら、タイトルは芹沢鴨の詠んだとされる
「霜雪に色よく花の魁て散りても後に匂う梅が香」
という歌から引いたものであろう。
梅は芹沢の… 続きを読む