第四十四話 聖戦舞祭:決め手、1

エレンとローザの試合が進行中の間に、グルゴラ神殿にて:


とんとん、とんとん!


「入っていいですよー!」


執務室の中で、神職の位が高い者だけが身にまとえる、煌びやかな黄色いローブを着ている一人の青色なセミロング髪の少女が奥でデスクに座りながら、ドアをノックしてきた何者かに対して、入る許可を示すようにドア方向に向けて声をかけた。


「畏まりました、ユリン様。では、ご指示に従って、入らせて頂きますね。」


カチャー。


ドアを開けて入ってきたのは、やや平凡な感じがして見映えが欠ける純白のローブを着ている20代後半の女性で、口ぶりからすれば少女の部下のようだ。


「直に私に訪ねてきたご用件とは....「あれ」のことですか?」


「はい。そうでございますよ。もう直ぐ尻尾が掴めそうになるので、その時は<ネズミのトラップ>を仕掛けにいきますね。」


「そうして下さい、ニルナさん。我が国には彼らのような不穏分子を一も早く、排除しておく必要がありますから、その時がくるまでに彼らに悟られないように普段通りに振舞ってほしいです。」


「仰せのままに、ユリン様ー!」

恭しく頭を下げるニルナと呼ばれた神官はその後、すぐに退室していったのである。


..............


「ここの執務室には私が常に<聴覚遮断波長(ペルメドン)>という現神術を発動しているから外からの盗み聞きや盗聴器等からの心配がなくて安心して部下と話せていいですね。 あの件については........すべてが上手くいくといいですね.......。だって、一匹や二匹を退治しただけで、それで終わりって訳ではないんですから。寧ろ、一度で彼らの今までの行動が我々からすれば筒抜けだったってことが向こうが知れば、次はどんな複雑でもっと密かな活動を打ってでるかもしれませんから。そうなれば...........。」


どこか不安まじりに、予想の出来ぬ未来に対して、憂いを深くしていくユリンなのである。


「それにしても、それだけで女王陛下が殿下に真実を教えて上げてないだなんて........。」


ふと思い出したかのように、ユリンはあの日、ネネサ女王から聞かされた、<神の性騎士>に関する衝撃的な話について、とある一点に思考を向けている。


そう、あの日に遡ると......


「では、女王様。何故エレン姫殿下にそんなことについて教えて差し上げないんですかー?殿下は陛下の後継者となって、次期の女王となる娘でもありますから、何故いまの内にー」


「じゃって、まだそんなことについて話すのまだ早いからのうー。まあ、いずれ教えてやるんじゃよー。その時がくれば、エレンや仲間たちも彼らに対して、信頼が深まっていざと言うときに、身体の密なる触れ合いが必要となっても、抵抗感が薄くなるじゃろうよ。ほほほう.........」


陛下の発言の意図が分かったユリンだったけど、それにしても早い段階にその事実を伝えなければ、緊急事態が起こる際に、力の増幅が必要だったら、彼らが<そういうこと>に及べるかどうか未知なる予想がいっぱいなので、ずっと不安がってきた。


「まあ、私だって最初に聞いた時はそれについて想像したら、ちょっと頭が熱くなって、恥ずかしいなあって思っちゃったりしてましたけど、そうすることでしか上級な神滅鬼に対抗できない方法ですから...........。」

なので、はあーとまたもため息をついているユリンなのである。


____________


「はああああーーーーーー!!!!せい!せい!せい!せい!せい!せい!せい!せい!せい!せい!」


神使力を迸らせながら、一分の間で<裂風纏斬波凶刃(ワタガルーシェリタス)>が纏われた<エイン・シルファース>を恐ろしいマシンガンのごとく数百回も連続的な突きを繰り出したローザだったが、


カン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!

そのすべてがエレンの<ソヒー・ヨセミン>によって、受け止められていたー!


「く--!はっー!」


諦めたのか、ローザは一瞬で遠く後方へと飛び下がっていったー!


「........他の学園生なら、<現神戦武装>があれで跡形もなく消滅させられて決着がつきましたけれど、3位である殿下ならやはり、一欠けらも刃こぼれを起こしてはおりませんね。」


「当然ですわ。わたくしの<ソヒー・ヨセミン>は確かに、上質な素材と高度な現神術が組み合わさって作り上げられたような優れものでもありますけれども、わたくし以外が扱ったら、きっと貴女の攻撃を凌げ切れずに、折れていましたわね。」


「あいかわらず、膨大な神使力量をお持ちになられたでございますね、殿下。」


「でも、そろそろこの試合、終わらせにするべき時が来ますわ。」


そう声を発したやいなや、大剣の切っ先をローザに向けて、その先端近くについた銃口を突きつけているのであるー!


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