第五十八話 聖戦舞祭:決着後の仲直り1
「喰らうものですかーー!!」
凄まじい速度で眼前に迫ってくる大きさ凡そ8-9メートル程の巨大な炎の球を前にしても動じずに、さっきの驚愕状態から回復した有栖川さんは毅然として表情を浮かべながら、優れた反射神経の伴う状況判断能力ですぐに回避動作として、上へと跳躍した。
でも、彼女......一点について忘れてないか?
「---!?くー!」
「もう忘れたのー!?有栖川ー!逃げられないわよ、あたしの炎球から!」
そう。赤色中燃炎球(ダリスターズ)は中級の炎系現神術で、下の階梯である<赤色小燃炎球(ダリス)>と同様に、追尾可能な能力がついている。
なので......
バコココココーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
あんな巨大な炎球にまで化けた赤色中燃炎球(ダリスターズ)は本来のサイズと規模だけでは到底なしえないような大爆発を上空にて起こさせたのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ.............
さっきのエレンのアロナリーズ程の規模のあった爆発にまで及ばずとも、それなりに物凄く恐ろしいまでの大爆発が発生し、舞台から400メートルも上の上空を炎の大海が埋め尽くし包み込みまくっている。もしその大炎海による焦熱地獄が空ではなくそこの舞台上で発生されたら、きっと舞台の全敷地を巻き込むだけじゃなく、そこから以降でも......たぶんここの俺たちが観戦している<待合室>のすぐ手前にまで嘗め尽くしに到達するだろう。
そうなったら、いくら梨奈が自身の発動した現神術が自分の神使力が含められてるお陰で身体が精神があまりダメージを喰らえないからって、あんな規模の炎海だと、すこしは巻き添えを被っても不思議ではないだろう。まあ、それが普通のヴァルキューロアなら、の話なんだけど.......。
なぜかというと、我々<神の聖騎士>としての権能が新たに大母神から授けてもらったからだ。1週間前ぐらい....かな、夢の中で説明されたのって。その新しい権能とは、<自身発動術式無被害(グラングロボッス)>といって、<神の聖騎士>が自分の発動した攻撃系の現神術から一切の影響や被害を受けずに済む効果を持つ。
なので、たとえ自分の発した現神術が近くに爆発を起こしたり、敵の能力で反発されて元の術者に返り届けられてもその影響から一切のダメージを受けないようにできる権能なのだ。つまり、最初の試合でネフィールが自分の発動した<巨大暴激恐慌電光落雷一条(ノルトゥゲゼッドース)を自身で受けて多少はダメージが入ったと違って、梨奈ならその権能がある限りあの炎の海に焼き付けられても無傷だろう。なにせ、自分の発した赤色中燃炎球(ダリスターズ)だからな。
確かに、<神の聖騎士>同士の戦いではお互いの<聖騎士としての権能>が向こうに効かないはずだが、それはあくまでも他の聖騎士に対しての攻撃が適応される定めだけで、術者本人に効かないわけではない。なので、<自身発動術式無被害(グラングロボッス)>という自らの術で傷を負ったり、影響を受けたりはしない。
で、いくら強くなった有栖川姫子といえども、あんな規模の大爆発に巻き込まれたのだ。
そこからなんとか耐え忍べて戦えるような状態であるはずがない。
つまり、あれで終わりだな、有栖川さん。
それにしても、どうやら、さっきの俺の予感が当たったなぁ。
なにせ、梨奈のやってのけたあんな出鱈目すぎる奇跡みたいな決定的な反撃はーー
「敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)じゃったな、あれ。」
そう口にしたのは他でもなく、この国が元首、ネネサ女王陛下である。眼下にある舞台や遥か上空にある炎の海を交互に見まわしていれば、そう言いながら前の席に腰かけているローズバーグ会長に視線を移す。
「そうだな。敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)は反射・反撃用の特殊な現神術で、無詠唱が可能なものだ。それは敵からの必殺技を敢えてその身に引き受けても絶対に死なない自信がある者が使いたがる技だ。なぜなら、<敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)>の真骨頂は、発動したら相手の必殺技を受けて瀕死状態になった後に、受けた傷から半分回復と同時に自らの選んだ反撃用の<現神術>で以て、普段の威力より5倍の威力が出て相手を襲うのだ。この場合、森川君の選んだ現神術は<赤色中燃炎球(ダリスターズ)>で、5倍威力が出ている訳だ、さっきの巨大な炎球とあそこの空の大炎海を見る限りで証明済みだな。」
と、続いた会長。
「で.....でも.....術式の効果が出る条件は、(相手の攻撃を受けてから瀕死状態になる)ということ.....なんですよね.....?つまり......」
リシェールのか細い声で聞かれた女王は、
「うむ。つまり、攻撃を受けても瀕死状態にならなければ、<敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)>の最大な効果である<選択した反撃用の現神術が5倍の威力になる>という結果が完全に発揮されないというわけじゃのうー。」
「ええ。その条件が満たされなければ、五倍反撃という効果が成り立たないという訳だ。」
.............
ボックス状の特等席から<待合室>へ場面転換:
「<敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)>だとーー!?」
「そうですわ。相手の攻撃に対して働きかけるあれは<神の聖騎士>としての権能ではなくて、極一部の適正あるヴァルキューロアだけが使用できる特殊な現神術なのですわ。」
「にしし~。梨奈ちゃんとたくさん練習で戦ってきたわたしが見てきたんだから、やっぱりそれに適正があってと見込んだ甲斐があるんだよね~~~。なので、それれの習得について勧めたわけだよ。」
春介の問いに答えたのはエレンなのだが、
「これで、勝負ありだな、遼。」
そう続いた俺は、遼の狼狽してる顔を見据えてから、舞台上に視線を戻した。
シュウウウウウウウウ.................
燃え盛る炎の海の遥か上の空から、一つの影が落下してくるのが見えた。
シュウウウウ.........
そう。
力なく命のないラグドールみたいに急降下で落ちてくるのは他でもない、有栖川さんなのである。
_____________________________________________
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます