37話 文化祭③

 注文してから数分が経ち、まずは特製パフェがテーブルに運ばれてきた。

 ふんだんにあしらわれたホイップクリームや惜しげもなく使われた大粒のイチゴを見た瞬間に心が躍り、層を成すアイスクリームやジャム、チョコフレークも見るからにおいしそう。

 カップルメニューを待つという選択肢もあるものの、私と萌恵ちゃんは目の前に悠然と君臨する甘味の誘惑に逆らえず、スプーンを手に取った。


「「いただきますっ」」


 と、声をそろえて言い、パフェの完成された美しさを崩すことに一抹の罪悪感を覚えつつ、それを容易く掻き消す欲求に後押しされ、躊躇することなくイチゴとクリームを口に運ぶ。


「~~~~っ!」


 特製という言葉には否応なく期待を抱くものだけど、それを裏切らないどころか平然と上回る逸品だ。

 全身の細胞が歓喜しているとすら思えるほどの、圧倒的おいしさ。

 私と萌恵ちゃんは一口食べては瞳を輝かせ、隣を向いて顔を見合わせる。


「萌恵ちゃん、クリーム付いてるよ」


 勢いよく食べるあまり、頬にクリームが付いてしまった萌恵ちゃん。

 私は漫画のような展開にクスッと小さな笑いを漏らし、微笑ましい光景を目に焼き付けながら指でクリームを拭う。

 そして、あらかじめ決まっていたかのように、微塵の迷いも抱かずクリームの付いた指を自分の口へと持って行った。


「ん、おいしい」


 萌恵ちゃんの頬を経由したことにより、クリームのおいしさが何乗にも膨らんでいる気がする。

 気のせいだということは分かっているけど、少なくとも私の体がそう感じたのは紛れもない事実だ。


「ありがと~。ところで、真菜も付いてるよっ」


 どこだろうかと触って確かめるより先に、萌恵ちゃんが動く。

 同じように指で拭い取ってくれるのだろうかという期待が生まれ、私は自分でどうにかするという選択肢を捨ててジッと待つことにした。


「ぺろっ。んふふっ、ごちそうさま~」


 結果、期待を通り越して夢なんじゃないかと疑ってしまうほどの事態に至る。

 クリームなのかジャムなのか、そんなことは些細な問題だ。

 重要なのは、私の頬に付着したそれを、萌恵ちゃんが舌で直接舐め取ったということ。

 さすがに照れてしまったらしく、ほのかに赤面する萌恵ちゃん。その様子がまたかわいらしい。


「あ、ああ、あり、ありがと……っ」


 私は平静を装うことに失敗しつつも、どうにか感謝の言葉を述べる。

 特製パフェと甘いやり取りをじっくり堪能しながら、味覚的にも精神的にも甘党でよかったと心から思った。

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